ダイアナ・ウィン・ジョーンズ:独創的なファンタジー

ダイアナ・ウィン・ジョーンズ(1934年-2011年)は、イギリスのファンタジー作家。魔法や冒険をテーマとした子ども向けファンタジー小説を多数執筆した。主な作品は「魔法使いハウルと火の悪魔」「大魔法使いクレストマンシーシリーズ」など。

独創的でユーモラスなファンタジーを得意とするダイアナ・ウィン・ジョーンズ。オックスフォード大学在学中、「指輪物語」の著者J・R・R・トールキンや「ナルニア国物語」で知られるC・S・ルイスの授業を受けていたといいます。その影響もあってか、大学卒業後は多数のファンタジー小説を執筆し「ファンタジーの女王」として、独創的な作品を生み出していきました。
この記事では、彼女の代表的作品を解説していきます。

【魔法使いハウルと火の悪魔】

ダイアナ・ウィン・ジョーンズは幼い頃から文学に触れて育ちますが、「なぜ冒険に出かけるのは男の子ばかりで、女の子じゃないのだろう」という彼女の疑問をもとに書かれました。昔話の主人公といえば末っ子というのが定番とされていましたが、この物語では二人の妹がいる長女ソフィー・ハッターです。
魔法が存在するインガリー国。街では「荒れ地の魔女」や美女の心臓を食べるという「魔法使いハウル」の噂で持ちきりでしたが、ソフィーは自分には関係のない話だと思っていました。帽子屋を営む父親が亡くなると、ソフィーは地味な帽子屋を継ぎ、妹のレティーはパン屋へ、マーサは知り合いの魔女のもとへ修行に行きます。
ある日、ソフィーは荒れ地の魔女の呪いで、90歳の老婆にされてしまいます。若い女の子ならヒステリーを起こしてしまいそうですが、もともと自分に自信のないソフィーは、「こんな姿じゃここにいられない」とハウルの住む城に転がりこみます。
女の子を口説くのに夢中な美しい魔法使いハウルと、自分に自信のない老婆の姿をしたソフィーの共同生活が、おもしろおかしく描かれている作品です。作中に登場する動く城はダイアナがとある学校に招かれた時に、一人の生徒から「動く城の話を書いてください」とお願いされたことがきっかけだといいます。
スタジオジブリ長編アニメーション「ハウルの動く城」の原作にもなっている「魔法使いハウルと火の悪魔」は、姉妹編として「アブダラと空飛ぶ絨毯」「チャーメインと魔法の家」があり、それぞれ主人公が違いますが、ハウルとソフィーも登場しシリーズで楽しめるようになっています。

【大魔法使いクレストマンシーシリーズ】

同一の主人公が登場するのではなく、「大魔法使いクレストマンシー」という役職名があり、いくつも存在する平行世界で起きる魔法に関する事件を解決する際に登場します。舞台となる世界や主人公はバラバラで、そこがこのシリーズの面白いところでもあります。シリーズのうち、一部を紹介しましょう。

「大魔法使いクレストマンシークリストファーの魔法の旅」

大魔法使いクレストマンシーがどのように、その役職に就いたのかという物語。ドラゴンやパラレルワールド、善と悪の対立、友情、裏切りなどファンタジー作品に登場する要素がふんだんに詰めこまれています。
また、作者の書いた物語の一部が現実に起こってしまうということが多々あり、そのエピソードはファンの間で喜ばれています。

「大魔法使いクレストマンシー魔法使いはだれだ」
魔法が禁じられ、魔法使いが火あぶりにされてしまう世界。そんななか、寄宿学校で「このクラスに魔法使いがいる」という謎のメモが見つかり、事件になります。一筋縄ではいかない、個性的なクラスメイトが登場し、思わず笑ってしまうでしょう。ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品にはあまり“いい子”が登場しません。そこが彼女の作品の魅力のひとつです。この作品にも例のエピソードが存在し、作中に登場する「カスタードがけのミミズ」という料理に似たものが実際に提供されたといいます。登場人物が食事中に「この料理はこういうもの」と解説する場面があり、作者はこの場面を書いたことを後悔するのでした。

【七人の魔法使い】

BBCで映像化もされたこの作品。世界ファンタジー大賞にノミネートされたというだけあって、魔法とユーモアで溢れています。
舞台は、7人の魔法使いが陰で支配する町。ある日、魔法使いのうちの一人がよこした「ゴロツキ」が、ハワードの家に居座ってしまいます。作家である父親が書く原稿のせいで、7人きょうだいの魔法使いは一歩も街の外に出られないと言うのです。次から次へと繰り出される嫌がらせに主人公一家は翻弄されますが、読んでいる側はおかしくて、読み進める手を止められません。作者自身、書きはじめたときどんな話になるかわからず、わくわくしながら書きすすめたと語っています。
冒頭にある作者覚え書き10か条や、ハワードの妹スサマジーの凄まじさなど、笑える箇所がふんだんに散りばめられており、物語の本筋だけではなく、ちょっとした箇所まで手が行き届いているところに、作者の手腕を感じます。後世のファンタジー作家に影響を与えるだけあって、設定はもちろん登場人物たちも妙ちきりんで、読み手を飽きさせない作品です。

【わたしが幽霊だったとき】

この作品は突如幽霊になってしまった「わたし」が主人公のお話。個性的な四姉妹が登場し、決して楽しいことばかりではなく、いがみ合いや毎日一緒にいないといけない嫌悪感など、きょうだい関係がリアルに描かれています。また、最後まで主人公が何者なのかわからずじまい。この登場人物かな?と推理しながら読むのも楽しめます。
ダイアナ・ウィン・ジョーンズの魅力のひとつが、魔法を大々的に扱うのではなく、日常生活の一部として自然に登場させるので、読者は現実にもこういうことがありえるなと思えてしまう点です。小説を読んでいるというより、ドキュメントを見ているような気にさせられる箇所もあります。作者自身、三人の子どもを育てながらの執筆活動だったため、その体験も影響しているのではないでしょうか。
ダークな雰囲気のなかに、ユーモアを交えた物語となっています。

【アンガス・フリントを追い出したのは、だれ?】

ダイアナ・ウィン・ジョーンズはファンタジーの属性柄、長編作品が多いのですが、短編でも十分才能を発揮しています。
親の友達が家に居座り、大迷惑するこの作品。アンガス・フリントはとても変わっていて、「こんな人本当にいるの?いたら嫌だな」と思うのですが、実際に作者が体験したことの“復讐”として書かれた物語なのです。登場人物と同じように、実際、家に泊まりにきた客人に、暑い日に置き去りにされて何キロも歩かされたそう。物語だけで読んでも十分おもしろいのですが、作家の執筆裏話を知るとさらに楽しめます。彼女の作品の脇役まで魅力的なのは、実際にいる人物をモデルにしているからかもしれません。

【まとめ】

ファンタジーの国イギリスの作家ダイアナ・ウィン・ジョーンズ。幼いころから、昔話などが好きだったそうで、彼女の作品の根底には昔話や神話の要素が込められていることが多いです。難しいことを考えずに読んでも十分楽しめますが、昔話や神話などある程度知った状態で読むと、「これはこういうことだ!」とさらに理解を深めることができます。ファンタジー小説が好きな人も、あまり普段は児童書を読まないなんて人も、「ファンタジーの女王」の作品に一度触れてみてはいかがでしょうか。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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