ルカ・シニョレッリ:彫刻的な力強さで人体を描いた画家

ルカ・シニョレッリは1450年ごろにコルトーナに生まれた画家です。ボッティチェリやペルジーノらとともにシスティーナ礼拝堂の壁画制作に携わったことがわかっており、そのダイナミックな描写は当代一流の画家とされていました。そんなルカ・シニョレッリの生涯と作品とはどのようなものだったのでしょうか。

■ルカ・シニョレッリとは

ルカ・シニョレッリは1450年ごろ、コルトーナに生まれました。資料が乏しいため詳細は分かっていないものの、師はピエロ・デラ・フランチェスカであるといわれています。しかしピエロ・デラ・フランチェスカの画風が理知的で静かなものであるのに対し、シニョレッリの画風は彫刻的ともいえる力強さをたたえたダイナミックな表現であり、師とは異なる表現で制作活動を行っていました。

シニョレッリ最大の仕事はバチカンのシスティーナ礼拝堂の壁画制作に携わったことであり、その際にはボッティチェリやペルジーノらとともに制作にあたったことが分かっています。システィーナ礼拝堂の壁画制作を命じたのは212代教皇であったシクストゥス4世で、自らの名前にちなんだ礼拝堂を建て、多くの芸術家を招聘することで自らの権威をより強固なものにしようと考えていました。

その一方で芸術史の上では初期ルネサンスの芸術家たちが一堂に会して制作にあたったため、ローマにルネサンス芸術の神髄が導入されることとなります。その中にシニョレッリも含まれており、その大胆な表現はその後の芸術家たちに多大な影響を与えるまでになりました。

■ルカ・シニョレッリの作品

ルカ・シニョレッリの作品の特長は何といってもその裸体表現の力強さといえるでしょう。オルヴィエート大聖堂やシスティーナ礼拝堂の壁画に描かれた人体表現は解剖学に則ったルネサンスらしい表現であり、筋肉や骨格の隆々とした表現はその後の盛期ルネサンスの表現につながるものがあります。芸術家列伝を著したジョルジョ・ヴァザーリによると、特にミケランジェロはシニョレッリの表現を常に称賛していたといわれており、ミケランジェロの代表作である《最後の審判》を制作する際にはシニョレッリの表現を参考にしていたといわれています。

そんなルカ・シニョレッリの作品とはどのようなものだったのでしょうか。主要な作品を中心にご紹介します。

・《罪されし者を地獄へ追いやる天使》1499年-1502年
(Public Domain /‘The Damned in Hell’ by Luca Signorelli. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1499年から1502年にかけて制作された作品で、オルヴィエート大聖堂のサン・ブリツィオ礼拝堂に設置されています。地獄行きが決まり、悪魔に脅かされ、拷問に苦悩する人々の姿が描かれています。

この作品からは、シニョレッリが人間の様々な感情を表現することに興味を持っていたことがよく伝わってきます。地獄行きが決まった罪人は、人間界での不道徳な生活の結果に苦しみ、惨めさの渦の中で身悶えしています。ねじれた体とわずかな筋肉は、容赦ない苦痛をより深めているようです。悪魔は人間に突進し、ある者は頭に噛みつき、ある者は首を絞め、ある者は頭を刺しています。この拷問を受け、口を開けて絶叫している人物や、不安や恐怖を隠せない人物が描かれています。

・《ひだのある服をまとい、胸元で両手を合わせて立つ男:聖人あるいは使徒》 15世紀末

本作品は15世紀末に制作されたと考えられる作品で、現在はルーブル美術館に所蔵されています。黒のチョークを使い、堂々とした姿で描かれているこの老人は、誰がモデルになっているのかいまだ明らかになっていません。

老人は、胸に手を組んで立ち、驚いているような姿勢で頭を右に向け、やや後ろに下がっています。躍動感のある造形的なシルエットは、人物をほぼ包み込んでいるほどたっぷりとしたひだのあるドレープによって強調されています。

・《聖ゲオルギウスとドラゴン》1495年-1505年
(Public Domain /‘Saint George and the Dragon’ by Luca Signorelli. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1495年から1505年に制作された作品で、現在はアムステルダム国立美術館に所蔵されています。描かれているのは、ドラゴン退治伝説を持つことで有名な聖ゲオルギウスが、まさにドラゴンを目の前に戦っている様子です。

山岳地帯の風景の中、聖ゲオルギウスが竜を倒そうと立ち向かっています。地面には、聖ゲオルギウスがくる前に竜に殺されてしまった男たちの遺体が横たわっており、左端には腕をあげて逃げようとしている若い女性が描かれています。

・《聖母子像》 1505-1507年
(Public Domain /‘Madonna and Child’ by Luca Signorelli. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1505年から1507年にかけて制作された作品で、現在はメトロポリタン美術館に所蔵されています。自身の娘にプレゼントした作品で、おそらく孫の誕生を祝うために描かれたものであるとされています。

グロテスクな装飾、躍動感のある天使、そして架空のローマの金貨やメダルは、シニョレッリの古典美術への関心を表しています。また、左上にはローマ皇帝のドミティアヌス、右上には同じくローマ皇帝のガイウス・ユリウス・カエサルが描かれています。

■おわりに

ルカ・シニョレッリはコルトーナに生まれ、同時代のボッティチェリやペルジーノらとともにシスティーナ礼拝堂の壁画制作にとりくみ、初期ルネサンス時代にもっとも活躍した画家といえます。

シニョレッリはピエロ・デ・フランチェスカに師事したと思われるものの、ダイナミックな筆致を展開しており、その表現はのちに盛期ルネサンスで活躍することになるミケランジェロに受け継がれることとなります。その解剖学に則った生き生きとした人体表現は、まさにルネサンス時代における絵画表現の一つであり、シニョレッリが活躍したことによってルネサンス時代の絵画作品の基礎が築かれたとも言えるでしょう。

シニョレッリの作品はローマやフィレンツェをはじめとしたイタリアの諸都市の美術館や聖堂、教会などに保存されており、一部についてはフランスのルーブル美術館、アメリカのメトロポリタン美術館などにも所蔵されています。こうした作品は今も研究が続けられている一方、初期ルネサンスから盛期ルネサンスにかけての表現を探求する手がかりとして、注目が集まっています。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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