ペルジーノ:「神のごとき画家」と称賛された画家

ペルジーノは1450年ペルージャ近郊のチッタ・デッラ・ピエ―ヴェに生まれた画家です。フィレンツェのヴェロッキオの工房で絵画の基本を学び、その後は多くの助手や弟子を抱え数々の依頼を受けたことで知られています。またシスティーナ礼拝堂の壁画制作においては棟梁的な役割を果たしたことでも知られており、イタリア・ルネサンスを代表する画家といえるでしょう。そんなペルジーノの生涯と作品とはどのようなものだったのでしょうか

■ペルジーノとは

ペルジーノは1450年ごろペルージャ近郊のチッタ・デッラ・ピエーヴェに生まれました。本名はピエトロ・ヴァンヌッチといい、「ペルジーノ」とは「ペルージャ人」という意味を表すため、あだ名であると考えられています。その後フィレンツェに出てアントニオ・ヴェロッキオの工房で修業を積んでいますが、このころのヴェロッキオ工房ではボッティチェリやレオナルド・ダ・ヴィンチらが在籍していたといわれています。

ペルジーノは多くの助手や弟子を抱えて大規模な工房を運営していたことで知られており、多くの注文が殺到していました。そのため同じモチーフを繰り返し描かざるを得ず、後世ではやや質が劣ると指摘されています。ただその一方でペルージャとフィレンツェの二都に大工房を構えていたペルジーノは教会や有力者たちにとって依頼しやすい画家であり、その中には教皇も含まれていました。

そうして数々の依頼を受けては作品を制作していたペルジーノは、特にシスティーナ礼拝堂の壁画装飾が代表作として知られています。制作にはボッティチェリやギルランダイオ、シニョレッリなども参加していたのだそう。ミケランジェロと口論になったというエピソードも残っているほどです。

(Public Domain /‘St Sebastian’ by Pietro Perugino. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

ペルジーノはシスティーナ礼拝堂の壁画装飾もふくめ、ペルージャのコッレージョ・デル・カンビオやルーブル美術館に所蔵されている《聖セバスティアヌス》、《アポロとマルシュアス》といった作品を手掛け、フィレンツェを代表する画家となっていきました。一時期はペルージャの執政官をつとめたことでも知られており、画家としてばかりではなく政治家としても手腕を発揮するようになっていきました。

しかし、後世においてレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロといった作品に対する精神性を重視する芸術家が評価されるようになったため、ペルジーノの存在は徐々に忘れ去られていきました。現在においては大規模な工房を運営した経営者としての側面も有していた画家として、再評価がなされるようになっています。

■ペルジーノの作品

ペルジーノの作風は古代ローマ美術から影響を受けた人体描写とウンブリア派の清涼な色彩を併せ持ったものであり、聖人たちや天上世界の描写を表現するのにはもっとも適したものでした。こうした作風はラファエロに受け継がれ、盛期ルネサンス時代を彩ることとなります。そんなペルジーノの作品とはどのようなものだったのでしょうか。主要な作品を中心にご紹介します。

・《聖ペテロへの天国の鍵の授与》 1480年-1482年
(Public Domain /‘Delivery of the Keys’ by Pietro Perugino. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1480年から1482年にかけて制作された作品で、システィーナ礼拝堂に設置されています。ローマ教皇シクストゥス4世が個人礼拝堂の壁のために依頼した、大規模な壁画装飾計画の一部として制作されました。キリストが聖ペテロに対し、天国の鍵を渡す瞬間が描かれています。

ひざまずく聖ペテロに銀と金の鍵を渡すキリストが描かれており、その周囲では、ユダをはじめとする他の使徒たちが光輪をつけて描かれています。その中には、右端から5番目の自画像といわれる人物を含む、同時代の著名人の肖像画も描かれています。

・《聖ベルナルドゥスの幻視》 1493年頃
(Public Domain /‘The Vision of St Bernard’ by Pietro Perugino. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1493年頃に制作された作品で、現在はアルテ・ピナコテークに所蔵されています。サンタマリア・マッダレーナ・デ・パッツィ教会の祭壇画として制作された作品で、シトー会の創始者であるクレルヴォーのベルナルドゥスが見た聖母マリアの幻影を描いています。

クレルヴォーのベルナルドゥスが研究に没頭している途中、日中の澄んだ光の中に現れた聖母マリアの幻影が描かれており、4人の聖人が彼らを取り囲んでいます。舞台はおそらくシトー会の修道院で、風景はペルジーノの故郷であるウンブリア州です。回廊はゴシック様式のアーチと柱に囲まれており、作品のあらゆる要素が古典的に存在しています。

・《アポロンとマルシュアス》 1495年ごろ
(Public Domain /‘Apollo and Marsyas’ by Pietro Perugino. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1495年ごろに制作された作品で、現在はルーブル美術館に所蔵されています。描かれているのは、オリュンポス十二神の一柱であるアポロンと、アポロンと音楽を競い敗北したマルシュアス、あるいはシシリアの羊飼いダフニスです。

手前の二人の裸体像は、古代のギリシャやローマ芸術を連想させます。右側に立っている人物はアポロンで、左手に長い棒を持っています。彼のポーズは、19世紀に再発見された古代ギリシャ彫刻《エルメスと幼児ディオニュソス》から引用されたものと見られます。左側に座って笛を吹いている人物はマルシュアスではないかと議論されていますが、この人物は普通サテュロスとして描かれることが多いため、アポロンに恋に落ちて死んだ若い羊飼いのダフニスではないかとも考えられています。

背景には、都市や城、三本アーチの橋、ペルジーノらしい表現の木々、丘、川などの田園風景が描かれています。

■おわりに

ペルジーノは15世紀に活躍した画家であり、大規模な工房を運営し教皇をはじめとした有力者たちの注文を受け多数の作品を制作したことから、盛期ルネサンスの基盤を築いた画家といえるでしょう。その後レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロなど寡作なものの新しい表現を生み出した画家たちが評価されるようになったため、ペルジーノは時代を経るにしたがって忘れ去られていくようになっていきました。

しかし現存している作品だけでも130点、大規模な壁画装飾や祭壇画など多数の作品を制作した手腕は、一つの才能といえるでしょう。また聖母子像や聖人像などが多いものの、神話画や自画像、肖像画など多岐にわたって制作活動を行っていたことも特筆するべきでしょう。

ペルジーノの作品はフィレンツェを中心としたイタリア各地の教会や美術館などに所蔵されており、今もなお世界中から訪れる人々を魅了し続けています。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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