ヤーコプ・ファン・ロイスダール:オランダ黄金時代に風景画を描いた画家

ヤーコプ・ファン・ロイスダールは、1628年ごろネーデルラントのハールレムに生まれた画家です。レンブラントやフェルメールが活躍したオランダ黄金時代において風景画を描いたことで知られており、その大気や光の表現はのちの画家たちに多大な影響を与えました。そんなロイスダールの生涯と作品とはどのようなものだったのでしょうか。

■ヤーコプ・ファン・ロイスダールとは

ヤーコプ・ファン・ロイスダールは1628年頃にネーデルラントのハールレムに生まれました。ロイスダールの父親はハールレムで画商兼額縁職人として生計をたてていた人物で、伯父のサロモン・ファン・ロイスダールもまた、風景画家として活躍していました。一家には芸術家が多く、こうした環境からロイスダールは幼いころから芸術に関心を持つようになったと考えられます。

ロイスダールは1648年になると修業を終え、ハールレムの画家組合に登録し独り立ちすることになります。その後はドイツやオランダを旅行しており、1657年ごろにはアムステルダムに居を移し再度制作活動に取り組むことになります。このころから風景画に劇的な表現を加えるようになり、ロイスダールの作品は徐々に高い注目を集めるようになっていきました。風景画にある種の哲学的な表現を付け加える技法は、のちのロマン派の巨匠となったウジェーヌ・ドラクロワなども用いており、後世の画家たちに多大な影響を与えることとなります。

その後ロイスダールは1682年にアムステルダム、もしくはハールレムで亡くなっています。ロイスダールの作品は北ホラントで制作され、取引されることが多かったことから、現在はアムステルダム国立美術館、ロンドンのナショナル・アート・ギャラリー、ロシアのエルミタージュ美術館などに所蔵されています。彼の人生に関しては資料が少なく、不確かな部分や明らかになっていないことが多くあるのが現状です。

■ロイスダールの作品

絵画を描くにあたってはさまざまな主題がありますが、古くから宗教画、神話画、歴史画などは価値が高いと考えられており、風景画は歴史画や肖像画などに比べて一段低いと考えられていました。17世紀ネーデルラントにおいても同様の絵画ヒエラルキーが存在していたものの、プロテスタントが主流であったネーデルラントにおいては宗教画や神話画の需要はそこまで高いものではありませんでした。その代わりに風景画や肖像画などが好まれるようになり、風景画はここでようやく絵画の一ジャンルとして確立されることになります。

そんな中で登場したのがロイスダールでした。ロイスダールは森や海岸、田舎道といった風景を主題として作品を制作しました。ネーデルラントは国土が平坦であるため、空と雲が作品の多くを占めることになります。そのため自然とロイスダールの作品は空と雲を描くことに重きが置かれることになり、徐々に大気や風の流れ、光の効果といった表現が探求されることになります。その豊かな表現が評判となり、彼はオランダ絵画の黄金時代においてもっとも重要な風景画家とみなされることとなりました。そんなロイスダールの作品とはどのようなものだったのでしょうか。主要な作品を中心にご紹介します。

・《ベントハイム城のある風景》 1653年

(Public Domain /‘Castle Bentheim’ by Jacob van Ruisdael. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1653年に制作された作品で、現在はアイルランド国立美術館に所蔵されています。ロイスダールは画家組合に登録後、イタリア人画家と共に西ドイツのベントハイムへ旅行した記録が残っていますが、本作品はその旅行の際に目にしたオランダ国境近辺ウェストファリア地方のベントハイム城を描いたものです。

本作品を見るとベントハイム城は高い山の上にあるように見えますが、実際にはこの城は低い丘の上にあります。ロイスダールはこの城の絵をほかにも数枚描いていますが、それぞれ城の立地には違いが見られます。彼の風景画は大変写実的ですが、写真のように見たものがそのまま表現されているものも、本作のようにある風景とある風景の組み合わせによってできているものもあるようです。

・《ドゥールステーデに近いウェイクの風車》 1668年-1670年ごろ

(Public Domain /‘The Windmill at Wijk bij Duurstede’ by Jacob van Ruisdael. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1668年から1670年ごろに制作された作品で、現在はアムステルダム国立美術館に所蔵されています。描かれているのはユトレヒト地方の街ウェイク・ベイ・ドゥールステーデを流れる河と風車で、今にも嵐が来そうな空の表現が画面に緊張感を与えています。

本作品における特長は光の表現で、雲間からこぼれる光やそれを反射する水面の輝きは自然の美しさを表現するものとなっており、ロイスダールの表現力の高さをうかがわせるものとなっています。
また、ロイスダールは本作品と似た構図の風車の絵をほかにもいくつか残しています。

・《ハールレムの眺め》 1670年-1675年ごろ

(Public Domain /‘View of Haarlem with Bleaching Grounds’ by Jacob van Ruisdael. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1670年から1675年ごろに制作された作品で、現在はチューリッヒ美術館に所蔵されています。描かれているのは画家の故郷であったハールレムの風景であり、彼特有のパノラマ的な風景画となっています。
絵の大部分をしめるたくさんの雲は彼おなじみの表現と言えるでしょう。よく見ると、農作業か何かをしている人の姿や風車などを見つけることができます。また地平線上に見える比較的大きな建物は、聖ホバ教会です。本作品も前述の作品と同じように、よく似たものが画家本人によって描かれています。それらはベルリン、アムステルダム、サンディエゴなどの美術館に所蔵されており、彼の絵は様々な地域の多くの人々に愛されていると言えるでしょう。

■おわりに

ヤーコプ・ファン・ロイスダールは17世紀オランダ黄金時代においてもっとも成功した風景画家であり、その空と大気の表現や精密な描写は彼が高い表現力を有していたことを示しています。ロイスダールの活躍は絵画ヒエラルキーにおいて一段低いと考えられていた風景画の地位を向上し、その後の風景画に多大な影響を及ぼしました。ロイスダールの弟子もまた、その風景画の表現を追求し続けたことで知られており、《メッデルハルニスの並木道》を描いたメインデルト・ホッベマはロイスダールの弟子であったといわれています。

ロイスダールの作品はアムステルダム国立美術館をはじめとして、アイルランド国立美術館やマウリッツハイス美術館などに所蔵されており、現在もなお世界中から訪れる人々を魅了し続けています。

参考サイト:Wikipedia ヤーコプ・ファン・ロイスダール 閲覧2021年2月3日

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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