ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス:神話や文学の女性を描いた画家

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスは、1849年に教皇領ローマで生まれた画家です。「ギリシア神話」や「アーサー王伝説」などに登場する女性を描いた事で知られています。特に「シャロットの女」や「オフィーリア」といった主題材を用いた作品と、それらに見られる幻想的な表現は、後の画家達に大きな影響を与えました。

■ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスとは

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスは、1849年に教皇領ローマで生まれました。父ウィリアム・ウォーターハウスとその妻イザベラは共に画家であったため、ウォーターハウスは幼い頃から芸術に囲まれた生活を過ごします。さらに、ウォーターハウスが5歳の時にサウス・ケンジントンへ引っ越しますが、この近くには当時設立されたばかりのヴィクトリア&アルバート美術館があり、益々芸術に触れる機会が増えていきました。父ウィリアムから絵の基礎を学んだウォーターハウスは、1870年に英国王立美術院へ入学します。

ウォーターハウスが初期に描いた作品は、アカデミックな物でした。特にローレンス・アルマ=タデマとフレデリック・レイトンの影響を受けており、その古典的な画風は、英国王立美術院の英国芸術家協会とダドリー・ギャラリーで展示される事となります。

英国王立美術院・夏の展示会では、1874年に制作した《眠りと異母兄弟の死》を発表します。この作品を制作したのは、わずか25歳の時でしたが、大変好評を得る事が出来ました。その後、英国王立美術院の展示会には1917年に亡くなるまで、ほとんど毎年招かれるようになります。

1883年には、美術教師の娘であるエステル・ケンワージーと結婚します。エステル自身も絵を描き、英国王立美術院の展示会に花の絵を出品するほどの腕前でした。残念ながら、夫婦の間に子供は授からなかったものの、お互いを画家として支え合う関係になっていきました。

1895年には、英国王立美術院の最高芸術院会員に選出、英国王立美術院評議会の議員も務めるなど、まさにイギリスを代表する画家となりましたが、1917年に67歳で死去しました。現在は、ロンドンのケンサル・グリーン墓地に埋葬されています。

■ウォーターハウスの作品

「ギリシア神話」や「アーサー王伝説」などに登場する女性を描いており、特にアーサー王伝説に登場する「シャロットの女」やハムレットの「オフィーリア」などを好んで選んでいます。そんなウォーターハウスの作品とは、どのようなものだったのでしょうか。主要な作品を中心にご紹介します。

(Public Domain /‘Ophelia’ by John William Waterhouse.Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

・《オフィーリア》1894年

本作品は1894年に制作されたもので、現在個人蔵となっています。
「オフィーリア」は、シェイクスピアの『ハムレット』という作品に登場し、ハムレットに恋心を抱く女性です。しかし、ハムレットに父を殺された彼女は、正気を失った結果、よじ登った柳の木から落下し、溺死してしまいました。ウォーターハウスは、オフィーリアを題材にした作品を1889年と1910年にも描いており、このテーマを好んでいた事が分かります。他にも、多くの古典主義、ロマン主義、ラファエル前派の画家達がオフィーリアを用いており、特にジョン・エヴァレット・ミレーの「川に浮かんでいるオフィーリアの絵」は、見た事があるのではないでしょうか。


(Public Domain /‘Hylas and the Nymphs’ by John William Waterhouse.Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

・《ヒュラスとニンフたち》1896年

本作品は1896年に制作された作品で、現在はマンチェスター市立美術館に所蔵されています。青い服・赤い帯の美青年ヒュラスが水を汲みにやってくると、若くて美しいニンフたちは彼を魅了しながら池の中へ引きずり込もうとします。これはギリシア神話の一場面で、この後ヒュラスの行方は分かっていません。

018年にマンチェスター市立美術館の学芸員達は、女性の裸が描かれた作品を公共の場に展示する事について議論を促すという試みを行い、本作品を展示から撤去しました。絵を撤去した場所は空けておき、そこに来場者の意見を書いたポストイットを貼ってもらう事になりました。しかし、撤去に対する批難が多く寄せられたため、1週間で元の展示に戻っています。

(Public Domain /‘Penelope and the Suitors’ by John William Waterhouse.Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

・《ペネロペと求婚者たち》1912年

本作品は1912年に制作された作品で、現在はアバディーン美術館に所蔵されています。主題となっているのは、ホメーロスの叙事詩「オデュッセイア」の一場面です。戦争のため、オデュッセウスが長く留守にしていると、彼の美しい妻ペネロペには108人の求婚者が押しかけてきました。ペネロペは、求婚者達に織物が完成したら1人を選ぶと言いますが、昼間織った物を夜に解くという作業を繰り返しながら、オデュッセウスの帰りを待っていました。本作品では、求婚者を相手にせず、黙々と機織りをするペネロペが描かれています。


(Public Domain /‘Sleep and his Half-brother Death’ by John William Waterhouse.Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

・《眠りと異母兄弟の死》1874年

本作品は1874年に制作された作品で、現在は個人蔵となっています。ギリシア神話の「眠りの神ヒュプノスと死の神タナトス」という兄弟を描いており、手前の人物には光が当たり、奥の人物には当たっていません。つまり、手前の人物は「眠り」、奥の人物は「死」を表していると考えられます。

本作品はウォーターハウスが初めて英国王立美術院に出品し、大変好評を得た作品だと言われています。ウォーターハウスは、実の弟を結核で亡くした直後に本作品を描いており、弟の死が創作のきっかけとなっているのかもしれません。また、その悲しみや死について考えた事が反映されているとも解釈する事が出来ます。

■おわりに

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスは、画家である両親の元に生まれました。父の教育を受けた後は、英国王立美術院へ入学します。その古典的な画風が好評を得て、イギリスを代表する画家になっていきました。ウォーターハウスが描く女性達は、「ギリシア神話」や「アーサー王伝説」に登場する架空の人物でありながら、どこかリアリティがあります。そこがウォーターハウスの作品に夢中になる理由なのかもしれません。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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