ティントレット:情熱的な宗教画を描いた画家

(Public Domain /‘Self-portrait’ by Jacopo Tintoretto. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

ティントレット、本名ヤコポ・ロブスティは1518年ヴェネツィア共和国のヴェネツィアに生まれた画家です。ティッツァーノに弟子入りし、師の鮮やかな色彩とミケランジェロのマニエリスム様式を組み合わせた独自の画風を生み出し、非常に情熱的な宗教画を描いたことで知られています。そんなティントレットの生涯と作品とはどのようなものだったのでしょうか。

■ティントレットとは

ティントレット、本名ヤコポ・ロブスティは1518年ヴェネツィア共和国に生まれました。父親ジョヴァンニ・バティスタ・ロブスティは染物屋として働いており、以来ヤコポは「染物屋の息子」を意味する「ティントレット」と呼ばれるようになっていきました。

その後ティツィアーノに弟子入りしたものの、すでにティントレットは画家として十分に画力を有していたため、ティツィアーノの工房で修業した期間はそれほど長いものではありませんでした。1539年にはすでにマエストロを自称するようなっていたことが明らかになっており、このころからすでに独立した画家として活動していたものと考えられます。

1548年に《聖マルコによる奴隷の開放》をサン・ロッコ同信組合から依頼されると、徐々にティントレットは公的な仕事を引き受けるようになっていきました。ティントレットは早描きを得意としていたため、公的な仕事の共同制作においても、他の画家が素描を仕上げる前にタブローを完成させてしまうほどでした。また描くことに貪欲な人物であったため、他の画家たちの仕事を何のためらいもなく手伝い、報酬を求めることもなかったといわれています。

ティントレットはその生涯のほとんどをヴェネツィアで過ごし、数々の作品を制作しましたが、1594年には75歳で死去。遺体は自身の作品が収蔵されているマドンナ・デッロールト教会に埋葬されています。

■ティントレットの作品

ティントレットの作品の特長はヴェネツィア派らしい鮮やかな色彩やマニエリスム様式、そしてバロック的な表現を用いているところにあります。強い明暗対比や引き伸ばされた人物のプロポーションといった表現はマニエリスム、次いではバロック様式で用いられた表現ですが、こうした表現によって作品全体が明るく、そしてドラマチックなものとなります。

またティントレットは生涯のほとんどをヴェネツィアで過ごし、幼いころから亡くなるまでの時間を作品制作に捧げましたが、大型の作品を制作することが多く、中には7m×20mという巨大な作品もみられます。そうした巨大なキャンバスを描き切る能力を持ち合わせていたというところも、ティントレットの特長といえるでしょう。そんなティントレットの作品とはどのようなものだったのでしょうか。

・《奴隷の奇蹟》 1548年

(Public Domain /‘Miracle of the Slave’ by Jacopo Tintoretto. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1548年に制作された作品で、現在はヴェネツィアのアカデミア美術館に所蔵されています。描かれているのは、キリスト教を信仰する奴隷がその信仰のために主人に拷問を受け、聖マルコの墓で祈りを捧げているところを捕らえられてしまったのを、聖マルコが救う場面です。

聖マルコの登場は、非常に派手で、大げさに描かれています。下部は拷問の道具と多くの人々で埋め尽くされており、男性、兵士、女性、黒人など様々な人物で構成されています。ターバンを巻いた東洋人の男性は、ヴェネツィア人にとって伝統的な敵であるトルコ人を表しており、野蛮な異教徒の象徴でもあります。

・《スザンナと長老たち》 1550年頃

(Public Domain /‘Susanna and the Elders’ by Jacopo Tintoretto. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1550年頃に制作された作品で、現在はルーブル美術館に所蔵されています。主題は、スザンナの美しさに魅了された二人の長老が彼女に言い寄ったところ断られてしまったため、逆恨みし姦淫の冤罪をかけるというもので、本作品では、スザンナが水浴びをしているところを長老が盗み見ている場面が描かれています。

微妙な光の変化に富んで描かれた美しいスザンナが、右半分の多くを占めています。鏡の中の自身に没頭しているスザンナは、二人の侵入者の存在に気づいていないようです。歪んだ遠近法、強い光のコントラスト、広大な果樹園はマニエリスムの特徴です。カトリック教会の観点からすれば、この主題の教訓を強調する必要があったはずですが、ティントレットは印象的な方法で、教育的な部分を追いやっています。左後ろの雄鹿は欲望を表し、アヒルは忠実さを連想させ、スザンナの頭上の枝に座っているカササギは、主人公の名誉毀損が迫っていることを示唆しています。

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・《キリストの神殿奉献》 1554年頃

(Public Domain /‘Presentation of Jesus in the Temple’ by Jacopo Tintoretto. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1554年頃に制作された作品で、現在はアカデミア美術館に所蔵されています。描かれているのは、エルサレムの神殿で聖母マリアと聖ヨセフが司祭のシメオンに幼子イエスを献上する様子です。

火のついた大きなロウソクが置いてある祭壇の左側にいる祭司シメオンが、マリアに息子と二匹の亀を引き渡されています。横長の形式で描くことで、一人ひとりの人物を強調するのではなく、その場で何が行われているのかが強調されています。

・《聖マルコの遺骸を焼却から救うアレクサンドリアの信者》 1562年-1564年

本作品は1562年から1564年にかけて制作された作品で、現在はアカデミア美術館に所蔵されています。描かれているのは、アレクサンドリアから来たキリシタンたちが、街を揺るがす嵐に乗じて聖マルコの遺体を持ち去り、磔にされる運命にあった聖マルコを救う場面です。

聖マルコは遺体ながらその生々しさはなく、腐敗の対象とならないように描かれています。一行のすぐ後ろには、嵐が迫っているために恐怖に駆られているヒトコブラクダがいて、地面に倒れている男を引きずっています。背景には、豪華な建物と広い道のある街で、人々が嵐から逃げるように走っている様子が描かれています。空は暗い雲に覆われ、その中にまさに雷も見えます。

■おわりに

ティントレットは16世紀盛期ルネサンスの時代に活躍した画家で、ヴェネツィアを中心に鮮やかな色彩と劇的な画面構成の作品を多数制作しました。その作品の多くはヴェネツィアを中心とした教会や聖堂、美術館に所蔵されており、世界中から訪れる人々を魅了し続けています。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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