“満身創痍”の「たばこ業界」だが、世界的にみれば成長産業であり続ける希望がまだある

「たばこ」は、20世紀に紙巻きたばこが産業化し世界的に資本の集約が進んだが、1990年代以降、反たばこキャペーン、広告・販売規制、たばこ訴訟、課税強化、喫煙率低下などで先進国では〃満身創痍〃の状態になったものの、21世紀は新興国、途上国へのシフトが進んでいる。それでもヨーロッパでは女性市場が健在で、中近東やアフリカでは販売が大きく拡大し、特にアフリカは今後の人口増に期待が持てる。また、先進国で「電子たばこ」という新分野が伸びている。成長産業であり続ける希望はまだ、残っている。

先進国から新興国、途上国にシフトする理由

植物の「たばこ」は南米アンデス山脈が原産で、16世紀、南北アメリカの先住民がそれに火をつけて吸っているのを来航したスペイン人が見つけ、ヨーロッパにもたらした。スペイン語の「Tobacco」は、たばこを指す世界共通語になった。
たばこは100年たらずでアフリカや、アジアでは中国、日本にまで広まり、人類共通の嗜好品になった。葉を噛む噛みたばこ、匂いを嗅ぐ嗅ぎたばこ、葉で巻いて吸う葉巻、紙で巻いて吸う紙巻きたばこ、刻んだ葉を入れて火をつけて吸うパイプやキセル、中近東独特の水たばこなど、世界各地で多種多様なたばこのたしなみ方が生まれた。


9世紀末、アメリカで紙巻たばこの高速巻上機が発明され、機械による大量生産、産業化が始まった。20世紀には英国を中心にヨーロッパでも紙巻きたばこが普及し、現在は箱入りの紙巻きたばこが世界の消費量の大部分を占める。資本の集約も進み、アメリカや英国や日本にはフィリップ・モリス、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ、インペリアル・ブランズ、R・J・レイノルズ、日本たばこ産業(JT)のような多国籍の大手たばこ資本(国際石油資本にならって「たばこメジャー」と呼ばれる)が形成された。
WHO(世界保健機関)の2016年の統計によると、世界のたばこの年間消費量は紙巻きたばこ換算約5兆7000億本で、その内の約4割にあたる1兆9325億本が中国で消費されている。中国の1980年の消費量は1兆6056億本だったので、その市場は36年間で20.4%拡大した。FAO(国連食糧農業機関)の推計によると中国はたばこの葉の世界最大の生産国で、国営企業の中国烟草総公司が販売する国産たばこが国内シェアをほぼ独占している。

なお、人口が約13億人で約14億人の中国と肩を並べ、たばこの葉の世界第2位の生産国(FAOの推定)でもあるインドの喫煙率は男性20.6%、女性1.9%で、女性は中国と同率ながら男性は中国の48.4%の半分以下しかない(WHO「World Health Statistics」2018年)。インドは中国ほどの市場規模になっていない。インドよりはむしろロシア(人口約1億5000万人、男性喫煙率58.3%で6位)のほうが現状たばこメジャーにとっては「稼げる市場」で、日本の日本たばこ産業(JT)が約40%の販売シェアを握っている。では、ヨーロッパ、北米、日本のような先進国市場では、たばこはどうなったのか?ヨーロッパではかつて薬効さえもうたわれたたばこだが、20世紀後半になると一転、火事の原因になり健康に害を及ぼす「悪役」とみなされるようになる。
中毒性、発がん性、心臓病のリスクなどが医学的に証明され、先進各国ではパッケージや広告にたばこの有害性の表示を義務づける。1988年、国際連合は毎年5月31日を「世界禁煙デー」と定め、2005年、たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(たばこ規制枠組条約)が締結された。

ヨーロッパは1980年にはまだ、紙巻き換算で1兆7136億本が消費される世界最大のたばこ市場だった。ヨーロッパ各国を転戦し絶大な人気を誇る「F1グランプリ」はたばこメジャーにとっては絶好の宣伝媒体で、80~90年代のF1マシンの車体には「キャメル」「マルボロ」「ジタン」「マイルドセブン」などのロゴマークが大きくペイントされ、各チームに豊富な資金を供給していた。

だがEU(欧州連合)が域内でのタバコ広告規制を強化したため、現在たばこ会社はF1からほとんど撤退した。WHOのたばこ消費量統計によると、1980年から2016年までの36年間でヨーロッパは33.4%も減少し、市場規模は中国一国に追い抜かれた。
南北アメリカのたばこ消費量は36年間で43.7%も減少した。アメリカはたばこの葉の世界第4位の生産国(FAOの推定)でありながら、FDA(アメリカ食品医薬品局)が1990年代にたばこの広告・販売規制案を作成。1996年、クリントン政権は紙巻たばこと無煙たばこの子供と青少年への販売・広告規制規則を公布した。その施行は見送られたが、この頃から「たばこ訴訟」がたばこメジャーに打撃を与え始める。
フィリップ・モリス、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ、R・J・レイノルズなどは喫煙者やその遺族から集団訴訟で訴えられては次々と敗訴するようになり、「懲罰的賠償」と呼ばれる何十万ドル、何百万ドルもの高額賠償判決が続出した。2014年にはフロリダ州の陪審裁判でR・J・レイノルズが236億ドルというケタ違いの賠償金支払いを命じられている。全米50州政府も公的医療費の返還を求める集団訴訟を起こし、たばこ各社との間で1998年、2060億ドルを25年間の分割で支払う和解が成立した。そうした巨額の賠償金支払いは各社の業績を悪化させた一方で、陪審員を味方につけてたばこメジャーから高額賠償金を勝ち取った弁護士は大いに名をあげ、一部は政界に転身した。
ヨーロッパ、アメリカの政府当局のたばこへの厳しい規制、巨額の賠償金判決が続出する訴訟リスク、喫煙率やたばこ消費量が減り続ける市場、さらにたばこ税の重税化から逃れるように、たばこメジャーは先進国以外の地域に活路を求める。タバコの消費量は過去36年間のうち中国で20.4%増、東南アジアで24.4%増、東地中海地域(中近東)で65.3%増、アフリカで52.0%増となっている。たばこの消費構造はかつての先進国中心から新興国、途上国へ大きくシフトしているのである。

有望なヨーロッパの女性、中近東、アフリカ

「新興国、途上国シフト」と言っても、先進国にもたばこの有望市場はまだ残っている。それは「ヨーロッパの女性」だ。
WHOの「World Health Statistics」(2018年)によると、男性の喫煙率が高い国のランキングでは東ティモールの78.1%を先頭にアジア、中近東、アフリカ、旧ソ連圏、中南米の国々が並び、30位までにEU加盟国は11位のキプロス、14位のギリシャ、17位のラトビアの3ヵ国しかない。ところが、女性の喫煙率が高い国のランキングは30位までにEU加盟国が19ヵ国もひしめき、44.0%で1位のモンテネグロ(旧ユーゴ)などEU非加盟国も含めるとヨーロッパは23ヵ国もある。フランス10位(30.1%)、ドイツ14位(28.2%)とG7(主要先進国)もあり(英国は34位、イタリアは35位)、EU本部があるベルギーも19位(25.1%)にランクしている。女性の喫煙率の世界平均値が6.2%しかないのを考えれば、「ヨーロッパの女性はたばこ好き」と言える。
たばこメジャーも女性をターゲットに、低タールのライトタイプのたばこ、女性好みの香りを配合したたばこなどを発売して需要のさらなる取り込みを図っている。
だが、それにもまして有望なのは、過去36年間で65.3%増になった東地中海地域(中近東)と、52.0%増になったアフリカという2地域だろう。この地域で多数派の宗教であるイスラム教では飲酒は禁じてもたばこには寛大なので、宗教上の制約は小さい。
WHO調査の男性の喫煙率を見ると、4位にチュニジア(65.8%)、9位にレソト(53.9%)、12位にコンゴ(52.3%)、19位にエジプト(50.1%)、25位にモロッコ(47.1%)が入っている。ちなみに2億6400万人の人口を擁する東南アジア最大のイスラム教国インドネシアは76.1%で、世界第2位だ。インドネシアはたばこの葉の世界第6位の生産国でもある。
もっとも、イスラム社会は女性の喫煙には好意的ではないようで、WHOの調査で女性の喫煙率が10%を超える国は社会の西欧化が進んだトルコの14.1%(49位)しかない。たばこメジャーが販売拡大のターゲットにするのはもっぱら男性になりそうだ。
WHOは、2000年は26.9%だった世界全体の喫煙率は、2025年には17.3%(男性30.0%、女性4.7%)へ低下すると推測している。だが、喫煙率が下がっても世界の人口が増えれば、喫煙者の数は増加する。
国連経済社会局の報告書「世界人口展望2017年版(The World Population Prospects: The 2017Revision)」によると、アフリカ大陸(全54ヵ国)の人口は2017年の12億5600万人から2050年の約25億人へほぼ倍増し、世界人口約98億人のおよそ4分の1を占める見通しである。21世紀末の2100年にはアフリカの人口は約44億人に達し、世界人口約112億人の約40%を占めると予測されている。その約6割は若年層が占める。
WHOの調査では、アフリカのたばこ消費量は1980年から2016年までの間に52.0%(約1.5倍)伸びた。その間に人口は約2.6倍になっている。そのペースなら2016年に2485億本だったたばこ消費量は、2050年には約2850億本、2100年には約5000億本に増加する計算になる。実際はアフリカ諸国の1人当たりの所得も伸びていくので、21世紀末には減り続ける欧米市場を逆転し、アフリカは世界最大のたばこ消費市場に躍り出るだろう。国営企業が牛耳る中国と違って、アフリカはたばこメジャーも進出しやすい。
世界の喫煙率が低下するとしても、市場未開拓の部分が大きいアフリカの人口が急増し、たばこをたしなむ人数が増えるのならば、たばこは依然、成長産業と言える。たばこメジャーもそれに期待しているはずだ。

たばこメジャーのもう一つの希望とは?

たばこメジャーにとってもう一つ、希望の星がある。それはハイテクを活用した「電子たばこ」で、先進国市場で紙巻きたばこの減少分をこれである程度まで巻き返せるのではないかと期待されている。
市場調査会社ユーロモニターのレポートによると、電子たばこを吸っている人は2011年、全世界で約700万人だったが、2016年は約3500万人へ約5倍に増えた。さらに2021年には約2000万人(57.1%)増えて約5500万人に達すると予測している。電子たばこの市場規模は2011年には42億米ドルだったが、2016年は226億米ドルと、5年で5.38倍になった。2021年には少なくとも350億米ドル以上に達すると見込まれている。
電子たばこは、それを吸うためのコストが紙巻きたばこより高いので、需要国としてはアメリカが突出し、2位以下は日本、英国、スウェーデン、イタリアと先進国が上位を占める。紙巻きたばこと比べれば市場規模はまだ小さいが、英国では禁煙希望者に奨励されるなど「健康への害が小さい」というイメージがあるので、喫煙率の低下が著しい先進国市場ではたばこの「生き残り」を図るのに有利なカテゴリーになるとみられている。

世界のたばこ産業は1990年代以降、「健康に有害」とする国連やWHOなどの反たばこキャペーン、当局の広告・販売規制、たばこ訴訟の高額賠償金、たばこ課税の強化、喫煙率の低下などで先進国では〃満身創痍〃の状態になったものの、新興国、途上国へのシフトが進んでいる。それでもヨーロッパの女性市場や、中近東や今後人口が増加するアフリカ、先進国の電子たばこなど、成長産業であり続ける希望はまだ、残っている。

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