Phare Ponleu Selpak:カンボジア有数のアートスクール

カンボジアでアーティストに出会ったら、ぜひ出身地を尋ねてみたいもの。
多くの人々の口から「バッタンバン」という回答を聞くことになるでしょう。

カンボジア北西部に位置するバッタンバンは、実際に数多くのカンボジア人アーティストを輩出している都市です。

なぜなのでしょうか?

一大要因は間違いなく、カンボジア有数のアートスクール「Phare Ponleu Selpak(以下、PPSA)」があるからでしょう。

バッタンバン出身のアーティストのほぼ全員がPPSAの卒業生と言ってもよいほか、現在世界で名を上げているカンボジア人アーティストの中にもPPSAの卒業生が数多く含まれています。

ビジュアルアーティストから、グラフィックデザイナー、アニメーター、サーカスパフォーマーまで。

様々な領域で活躍するアーティストを送り出すPPSAは、どのような理念で創設され、どのような教育をしているのでしょうか。

キャンパスツアーガイドのMr. Tat Hean(以下、Tat氏)に、バッタンバンにあるキャンパスを案内してもらいながら、お話を伺うことができました。

人を育て、社会を変革するアートの力を信じて

写真:筆者提供

学校を訪問した日は、キャンパス内で目につく学生の数はまばら。

「実は今日、創立25周年記念のイベントを開催するため、多くの学生達は首都プノンペンに行っているのです。」と、Tat氏。

1994年に創立されたPPSA。

1994年といえば、20年余りにわたって繰り広げられたカンボジア内戦が終結し、国民議会選挙により民主政権が誕生した翌年のこと。

PPSAを創立したのは、タイ国境の難民キャンプから戻ったばかりの9人のカンボジア人学生と1人のフランス人教師でした。

「フランス人教師のVéronique Decropは、子供達が内戦のトラウマを乗り越え、言葉にできない感情を表現できるようにと、難民キャンプの中でアートを教えていたのです。彼女のサポートを受けながら、9人の学生達は難民キャンプ内で学んだことを新しい世代にも共有するために、学校を創ったのです。」

写真:筆者提供

内戦終結後も、戦争の傷跡は目に見えない部分にまで拡散。
貧困や家庭内暴力、育児放棄、国外での違法就労などの社会問題は、現在に至るまでカンボジア各地ではびこっています。

そんな中、PPSAが信じているのは、人間の発展と社会の変革を担うアートの力。
経済的・社会的に恵まれない子供達に、創造的な教育機会を無償で提供し続けています。

現在では、ビジュアルアートスクールとパフォーマンスアートスクールの2本柱を保有するだけでなく、幼稚園や小学校〜高校までの公立学校も併設。

「PPSAは非営利の協会です。運営費の50%は寄付、50%はグループ傘下の社会的企業が運営するサーカス公演の収益などで賄っています。EUから支援を受けていることもあり、カンボジア人スタッフのほか、欧州各国のメンバーが一緒に学校運営を行なっています。」

第一線で活躍する精鋭パフォーマーを生み出す「Performing Arts School」

写真:筆者提供

Tat氏が最初に案内してくれたのは、アートスクールの柱の一つである「Performing Arts School」。

体育館のようなトレーニング場では、サーカスの自主練習に励む生徒達の姿が。

「現在、『Performing Arts School』には、サーカス、シアター、伝統舞踊、音楽のクラスが含まれます。7歳から入学でき、全部で100名以上の生徒がいます。併設の公立学校に通いながら訓練をしている生徒もいますね。」

「先輩達のショーを見てかっこいいと思い、入学しました。アクロバットとコントーションが難しく、トレーニングに励んでいるところです。」と語るのは、入学6年目の女子生徒Sreyneang(16歳)。

入学9年目の男子生徒Sovan(18歳)は、「海外の有名なサーカス団で活躍する叔父と同じように、僕も将来は海外で公演をしたいです。」と意気込みます。

写真:筆者提供

「サーカスクラスでは、ジャグリング、アクロバット、空中曲芸、道化、バランスといった技芸を集中的に勉強します。10年間のカリキュラムが用意されており、各レベルの終了試験をパスすると次のレベルに進むことができます。」

卒業生によってシェムリアップで開催されているショー「Phare, The Cambodian Circus」は、カンボジア観光の一大名物であり、海外各国からも高評価を得ています。

カンボジアの民話と現代の社会問題を融合したストーリーとともに繰り広げられる迫真のパフォーマンスは、見どころ満載。
息を呑むほどのダイナミックな技芸は、間近で見ると圧巻の一言です。

バッタンバンのキャンパス内では、月・木・土の週3日間、学生によるショーを鑑賞することも可能。

厳しい訓練の成果が結実した質の高いパフォーマンスは必見です。

カンボジアのビジュアルアートシーンの活性化を支える「Visual and Applied Arts School」

写真:筆者提供

アートスクールのもう一つの柱が「Visual and Applied Arts School」。
途中、教育内容を拡充させながらも、学校創立時から続く歴史あるプログラムです。

「3年間の課程で、ドローイング・ペインティング・写真などを含むビジュアルアート、グラフィックデザイン、アニメーションの各分野を勉強することができます。現在の学生数は約100名です。基本的には、高校卒業レベルの18歳以上の学生が学んでいます。」

バッタンバンのギャラリーで活躍するアーティストのほとんどが、こちらの学校の卒業生。
さらに、卒業生の中には、首都プノンペンや海外を舞台に活躍しているアーティストも多数存在します。

教師の多くは卒業生ですが、外国人教師がワークショップなどを担当することもあるそう。

「1年目は広く一般的なアートスキルを習得し、2年目から専門科目を選択します。3年目には、インターンやボランティアとして一般の団体・企業で働く機会も用意されています。」

写真:筆者提供

18〜19歳の男女10名ほどの学生グループに将来の夢を聞くと、回答は「グラフィクデザイナーになりたい」「アニメーターになりたい」の2つに集中。

「最近では、グラフィックデザイン、アニメーションクラスの人気がありますね。グラフィックデザイナーやアニメーターを必要とする制作スタジオが増えてきていますから。」
とTat氏。

リニューアルされたばかりだという「Visual and Applied Arts School」の校舎は、こじんまりした中庭を取り囲むように設計されたスタイリッシュな建物。
教室の前には生徒達の作品も飾られていました。

ここは、今後の活躍が楽しみなアーティストの卵達の作品を鑑賞できる、貴重なギャラリースペースだと言えるでしょう。

卒業生が社会に向けて才能とスキルを開花する「Phare Creative Studios」

写真:筆者提供

卒業生の就職活動支援にも力を入れているPPSA。

支援の一環として創設されたのが「Phare Creative Studios」です。

国内外の企業やNGOなどから案件を受注し、アニメーション、グラフィックデザイン、イラスト、動画、サウンドなどを制作しているそう。
特に、NGOが主導するウェルネスプログラム向けのアニメーション制作が多いといいます。

こちらのスタジオで働いている卒業生の一人がBor Hak。

写真:筆者提供

「第19回DigiCon 6 ASIA」でカンボジア地区優勝を受賞したアニメーションクリエーターであり、バッタンバン最大のアートギャラリー「Romcheik5 Art Space」の共同創設者の1人でもあります。
平日はここでフルタイム勤務をしながら、夜間に自身の作品制作に打ち込んでいるのです。

「その他、『Visual and Applied Arts School』の就職活動については、学校側が作品ポートフォリオを準備するなどの支援をしています。デザイン事務所やアニメーションスタジオで働く卒業生は多いですね。」

「Performing Arts School」でサーカスを学んだ学生については、シェムリアップにある付属のサーカス団で働くケースが多いそうですが、中には海外のサーカス団への就職を希望する生徒も。

「最近では、実力が認められ、カナダの「シルク・ドゥ・ソレイユ」で活躍している卒業生もいます。」

長い時間をかけて身につけたスキルも、活かせなければ意味がありません。

PPSAでは、生徒がアーティストとしてのキャリアパスを描けるよう、卒業後の人生をも見据えたサポートをしているのです。

質の高い教育環境を、必要としている多くの子供達に届けたい

写真:筆者提供

学校として今後特に注力していきたいことについては、トレーニング環境の改善だというTat氏。

「『Performing Arts School』については、伝統舞踊とシアターのクラスで使用する教室の改善が必要です。猛暑のトレーニングに対応する断熱設備や、床に柔軟性をもたせるカーペットやマットレスを導入する必要があります。現在、これらの改善を行うための資金集めをしているところです。」

写真:筆者提供

自らもPPSAでビジュアルアートを学んでいたTat氏。
後輩となる、多くの子供達に教育機会を提供していくためにも、学校の広報活動には一層力を入れていきたいと語ります。

「PPSAをもっと多くの方々に知ってもらうためのイベント開催や資金集めは随時実施しています。より幅広いエリアの子供達に教育機会を提供していく必要性を感じています。」

最近では、活動拠点はキャンパス内にとどまらないそう。

「ソーシャルワーカーのメンバーは、教育機会を与えられない子供達を支援するために、村を訪問することもあります。また、子供達を学校に連れてきてレッスンを提供することもありますね。彼らは、自分が学びたいことを選び、学ぶ機会をここで得ることができるのです。」

カンボジアのアートシーンの源泉を探りに訪れたいスクール

写真:筆者提供

25年にわたり、カンボジアを代表するアーティストを輩出し続けてきたPPSA。

内戦の影響で一時は衰退しかけたカンボジアの芸術分野に息を吹き込み、アートシーンの基盤構築に大きく貢献してきた立役者的存在だと言って間違いありません。

バッタンバンでアートスポット巡りをする際には、街中のギャラリーと併せてPPSAもぜひ訪れてみてください。
事前にキャンパスツアーの参加を申し込めば、キャンパス内の施設を一つひとつ案内してもらうことができます。

また、月・木・土の週3回キャンパス内で開催されるサーカスショーもお見逃しなく。

バッタンバンまで足を伸ばす機会がない方も、精鋭な卒業生達が繰り広げるシェムリアップのサーカス「Phare, The Cambodian Circus」は必見です。
遺跡巡りの前後のお楽しみとして、夜のプランに組み込んでみることをお勧めします。

Phare Ponleu Selpak

<キャンパスツアー>
月〜金曜日の下記時間帯で開催中
9:00am/10:00am/2:30pm/3:30pm
ツアー費用 $5.0/人

<キャンパス内 サーカスショー>
月・木・土
18:00開場、19:00開演
料金 $14.0/人(大人)、$7.0(子供)

※学校のカリキュラム内容やサーカスショーの開催情報などは、2019年4月時点のものです。

▼学校に関するお問い合わせはこちらから
Contact us – Phare Ponleu Selpak

▼シェムリアップで開催される「Phare, The Cambodian Circus」の情報はこちらから
Evening Entertainment Siem Reap | Phare Circus

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

関連記事一覧