ランス:ルーブル美術館別館の美しさを知る

ルーブルはフランスを代表する国立美術館。
世界最大級のコレクションを求め訪れる人々が絶えない。
しかし、パリのルーブルには35万点と言われる全収蔵品の10%しか展示されていない。
そのため地域活性化を目的に、フランス北部ランスに別館を作り展示する。
厳選されたコレクションは国・文化を超え時系列で展示される”時のギャラリー”というユニークな方法が取られ、5年ごとに全ての作品が入れ替わるところに特徴がある。

世界中の人を魅了するパリ・ルーブル美術館。大宮殿の起源は12世紀末まで遡ります。
その収蔵品は35万点を超えると言われ、レオナルド・ダ・ヴィンチのモナ・リザ、ミロのヴィーナス、サモトラケのニケ、バビロンの王のハンムラビ法典などを筆頭に、中世~1848年までの芸術品を鑑賞することができます。

ルーブル美術館がフランスを代表する美術館であることは誰もが認めるところですが、それだけにとどまらず世界を代表する美術館の一つと言えるのは確かでしょう。

そのルーブルに別館が存在することをご存知ですか?
2012年12月4日、フランス北部の街ランスに開館しました。
ルーブル・ランスは、開館2年目にして年間入館者数150万人を超えています。


ランス駅から20分ほど歩くと、突然現れるガラスとアルミの平屋の建築物。
周りの自然に溶け込んでいる近代的なデザインは、パリのルーブルとは全く対照的です。
パリのルーブルを訪れた人が次に行きたいルーブル・ランス、ベルギーからフランスに入ってまず訪れることのできる美術館でもあります。

この記事では、パリとその周辺以外の美術館で2014年の入館者数1位にもなったルーブル・ランスについて詳しくご紹介していきましょう。


ルーブル・ランスはフランス北部の炭鉱の街に誕生

2003年、ルーブル美術館はこれまでになかった形の別館の着想を始めます。最大の目的は、「地域活性化」。
これまでルーブルがしてきたコレクションの貸し出し・ノウハウの提供とは全く異なる方法、”別館を地方に作る”ことを決定したのです。

パリ北駅からTGVで1時間10分ほどのランス。
ベルギーとの国境に近いランスは、戦争と炭鉱の廃止により荒廃した街でした。

フランス革命さなかのルーブル美術館創立は、フランスの国家全体のために役立てられるよう作られたものであり、ナポレオン時代の内相はすでにルーブル美術館が地方に負う役目について言及していました。
2012年、まさにランスの地でそれが現実となったのです。


SANAAによる「透明感」のある建築

ルーブル・ランスは、金沢21世紀美術館やNew Museum of Contemporary Artなど多くのプロジェクトを手がけるSANAA事務所の妹島氏と西沢氏が担当しました。

一歩、エントランスホールに足を踏み入れると大きなグラスウィンドウに囲まれた館内に、常設展、企画展、美しいカフェやショップがゆったりとしたスペースの中に位置しています。「河に浮かぶ舟がお互いにそっと寄り添ってつながった」と5棟の建物を表現しています。

さて、ここでメインとも言える常設展「時のギャラリー」をご紹介します。


時のギャラリーの魅力は無柱空間とユニークな展示スタイル


ルーブル・ランスの中心となるのは「時のギャラリー」。
3000㎡のゆったりとした空間は、天井からの光を取り入れるスタイル、全く柱が使われていない仕切りの無い空間になっています。
そのゆったりとした空間に身を置き、一点一点の作品とのコネクションを感じられるのはルーブル・ランスならではの醍醐味でしょう。

それでは、時のギャラリーのコレクションとはどんなものか見てみましょう。
205のコレクションは、古代の作品が70点、中世の作品が45点、そして近代の作品が90点展示されています。
ラファエル、エル・グレコ、レンブラントやボッティチェリもあり、ランスの地においても名作を鑑賞できることを実感します。全てが白色の空間の中、美術史に残る数々の貴重なコレクションがとても映えており、アートに包まれていると実感できるのです。

展示と言えば、ルーブル・ランスの最大の特徴とも言えるのがその展示方法です。
一般的に、コレクションはその国ごとに展示されています。
ところが、ルーブル・ランスではその名も「時のギャラリー」と言うだけあり、時系列での展示となっています。

ギャラリーに入って右手南の壁には、紀元前3500年頃~19世紀中頃の年表が刻まれており、彫刻、絵画や陶器などの実際のコレクションもそれぞれの時代に合ったものが展示されています。
古代メソポタミア、古代ペルシアが古代ギリシャや古代エジプトと隣り合わせに展示されている状態は、まさしく美術史のみならず世界史と言ってよいでしょう。

このように、ギャラリーの奥へ進むほど現代に近い作品となっていき、5000年の歴史を一目で観ることができるのです。
展示されるコレクションも数年ごとに入れ替えられるため、永久的なものでなく時の流れがギャラリー内に漂っています。

次に、時のギャラリーの先にある「パヴィヨン・ヴェール (ガラス館)」について紹介しましょう。



パヴィヨン・ド・ヴェール (ガラス館)は2つの別の円柱型空間


時のギャラリーで近代のコレクションを鑑賞し終えると、その先にパヴィヨン・ド・ヴェールがあります。

緩いカーブの美しいガラスウィンドウは床から天井まであり、外の緑がとても綺麗に見えます。
中心には別の円柱型の場所があり、その少し暗めの空間にも作品の展示があります。
人々は中央にあるベンチに座り、鑑賞をしながら休憩ができる居心地の良さを楽しめます。

パヴィヨン・ド・ヴェール では、地元の美術館遺産の豊かさを表現することを目的としており、現代美術の展示にも積極的な面がうかがわれます。

パヴィヨン・ド・ヴェールは1000㎡ほどの空間で、外の緑とリンクした美しい空間で作品を堪能した後は、また時のギャラリーへ戻ります。
近代から古代へ戻る中、人はどんな想いを持つのでしょう。

このように、パヴィヨン・ド・ヴェールは時のギャラリーと結びついているのです。

最後に、エントランスホールを見てみます。
ただの玄関ではない、街にとっての広大な公共スペースでもあるのです。


3600㎡の巨大なガラスでできたエントランスホール

こちらも大きなガラスウィンドウで囲まれ、透明感があります。
ホールの中央に浮いているように見える3メートルの高さのガラスの球の中では、主に公共向けのサービスが提供されています。
ローカルな人たちが自然に、また気軽に立ち寄れる公共広場となっているのです。

エントランスホール受付はもちろん、資料センターや書店もあります。
その全てがシンプルで美しいデザインです。


思わず立ち寄りたくなるカフェもあり、エスプレッソを買って座ってみれば、窓から炭鉱の山が見えます。
カフェにはフランスの美味しいスウィーツがたくさんありますが、その中で注目するのは”炭鉱ケーキ”です。
真っ黒な三角のケーキは、ランスがかつて炭鉱の街として栄えた歴史を表しています。
真っ黒なケーキをカットしてみれば、ラズベリー系のピンク色が可愛いムースが美味しいケーキです。
ランスならではですので、ぜひ試してみてくださいね。

このように無機質な空間、美術史、そして美術館の外にある公園が完璧に融合し全体がアートとなっているのがルーブル・ランスなのです。


ルーブル・ランスの各情報

ルーブル・ランス美術館 ( Musee du Louvre-Lens )

・住所:99, rue Paul Bert, 62300 Lens, France
・開館時間:月曜・木曜・土曜・日曜 9時~18時、水曜・金曜 9時~21時
・休館日:毎週火曜、1月1日、5月1日、12月25日
※2018年11月現在の情報です。

・行き方:パリ北駅からフランス国鉄に乗り、Lens駅下車。駅から無料シャトルバスがあります。
または、Lille駅からLens駅までは普通電車が通っています。


ルーブル・ランスはとても美しい美術館です。
この美術館に来たからには、見逃してはいけないとあれこれ足早にコレクションを観て回るのではなく、じっくりと時間をかけて一つ一つを自分のペースで観て回るスタイルを楽しみましょう。
その場に居るだけで心が高揚すること、そして穏やかになれること、この両感覚を感じられます。

パリのルーブル、いや他のどの美術館にもないルーブル・ランスならではの雰囲気。
それは名作が時系列で並んでいるだけでなく、ランスの街の歴史の流れが覆うその雰囲気そのものだと言えるでしょう。

ナポレオン時代からの地域活性化の構想が今、形になったルーブル・ランス。フランス北部を訪ねる機会には、ルーブル・ランスでぜひ芸術と歴史に浸る時間をとってみてはいかがでしょう。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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