デンボス(オランダ):初期フランドル派、ヒエロニムス・ボスゆかりの街

初期フランドル派の重要な画家「ヒエロニムス・ボス」。幻想的で神秘的な作風が特徴のルネサンス期の画家です。「快楽の園」に代表される独特の描写は、なんとも不思議な、引き込まれるような魅力を備えています。彼自身の生涯にも謎が多いことも、その神秘性を加速させる要因のひとつでしょう。そんなヒエロニムス・ボスが生涯のほとんどを過ごしたといわれている街が、「デンボス」です。ヒエロニムス・ボスとデンボスの魅力を、詳しくご紹介していきます。

初期フランドル派の画家「ヒエロニムス・ボス」

「ヒエロニムス・ボス(Hieronymus Bosch)」、本名「イェルーン・ファン・アーケン(Jeroen van Aken)」は、ルネサンス期を代表するフランドルの画家です。フランドルとは、当時のオランダやベルギー、フランスの一部分を含んだ地域名称。ヒエロニムス・ボスは、初期フランドル派といわれる画家の代表的な存在です。聖書を題材に扱った作品が多いのですが、その作風は独特かつ神秘的。特徴的な作品の雰囲気は、後世の芸術にも影響を及ぼしました。

1450年頃にオランダのデンボスに誕生したヒエロニムス・ボス。その一族は画家であったといいます。父親をはじめ、祖父や兄、叔父にも何人か画家がいたのだとか。彼の天才的な感性は、幼い頃から触れてきた芸術性溢れる家族の影響にもよるのでしょう。画家としての技術は、主に父親から教わったと推測されています。1478年に「自由な画家」としての資格が与えられ、名作といわれる作品の数々を制作。しかし、生前の資料が少ないため、未だ謎の多い存在です。

(Public Domain /‘The Garden of Earthly Delights’ by Hieronymus Bosch. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

ヒエロニムス・ボスの制作した作品のうち、現存しているものはおよそ30点です。「快楽の園(Tuin der lusten)」は、1490年〜1500年の間に制作されたといわれる三連祭壇画。彼の作品のうち最も有名、かつ最大の作品です。緑やピンクを多用した色彩豊かな表現は、ほかの作品に類を見ない独特のもの。引き込まれるような誘引性は、最高傑作と呼ぶにふさわしいでしょう。「放蕩息子」は人生の選択に悩み、さまよい歩く男を描いたもの。いくつもの見解を生む傑作です。後世に強い影響を及ぼしたヒエロニムス・ボス。デンボスは、そんな彼の故郷です。

ヒエロニムス・ボスの故郷「デンボス」

オランダ南部、北ブラバンド州の州都に当たるのが、「デンボス(Den Bosch)」です。正式な街の名称は「スヘルトーヘンボス(’s-Hertogenbosch)」。かつてのブラバンド公アンリ1世の狩場であったことから「公爵の森」と名付けられた街ですが、現在はデンボスの呼びかたが浸透しているのだとか。中世に交易、とりわけ羊毛の取引で発展を重ねてきました。美術館も多く、芸術都市としての側面も持ち合わせています。オランダでも注目の街のひとつでしょう。

1792年にフランスの支配下に置かれ、1815年のネーデルランド連合王国成立をきっかけに北ブラバンド州の州都の役割を担うようになりました。また、街の周囲に城壁が築かれた城塞都市としての表情も持ち合わせています。城壁は、周囲からの侵攻を防ぐために1185年以降に設置されたもの。その名残は現在も健在で、石畳や城壁が連なる中世の街並みも特徴のひとつです。交易都市に芸術都市、そして城塞都市と、さまざまな側面を持つ街がデンボスといえます。

デンボスの見所

多種多様な側面を持ち合わせているデンボス。その中心にあるマルクト広場には、街を代表する画家ヒエロニムス・ボスの銅像が、パレットと絵筆を手に、堂々とした姿で鎮座しています。広場から街を見渡せば、多くのシンボルが目に入るでしょう。「聖ヤン大聖堂」や「北ブラバンド美術館」、街中に張り巡った運河を使用した、「運河ツアー」も見逃せません。名物スイーツ「ボシュ・ボル」も必食といえます。デンボスの見所を、詳しく深掘りしていきましょう。

オランダ最大規模の「聖ヤン大聖堂」

「聖ヤン大聖堂(Sint Jans Kathedraal)」は、デンボスを代表する歴史的な建造物。大聖堂としてはオランダ最大の規模を誇ります。1220年頃に建造されたロマネスク様式の教会が前身です。幾度もの増改築を経て、現在のゴシック様式の大聖堂へと変化してきました。無数に突き出た尖塔は、間違いのないゴシック様式の象徴。中央には鐘楼が鎮座しています。鐘楼は、かつて相当高いものだったそうですが、落雷で焼失。現在は小ぶりなものになっています。

尖塔同様に注目したいのが、外部にまで設置された彫刻の数々です。その総数はなんと600体以上。中でも見所は、南門の上部に設置された「携帯電話で話す天使像」でしょう。2011年に設置されたこの天使像は、まさしく現代文化の象徴です。英語で話すこともできるそうなので、興味がある人はぜひ挑戦してみてください。天使との会話で、胸踊る体験ができるでしょう。

大聖堂内部は無料で鑑賞することが可能です。細かな装飾が目を引く外観とは対照的に、内部は白を基調とした、落ち着いた造り。静寂が似合う雰囲気は、心に穏やかさをもたらしてくれるでしょう。天井に施された鮮やかな赤と緑の装飾も見もの。また、天井に届かんばかりの大きさを誇るパイプオルガンも注目でしょう。ステンドグラスの色とりどりの輝きや、礼拝堂祭壇の彫刻も見事です。息を飲むシーンの連続は、聖ヤン大聖堂の持つ厳かな存在感の賜物でしょう。

ブランバンド州の歴史とゴッホの名作を堪能!「北ブラバンド美術館」

「北ブラバンド美術館(Het Noordbrabants Museum)」は、北ブラバンド州の歴史や文化を詳しく紹介している美術館です。数百年に及ぶ歴史の変遷を、充実した資料とともに楽しむことができるでしょう。一方で、ローマ時代のコレクションや16世紀〜19世紀の絵画も充実。近代芸術作品も豊富に所蔵しています。歴史を学びかつ芸術も堪能できる、いいとこ取りの場所です。

数ある所蔵作品の中でも、「フィンセント・ファン・ゴッホ(Vincent Willem van Gogh)」の作品は見逃せないでしょう。北ブラバンド州のズンデルト出身の画家。北ブラバンド美術館には、周辺地域で唯一のゴッホのオリジナル作品が所蔵されています。「鋤仕事をする農婦(Spittende Boerin)」などは、絶対に見逃したくない名作といえます。ほかにも「ピーテル・ブリューゲル(Pieter Bruegel)」などの名作も必見。印象に残る時間を過ごせますよ。

「運河クルーズ」で城塞都市の魅力を隅々まで

かつて城壁が築かれた、城塞都市としてのデンボス。その側面を堪能することができる選択肢のひとつが「運河クルーズ」です。街中に所狭しと張り巡らされた運河の数々。その幅は狭いものの、往来ができるほどに丁寧に整備されています。デンボスの特徴として、運河の上にまで建物が建造されています。街が城壁によって囲われていたため、建物を立てるための土地の確保が難しく、運河の上に建造したためだとか…。こうした背景も旅を楽しむコツのひとつでしょう。

デンボスの運河クルーズにはいくつかのルートが設定されています。時間の都合に合わせてアレンジするのがよいでしょう。城壁内部では堅固に発展を遂げた街並みを水の上から、城壁の外では自然が豊かに広がり、街中とはまた違った印象をあなたに与えるでしょう。時折姿を見せるヒエロニムス・ボスの作品のオブジェにも注目。小さな船に乗り込み、街を隅々まで堪能。暗いトンネルをくぐり抜けるようなスリリングな体験も、クルーズの楽しみの代表といえます。

ヒエロニムス・ボスの軌跡と名物スイーツ「ボシュ・ボル」を心ゆくまで

「ヒエロニムス・ボス・アートセンター(Jheronimus Bosch Art Center)」は1450年〜1516年にかけて、生涯のほとんどをデンボスで過ごした、ヒエロニムス・ボスのための美術館です。かつての教会を使用した建物は穏やかな外観。内部には彼が描いた作品の原寸大レプリカが展示されています。スペインのプラド美術館に所蔵されている「快楽の園」は、館内中央に展示。入場する際はガイドブックももらうことができます。地下にあるアトリエもお見逃しないように。

名物スイーツ「ボシュ・ボル(Bossche Bol)」の直径はおよそ12cm。ダークチョコレートをたっぷりと纏わせた、シュークリームのようなスイーツです。デンボスの多くのカフェで販売されているというボシュ・ボル。口に入れたらはみ出してしまいそうなクリームは、まさしく至福の味です。その見た目の印象からお腹がいっぱいになってしまいそうですが、やはり甘いものは別腹でしょう。散策中の一休みに、ぜひカフェを見つけていただいてみてください。きっと満足する味ですよ。

北ブラバンド州の州都、魅力豊かなデンボスへ

初期フランドル派を代表する画家、ヒエロニムス・ボス。彼が生まれ、そして生涯のほとんどの時間を過ごした街がデンボスです。聖ヤン大聖堂や北ブラバンド美術館、城塞都市を隅々まで堪能できる運河クルーズまで、楽しみかたはまさしく多種多様。ほかの観光都市にも負けない魅力がデンボスにはあります。あなたも滞在を通して、その魅力を知ることになるでしょう。

オランダ南部に位置するデンボスへのアクセスは、オランダ最大の街である「アムステルダム(Amsterdam)」から電車でおよそ1時間です。また、同様にオランダ第4の規模を誇る街「ユトレヒト(Utrecht)」からの距離は電車で約30分。主要な街からのアクセスもよいため、周遊しながら立ち寄るのもよいでしょう。もちろん、日帰りも十分に可能です。中世の街並みが個性を醸す街デンボス。ぜひ次回の旅は、この街を目的地にしてみてはいかがでしょうか。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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