スラムダンク:名場面を選んでみた

かつて週刊少年ジャンプにて連載、爆発的な人気を集め、テレビアニメ化やゲーム化などが果たされたスラムダンク。連載開始は1990年、その人気は今でも色あせることがない。その理由はいくらでも挙げられるが、きっと視聴者の胸に突き刺さるような名場面が目白押しだったということもそのひとつだろう。数々の名言や名場面、そして歴史に残るような名戦を数々と誕生させた本作の中から、筆者イチオシの名場面を選んでみた。既に知っている人も多くいるだろうが、改めて、スラムダンクの名場面の良さを振り返ってみたい。

■名場面

・ミッチー男泣き

最初はやっぱりコレが良いだろう。数多くの名場面を輩出してきた本作の中でも、記憶に残っている人も多いであろう、ミッチーが泣いているシーンである。ちなみにミッチーが泣いているシーンは大きく2つある。1つはまだ不良として湘北バスケ部に喧嘩を売りに行った時、安西先生を前に「バスケがしたいです」と本音を漏らしたシーン。そしてもう1つがこれから紹介する、陵南戦で流した悔し涙にまつわるシーンだ。
インターハイ出場残り1枠を賭けた陵南との試合、湘北は安西先生が倒れたため不在、キャプテンの赤木は足を痛めたままという、2つの大きな不安要素を抱えての幕開けとなった。そんな不安が渦巻く中でも湘北メンバーは助け合い、試合は着実に進んでいく。
前半を陵南にリードを許したまま終え、来る後半、ミッチーはディフェンスに定評のある池上にピッタリとマークをされることとなった。得意の3Pが封じられ、張り付くような隙のない池上のディフェンスは確実にミッチーの体力を奪っていく。そして後半残り3分を切ったところで、ミッチーはついに倒れてしまう。幸い軽い脳貧血で大事には至らず、倒れた時に口の端を切ってしまったもののすぐに目を覚ました。けれども試合に復帰するのは無理だと判断され、ミッチーはここでコートから降りることとなった。

目を覚ましたミッチーはコートの裏でスポーツドリンクを飲みつつ休息をとるが、その眼には涙が。最後まで戦う体力が残っていなかったことへの自責の念に悔し涙を滲ませていたのだ。その時、ミッチーの心の中は「なぜオレはあんなムダな時間を…」という思いに包まれていた。
怪我をしてバスケットができなくなり、荒れていた時代。タバコこそ吸わなかったものの、その時の時間を練習に費やしていれば、この試合で最後までコートに立てていたかもしれないと思わずにはいられなかったのだろう。今尚コートではメンバーたちが頑張っている。それなのに自分は、と自分を責めていた。

これはもうミッチーの心境が胸に突き刺さるようなリアリティのある場面だ。誰しも1度は過去に対して無駄な時間を過ごしたと後悔したことがあるのではないだろうか。だからこそ、誰にでも共感できるようなミッチーの悔し涙は胸に染みる。
あの強いミッチーが泣いているというところもたまらない。いつも気丈で負けん気が強く、復帰して間もないにも関わらず花道の面倒もちゃんと見て、徐々に馴染んできて、メンバーからも信頼を置かれるようになってきた矢先の出来事である。少しずつ持ち直したミッチーの自信が崩れたということがあの涙に表れていたようであった。もしかしたら、自信があるように振る舞っていたのは演技だったのかもしれない。そこも含めて、ミッチーの弱さが垣間見えたというポイントが名場面たる所以だ。

・宮城の手に書かれたメッセージ

湘北の切り込み隊長こと宮城リョータ。チームの中ではひと際小柄ですばしっこく、それ故にガードとして活躍する選手である。何かと自分で自分のことを「神奈川No,1ガード」と称し、それに負けないくらいの実力もあるのがリョータの持ち味。そのいずれ必ずNo,1になるという強い意志も、リョータの強さの根源なのかもしれない。

けれども全国を前にしたリョータの前には、想像を絶する強敵たちが立ちはだかる。これまで自分の力に絶対の自信を持って相手を抜き去ってきたが、王者山王のゲームメイクを担うキャプテン深津には足を止められる局面が多発。絶対の自信、強い意志と共に心が砕けそうになってしまっていた。
そんな意気消沈しかけているリョータに対し、マネージャーの彩子はとあることをする。リョータに手を貸してと言い、何やらマッキーでリョータの手のひらに書き始めた。そこに書かれていたのは「No,1ガード」。

このメッセージはリョータにまつわるエピソードの中でもトップクラスに推したい場面である。
まず、このたった一言が折れかけていたリョータの闘志を再び燃え上がらせたということ。どれだけリョータが優れた選手でも、やはり全国常勝校のガードは一筋縄ではいかない。冷静に分析するなら、あらゆる面でリョータの方がまだ劣っているといっても過言ではないのだ。そんな相手をワンゲーム中ずっと前にし、リョータの自尊心はさぞすり減っていていたことだろう。そこにリョータがずっと自分で放ってきたこの言葉。しかも「神奈川」という文字が消えている。要は全国の猛者共すらも追い越して、全国で1番のガードはお前だ、というメッセージ性も含まれているということだ。これにはリョータも勇気づけられたことだろう。

しかもそれを書いたのが彩子というのもポイントだ。リョータはずっと彩子が大好きだった。あまり相手にされていないようではあったが、リョータは何かと彩子にアタックし続けていた。それが実ったわけではないが、ここぞというときに大好きな相手から1番励みになるような応援を貰えたのは大きいだろう。
そしてこれを言葉で伝えたのではなく、リョータの右手に書いたのも憎らしい。右手はリョータが相手を置き去りにするのに欠かせない部分だ。リョータの巧みなハンドリングは右手から繰り出される。そこにまるでお守りのように添えられた言葉がグッとくる。

リョータの性格を知り尽くしている彩子だからこそ、この言葉、この方法を選んだのだろう。そしてそれに救われたリョータのその後の活躍も目覚ましく、とにかく胸が熱くなるような、どこかキュンとくるような場面であった。

・「あいつも3年間がんばってきた男なんだ。侮ってはいけなかった」

全国を賭けた大切な試合、湘北高校VS陵南高校。この1試合には、語りつくせないほどの名場面が詰まっている。その中でも特に焦点を当てたいのが、このシーンだ。

試合後半、湘北の選手交代によりコートに入った木暮。元々スタメンではなかったこと、これまであまり大きな成績を残していなかったという点から、対戦相手の陵南高校監督、田岡は木暮を甘く見ていた。木暮をフリーにしたところで、なんら問題はないと踏んでいた。それより、流川や桜木を始めとしたスタメン軍を5人で制圧することに力を注げると、むしろ優位に立ったとすら考えていた。それが油断を招いた。
木暮は一瞬のフリーになった隙を狙って3Pシュートを放つ。手から離れたボールは綺麗な放物線を描き、ストンとゴールに吸い込まれた。まさか木暮自身も入ると思っていなかったのか驚いたようだったが、何より驚かされていたのが陵南陣であった。監督の田岡だけでなく、陵南の選手の誰もが木暮をどこか甘く見ていたのだ。

そこで、田岡はやっと気付いてこう言った。
「あいつも3年間がんばってきた男なんだ。侮ってはいけなかった」と。

それはそうだ。
木暮はスタメン陣みたいに大きな才能があるわけでなく、控え選手としてバックサポートを主にこなしてきたような選手だ。けれどもチームに対する思いは強く、また、バスケットにかける思いも強かった。だからこそ、この陵南戦が最後の試合になるかもしれないとも考え、自分にできることをしようと試合前日にも関わらず、桜木の練習に付き合っていた。もちろん、自分の練習も欠かすことなく、毎日毎日、辛い練習に耐え忍んできた。そうして積み重ねた3年間の結晶は、確実に木暮の実力に結びついていた。

この3Pシュートは勝敗を決める決定打となり、その後に湘北は勝利。
木暮の3年間の絶えない努力が実を結んだ瞬間となったのである。

その後、田岡は試合に負けたことについて「敗因はこのわたし」と言いきった。
それは、木暮を甘く見ていたことも含まれる。陵南の選手は最高のプレーをしたと言い切り、あくまで木暮の頑張りに気付けなかった己の力量不足を敗因としていた。
ここまでも全部含めて、この試合でのMVPは木暮に間違いない、と確信せざるを得ない名場面と言えるだろう。

・「1本!1本!じっくり!」

これは湘北高校2年、PGの安田ことヤスが放った台詞である。
舞台はインターハイ初戦の豊玉戦。関西弁をバリバリ話す、ちょっと不良っぽいメンバーが集まった大阪府代表校との戦いの中で、ヤスがゲームメイクをするために湘北陣に向けて声を張り上げた。

そのとき湘北高校は豊玉のペースにのせられていた。豊玉はラン&ガンを得意とするチームで、その攻守のスピードは恐るべき速度を誇る。そのスピードにのせられてしまったが最後、本来のチームの動きを発揮できず体力を消耗、チームは自滅へと追い込まれるのだ。
また、豊玉のメンバーは何かと口が汚く、突っかかってくる性格の者が多いため、不良集団の湘北陣はまんまと売られた喧嘩を買う形で応戦してしまっていた。
物理的速度でも、心理的にも相手の手中にハマってしまった湘北。そこで安西先生はヤスを投入。ゲームメイクをするよう指示を出したのだ。具体的な指示で言うと、ペースダウンをさせること。早すぎるゲームスピードを落とさせ、湘北本来のゲーム運びをできる体制に整えようということだ。また、暗に安西先生からの「頭を冷やせ」というメッセージも込められている。これを的確に実行するために、ヤスはこの台詞を大きな声で放ったのだ。
最初は野次を飛ばす豊玉に少し萎縮したようだった。けれど自分の指示で湘北陣が少し冷静さを取り戻し、得点を重ねると、自信を得たように満足そうな顔をする。

ヤスはスタメンではなく、試合経験が乏しいと言ってもいい。また、初の全国の舞台で交代とはいえコート上に立ち、チームの司令塔であるリョータを差し置いてのゲームメイク役である。大役とも言えるその役割をヤスがしっかりとこなせたのは、元来の度胸によるものが大きい。小さな身体、いつもはビクビクしている素振りも見せるが、いざというときの度胸は誰にも劣らない。あの怖いもの知らずの花道、リョータ、ミッチーにも負けないだろう。だからこそ、あのときのコート状の空気に流されることなく、しっかり自分の役目を全うし、チームを立て直すことに成功できたのだ。
普段はスタメンの影に隠れがちであまり目立たないキャラだが、このときにヤスの真の度胸と芯の強さを垣間見られたようであった。この時のヤスは間違いなく誰より輝き、1番大人だった。

・花道地獄のシュート2万本合宿

来る全国大会に向けて行われた花道だけの特別合宿、通称「地獄のシュート2万本合宿」。他の湘北メンバーは静岡県の高校と合同合宿に赴いたが、花道だけは留守番。そのとき安西先生に言い渡された課題がコレである。
バスケ経験者なら分かると思うが、シュート2万本というのは本当に大変なことである。シュートフォームもままならない素人が行うなら尚のこと。腕は全く上がらなくなるし、手の皮は剥けるし、ただひたすら同じことを2万回繰り返すこと自体も精神的にキツいものがある。全力疾走したりしない分、楽でしょ?なんて思われるかもしれないが、案外体力をゴッソリもっていかれるのだ。

さて、この練習で花道はこんな思いを抱いた。
「シュートの練習は楽しかった」

これまで花道は恐ろしい身体能力と適応能力、元の才能で数々の試合を乗り切ってきた。ルールも分からないところから全国区の相手を前に奮闘し、花道なりのやり方で必死に食らいつき、試合に臨んでいた。もちろん、ファールやトラベリングなども沢山繰り返したが、それでもチームに不可欠な存在として初心者とは思えない程、目覚ましい活躍をしてきた。

一方で挙げられる花道の基礎のなさ。これはチームにとっても大きな不安要素として働き、花道自身も自分が上手くできないことにやきもきした思いを抱くようになっていく。けれども花道は基礎練習が大嫌い。理由は簡単、地味だから。
どのスポーツでも言えることだが、バスケは特に基礎がなっていないと話にならない。ドリブル、ドライブ、フットワーク、ハンドリングなど挙げればキリがない程、身に付けなければならない基礎は山ほどある。これらを習得して始めて、マッチアップした相手と対等に渡り合えるようになるのだ。それらをすっ飛ばして、言ってしまえばその場しのぎで乗り越えてきた花道だったが、全国を前に、遂に安西先生も動いた。

そうして始まった合宿で、花道はシュート練習を楽しいと感じていたのだそう。
これは花道が本格的にバスケに対して魅力を感じてきた確たる証拠だろう。最初こそ全く上手くできず、シュートは外してばかり、合宿を手伝ってくれていた桜木軍団も爆笑するくらいのヘタさだった。花道も薄々自覚はしていたらしいが、改めてビデオで撮った自分のフォームを見て落胆していた。
それでも花道は毎日毎日、シュートに励む。時折指導してくれる安西先生の的確なアドバイスを受けながら、夜な夜な自分のフォームを見直し、こうした方がいいのではないかと振り返りながら。どんどんのめり込んでいく様子が映し出され、シュート練習が楽しいという素直な気持ちがストレートに伝わってくるような場面だった。

また、ここが名場面と言いたいのにはもうひとつ理由がある。
それが、練習をしっかり描いているところだ。スポーツで大事な練習に焦点を当てているというのは、実はスポーツを題材にした作品ではちょっと少なめなのが現実なのだ。現在では超人的な、もはやスポーツというより超能力勝負のような作品も多い中で、そういった作品はやはり練習という場面が削られがち。そこをリアルに描いているのが、名場面だと思える所以だ。
花道の純粋なバスケットが楽しいという思いと、練習が楽しいという思い、そして地味だけれど少しずつ成長していく過程を丁寧に描いたこの場面は、もっと評価されてもいいはずだ。

・ゴリとミッチー、2年越しの和解

この3年コンビはあまりウマが合わない。3年の現在では特別大きな喧嘩をしている描写があるわけでもないが、1年のとき、まだミッチーがバスケ部に所属していたときにこの2人は度々衝突していた。一緒のチームで試合を行えばお前が云々かんぬん、ちょっとした隙にも相手に毒を吐き、とにかく両者共に我が強かった。そんな2人を見て、同学年の小暮はいつもこの2人が協力すれば、と思っていたらしい。


その思いがやっと実った瞬間がこのシーンである。
インターハイであたった王者山王。その試合の最中、満身創痍のミッチーとゴリが互いの拳をぶつけ合うシーンが、それだ。

これは小暮が長い時間、焦がれて待ち望んでいた瞬間だった。一時ミッチーはバスケ部を離れ、この願いが叶うことなど絶望的な状況にまでなっていた。そして3年になりミッチーが復帰しても、やはりあまり協力関係は見られず、この2人の距離はずっと縮まらないのかとも思われた。その矢先の2人の拳ゴツンである。
このとき、王者を相手に2人はもう言葉を発することすら辛そうな有様で、ミッチーに至っては意識がしっかりとしているかも怪しいものであった。だからもちろん、この前に2人が協力してこうしようと話していたわけもなく、この瞬間も言葉など何も交わしていなかった。けれども2人の間には何か通じるものがあったようで、確かに意思疎通が図れていた。コートの外から見ていた小暮もその意思疎通にピンときたようで、このとき3年生メンバーは確かに2年越しにしっかりと繋がったのである。

このときの小暮の台詞はこうだ。
「2年間も待たせやがって…」
たった一瞬の、たったひとつの動作が確かに空いた時間を埋め尽くし、3年生3人組を繋げたのであった。赤木とミッチーの不器用さも伝わってくるようで、胸に熱い思いが込み上げてくるのと同時に、どこかくすぐったさも感じるような名場面だ。

■おまけ

スラムダンクには数々の名戦がある。1試合1試合、見どころが盛り沢山であり、どれも目が離せない。そして、その中でもここぞ!というシーンも多すぎて選べない。それだけ密度が濃い試合ばかりが描かれているのだ。
けれどそんな名戦を繰り広げる中で、このマッチアップは注目すべきだ、というものは幾分選びやすさがある。マッチアップの行方によって勝敗が左右されることもあるため、ゲームの中では非常に重要な要素でもある。ということで、おまけとして、数々の名戦の中で、このマッチアップは見ごたえがあった、というものをいくつかご紹介しておこう。

・【湘北】宮城リョータVS【海南大付属】牧伸一

自称神奈川No,1ガードと誇るリョータと、実質神奈川No,1ガードである牧のマッチアップ。リョータもガードとしてのポテンシャルはとても高い選手だが、神奈川の王者、海南のキャプテンを務める牧もとてつもない能力を備えている。牧は王者のキャプテンという重圧も担っており、かつ3年生、そして全国を見たことがあるという経験値も合わさり、総合的に判断してもリョータより1枚上手の選手と判断して良いと思う。
その牧を相手にしたリョータ。試合前半では牧に大きな動きをさせることなく、しっかりと押さえていた。そういった意味で、このマッチアップが実現した試合の影の功労者はリョータであることは間違いない。海南のスタメン選手は誰もがトップレベルであるが、その中でも群を抜いて牧は強者だからだ。

後半、リョータが牧に苦戦する場面も多くなってくるが、それでも食らいつくリョータの意地、そしてそれをかわそうとするもペースを乱される牧、2人のガードのプライドがぶつかり合うマッチアップは必見だ。

・【湘北】桜木花道&流川楓VS【綾南】仙道彰

これは陵南との練習試合でのマッチアップ。陵南のエース仙道を抑えようと、花道と流川は2人がかりで挑んだときのもの。
元々仲の悪い花道と流川だから、もちろん、彼らが進んで2人共闘したわけではない。湘北の監督である安西先生が指示したものだ。鬼才とも言われる安西先生も2人の不仲を知らないわけがない。けれども仙道を止められるのは花道と流川、この2人だと確信し、指示を下したのだ。
仙道がいくら凄い選手といえど、2人を相手にするのは並大抵のことではない。しかも花道はまだ初心者だが時々恐ろしいポテンシャルを発揮して、経験陣たちを圧倒させるプレーを見せる。一方の流川は説明せずとも天才的プレーヤーとして他の選手たちと一線を引く爆発的プレーを難なくこなす。この2人を相手に、それまではスルスル抜いていた仙道もやはり足を止めるしかない。

けれども、見どころはそこではない。注目すべきは仙道の表情だ。仙道は2人を相手に、楽しそうな顔をしていたのだ。とても嬉しそうに、バスケットを心から楽しむようなプレーをしていた。きっと仙道は、自分と対等にプレーできる相手がいないことに物足りなさを感じていたのだろう。だからこそ、2人がかりでも自分と対等にプレーできる相手が目の前にいて、自分を追い込んでくれる相手がいることに喜びを感じたのかもしれない。
いつもどことなくやる気のなさそうな仙道。余裕があると言われればそれまでだが、このスタンスは単にユルイとかそれだけでなく、バスケットに対して夢中になれる要素の欠如が起因していたとすれば、このマッチアップで見せた嬉しそうな表情は見逃せるものではない。そして、それを引き出した花道と流川も良い役をしたものだ、と言える。

・【湘北】赤木剛憲VS【綾南】魚住純

赤木と魚住は昔からの因縁の間柄。とても大きい身体にキャプテン、そして老け顔と共通点が多く、互いに既視感を覚えるようだ。そんな2人は幾度となく対戦してきた。その中でも全国を賭けた決勝リーグ時のマッチアップは特別な意味を持つ。

赤木はとにかくバスケットに賭ける思いが強く、誰より全国に行きたいと願っていた。だからこそ強さが発揮されたというのもあるだろう。けれどもこのときのマッチアップに関しては、魚住が並々ならぬ思いを胸にプレーしていることが伝わってきたからこそ、感化され、さらなる高プレーに繋がったのかもしれない。
一方の魚住は、これまで赤木に幾度となく負けてきた。どれだけ努力してもゴール下の赤木に勝つことはできなくて、それに対して悔しい思いを重ねてきた。けれども、ゲーム中に「俺が勝たなくても良い」と思い至り、それ以降は何かが吹っ切れたかのように思いきりのあるプレーを見せる。その気迫、勢い、圧倒的存在感、そして研ぎ澄まされた神経から繰り出されるプレーに、魚住のこれまでの思いが集約されているようだった。
両者全国を賭けた中での一歩も譲らぬ死闘は、それぞれの思いのぶつかり合いのようで、見ていて胸が熱くならない者はいなかったのではないだろうか。2人は3年間、ぶつかり合ってきた仲なのだ。それこそ両者がライバルだと真に認め合うくらいに。このマッチアップにどれだけの思いが込められているか、それを考えれば、この対決は決して漏らしてはいけない名勝負だと言える。

・【湘北】流川楓VS【山王】沢北栄治

最後は全国の舞台でのものをピックアップする。これはやはり流川と沢北のマッチアップが相応しいだろう。
王者山王のエース、沢北栄治。実質高校生No,1プレーヤーとも呼べる彼の力は、正に神の領域に達しているかのような圧倒的なもの。元々持っている身体能力が高いということもあるが、オフェンス力、ディフェンス力共に超一流で、高い実力は山王のメンバーも高く評価をしている。
その沢北を相手にした流川はというと、今までの活躍はなんだったのかという位にコテンパンにされてしまう。湘北の面々は「流川が負ける」などとは夢にも思って見なかっただろうが、それが実現してしまったのだ。けれども流川は諦めない。というより、むしろ闘志を燃やしてしまったようで、これまで以上に高いスキルを見せつけた。そう、才能が真に開花してしまったのだ。そしてそれに影響され、沢北もさらにヒートアップ。影響し合い、どんどん開花されていく2人の姿は、どこまで続くのかと、息を飲むような凄まじさが描かれたマッチアップであった。

この2人の対決が相応しいという点は、ハイレベルな戦いが繰り広げられるだけではない。これが、全国大会の舞台で起こったというところにある。全国大会はその名の通り、日本中から強者が集まる大会だ。そこで天才と言われた2人の才能がさらに華開いていくというのが見どころなのだ。2人はもう既に、他の選手など寄せ付けない強さを備えている。それなのに全国で出会ってしまったために、まだまだ進化できるという事実を知ってしまった。より高みにいる人物がいると確信してしまった。こういった経験は、人を確かに成長させる。両者、特に流川は、未だ発展途上だということはこれまでの物語の中でも示唆されてきたが、まさかそれが最後の最後に実感できるとは胸が滾る。だからこそ、このマッチアップは全国の舞台の中でも見物なのだ。

■さいごに

スラムダンクの魅力はとても語り切れない。原作である漫画が世に出てから至る現在まで、熱が衰えないのは魅力がありすぎるからだろう。どこを語っても、何を語っても、次々ともっと良いポイントが浮かんでくるのだ。

そのポイントを作る要因は数あれど、随所に散りばめられた登場人物たちが作り出す名場面は欠かせない。戦う男たちの闘志、思い、ときには悲しみや憤りなど、様々な点が名場面として語り継がれている。今回取り上げたものは有名な場面ばかりだが、是非自分だけの名場面を見つけ出して欲しいと思う。そうした楽しみを持ちながら見ると、より本作が世界的にヒットした理由が体感できるだろう。
視聴済みの方は、この機会にもう1度見直してみてはいかがだろう。本作の中には、色あせることない魅力が詰まっていて、世代を越えていつでも私たちの胸を熱くしてくれる場面が待っていることだろう。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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