アッバス・キアロスタミ:素人俳優を起用してリアルを追求した映画監督

「アッバス・キアロスタミ」はイランの映画監督です。「オリーブの林をぬけて」や「桜桃の味」など、素人俳優を起用することでドキュメンタリータッチのリアリティを追求した作品を残しています。映画監督としてスタートを切ったのは30歳を超えてからです。リアルを追求したイランを代表する映画監督「アッバス・キアロスタミ」をご紹介します。

■「アッバス・キアロスタミ」について

「アッバス・キアロスタミ」は1940年にイランの首都テヘランで生まれました。1958年、18歳になったキアロスタミはテヘラン大学美術学部に入学、卒業後は絵本作家やグラフィックデザイナー、CMフィルムの撮影監督として活躍します。

1968年、イラン児童青少年知育協会に入り映画製作部を創設、以来映画監督としての道を歩むことになります。初監督作品は1970年公開の「パンと裏通り」。1987年には「アッバス・キアロスタミ」の名を世界に押し上げた「友だちのうちはどこ?」を制作しています。

1990年に公開した「クローズ・アップ」は、イランの映画監督「モフセン・マフマルバフ」の名を騙った青年が詐欺罪で逮捕されるという実際に起こった事件を題材にしています。映画の出演者たちもすべて事件に関わった人物を起用しました。

1994年にはカンヌ国際映画祭に出品した「オリーブの林をぬけて」を制作。3年後の1997年には「桜桃の味」という作品でカンヌ国際映画祭パルムドール賞を受賞しています。

2001年、アフリカのウガンダでエイズに感染した親子の実態を取材したドキュメンタリー「ABCアフリカ」を発表し、カンヌ国際映画祭に特別招待参加しています。

「アッバス・キアロスタミ」はイラン映画を世界に知らしめ、かつ素人の俳優を起用することで現実とフィクションとの境界線をあいまいにし、映像に生き生きとしたリアリティを作品に吹き込みました。

素人の子供たちを主人公にした「友だちのうちはどこ?」では、そのみずみずしい詩情豊かな映像に世界中の観客が虜になりました。

キアロスタミ監督は1987年に制作した「友だちのうちはどこ?」の舞台になる「コケール村」を1992年に訪ね、主人公を演じた少年の消息をたどります。その様子をドキュメンタリータッチで描いた作品が「そして人生はつづく」です。

さらにその後「そして人生はつづく」の続編となる「オリーブの林をぬけて」を発表。俳優としてではなく一般人として生活している主人公の少年(青年)と映画が互いにリンクするユニークな制作手法を追求しました。

2004年には青年時代から傾倒している「小津安二郎」監督へのオマージュ作品「5 five小津安二郎に捧げる」を発表しています。

■「アッバス・キアロスタミ」の作品

・「友だちのうちはどこ?」

カスピ海に近い小さな村(コケール村)の子供たちを起用して撮影した作品です。1989年のロカルノ国際映画祭では5つの賞をそうなめにし、イラン映画の水準の高さを世界に知らしめました。

友達のノートを間違えて持ち帰ってしまった少年が、ノートを返すために友達の家を探し歩くドキュメンタリータッチの映画作品です。この映画は後の「そして人生はつづく」や「オリーブの林をぬけて」へと続いていきます。

・「桜桃の味」

人生に絶望して自殺を企てている中年の男が老人と出会い、生きる意味と素晴らしさを教えられるというストーリーです。映画撮影のロケ現場とストーリーとが混然一体となり不思議なリアリティを生み出しています。1997年のカンヌ国際映画祭では今村昌平監督の「うなぎ」とともにパルムドールを受賞しています。

・「クローズ・アップ」

貧しい青年がイランの映画監督「モフセン・マフマルバフ」に間違えられ、そのまま監督のふりを続けます。監督になりきった青年は有名映画監督の名を騙ったとして詐欺罪に問われるという事件が実際に起きました。

このニュースに着想を得て「アッバス・キアロスタミ」監督が事件に関わった人物をそのまま起用して撮影した作品です。キアロスタミ監督はサブジアン青年が収監されている刑務所へ面会に行き、被害にあったアハンカ家にも赴いてインタビューを行っています。

・「オリーブの林をぬけて」

青年が一人の女性に愛を告白しようと試み、告白するまでのドキュメンタリータッチのラブ・ストーリーです。この作品は「友だちのうちはどこ?」「そして人生はつづく」の続編にあたります。撮影中に実際に起こった出来事に着想を得て撮影が行われました。

・「そして人生はつづく」

「友だちのうちはどこ?」の撮影地「コケール村」をキアロスタミ監督が訪ねるドキュメンタリータッチの作品です。1990年、「コケール村」を含めたイラン北部に大地震が襲いました。「友だちのうちはどこ?」に主演した少年は無事だろうか?と安否を気遣うキアロスタミ監督たちが少年に出会うまでのドキュメンタリー映画です。

・「ライク・サムワン・イン・ラブ」

日本を舞台にした映画作品です。80歳を超す老人タカシはデートクラブでアルバイトをする女子大生「明子」と出会いました。大学教授を引退したタカシは亡き妻に瓜二つの明子を部屋に招きます。翌朝、明子を大学まで車で送るタカシの前に、明子の婚約者「ノリアキ」が現れます。明子の婚約者ノリアキはタカシを明子の祖父だと勘違いします。この勘違いが次第に歯車を狂わせていく…。老人タカシ役は映画初出演の「奥野匡」。明子役は「高梨臨」。ノリアキ役を「加瀬亮」が演じています。

・「5 five 小津安二郎に捧げる」

「アッバス・キアロスタミ」が尊敬してやまない日本の映画監督「小津安二郎」氏に捧げた作品です。小津安二郎の生誕100年を記念して「アッバス・キアロスタミ」に制作を委嘱して実現しました。NHKアジア・フィルム・フェスティバルの特別参加作品です。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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