パオロ・ヴェロネーゼ:ルネサンス後期ヴェネツィア派を代表する画家

(Public Domain /‘Self-portrait’ by Paolo Veronese. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

パオロ・ヴェロネーゼは1528年にヴェネツィア共和国のヴェローナに生まれた画家です。鮮やかな色彩を用いてフレスコ画や油彩画で非常にすぐれた作品を残したことで知られており、ルネサンス後期のヴェネツィア派を代表する画家として有名です。そんなパオロ・ヴェロネーゼの生涯と作品とはどのようなものだったのでしょうか。

■パオロ・ヴェロネーゼとは

パオロ・ヴェロネーゼは1528年ヴェネツィア共和国のヴェローナに生まれました。父親ガブリエーレは石工であったといわれています。幼いころから芸術の才能を発揮していたヴェロネーゼは、14歳のころにアントニオ・パディーレに弟子入り。その際にはジョヴァンニ・フランチェスコ・カロートも共に弟子入りしたと考えられています。徒弟時代はマニエリスム様式の絵画教育を受けたものの、ヴェロネーゼは1544年の時点ですでにパディーレの工房の水準を超える画力を身に付けており、また輝くような色彩の作品を描くようになったことから、徐々にその名は知れ渡るようになっていきました。

1533年になるとヴェロネーゼはヴェネツィアに移住。1548年にはマントヴァに短期滞在しフレスコ画を制作したことが分かっています。その後もヴェネツィア政府やサン・セバスティアーノ教会から依頼を受け、さまざまな傑作を生みだしていきました。このころの作品により、ヴェロネーゼはヴェネツィアの巨匠としての地位を不動のものにしていきました。

1562年にはヴェネツィアのサン・マルク島サン・ジョルジョ・マッジョーレ修道院のベネディクト会修道僧から依頼を受けて《カナの婚礼》を制作。これは新約聖書のヨハネ福音書に記された一説を主題にしたものでしたが、非常に高価なウルトラマリンを使用するなど、当時としても大変高価な顔料が用いられたものでした。

1573年になるとヴェネツィアのサンティ・ジョヴァンニ・エ・パオロ教会の食堂に《レヴィ家の饗宴》を制作。もとは最後の晩餐を主題として描かれたものであるものの、ローマ・カトリック教会の対抗宗教改革で問題視され、主題を変更せざるを得ませんでした。

(Public Domain /‘The Family of Darius before Alexander’ by Paolo Veronese. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

また、1556年には《シモン家の饗宴》、1565年から1570年にかけては《アレクサンドロス大王の前に出たダレイオスの家族》といった作品を制作し、歴史画や宗教画を中心に多数の名作を描き続けました。ヴェロネーゼは自身の一族で工房を運営しており、その中には弟のベネディットや息子のカルロやガブリエーレなども含まれていました。親族以外でもジョバンニ・バッティスタ・ゼロッティやジョヴァンニ・アントーニオ・ファゾーロといった著名な画家を輩出したことから、ヴェロネーゼは教育者としてもすぐれた人物であったといえるでしょう。

■パオロ・ヴェロネーゼの作品

ヴェロネーゼの作品の特長としては、人物の複雑なポーズ、また極端な短縮法をもちいたマニエリスム的な構成があげられます。また画面の中に明るい光を描くことを得意としており、作品全体に光が満ちるような作風になっています。ヴェロネーゼは大きな工房を運営していたこともあり、こうした画風は親族や弟子たちに引き継がれ、のちのマニエリスムの時代に引き継がれていくこととなります。そんなヴェロネーゼの作品とはどのようなものだったのでしょうか。主要な作品を中心にご紹介します。

・《ヴェネツィアに贈り物をささげるユノ》 1554年-1556年

(Public Domain /‘Juno Showering Gifts on Venetia’ by Paolo Veronese. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1554年から1556年に制作された作品で、現在はパラツィオ・ドゥカーレに所蔵されています。描かれているのはジュピターの妻である女神ユーノーが、女性として表現されたヴェネツィアに多くの恵みを与えている場面です。

ユーノーの手によって、金の王冠、宝石、貨幣がヴェネツィアに流れ込んでいます。帽子とオリーブの花輪も描かれており、権力と平和の召命は表裏一体の関係にあることが、表裏のコインによって示唆されています。

・《カナの婚礼》 1562年-1563年

(Public Domain /‘The Wedding at Cana’ by Paolo Veronese. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1562年から1563年にかけて制作された作品で、現在はルーブル美術館に所蔵されています。描かれているのは、聖母マリアとイエス・キリストがガリラヤのカナで行われた結婚披露宴に出席している場面です。

テーブルの左端に新郎新婦、テーブルの中央にイエス・キリスト、その隣にマリアが描かれています。そのほか、使徒、王族、貴族、役人、事務員、召使など、ベネチアの社交界を代表する様々な人々が、豪華な衣装を身にまとい、宝石などを身につけています。神聖ローマ皇帝カール5世、フランス王妃レオノール・デ・アウストリア、フランス王フランソワ1世、イングランド女王メアリー1世、オスマン皇帝スレイマン1世、詩人ヴィットリア・コロンナ、貴人ジュリア・ゴンザーガ、レジナルド・ポール枢機卿、大宰相ソコルル・メフメト・パシャなど、数多くの歴史上の人物が合わせて約130人描かれています。

・《レヴィ家の饗宴》 1573年

(Public Domain /‘Feast in the House of Levi’ by Paolo Veronese. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1573年に制作された作品で、アカデミア・ギャラリーに所蔵されています。新約聖書のルカによる福音書に直接関連していることはヴェロネーゼが付け加えた碑文からも明らかで、キリストを中心にした宴会が開かれています。しかし、鼻血を出した男、複数の奴隷、酔っぱらったドイツ人などは宗教的な芸術作品に含めるのは不適切であるとされ、最後の晩餐を主題にした作品にもかかわらず、「レヴィ家の饗宴」というタイトルに変更されました。

キリストは淡い緑色の衣を身にまとい、周囲の人々は様々な体勢やポーズで交流しています。祝宴は大きな柱とアーチによって縁取られており、その構成は三連祭壇画を思わせます。画像の中央は、構図の両側にある2組の階段によって強調されています。階段は、見る人の目がキリストの姿に向かって移動するように促す役割を果たしているのです。

■おわりに

パオロ・ヴェロネーゼはルネサンス期のヴェネツィアで活躍し、《カナの婚礼》や《レヴィ家の饗宴》といった美術史に残る傑作を残した画家です。ヴェロネーゼはヴェネツィア派らしい明朗な色彩を用いて壮麗な作品を描いており、その大作の数々はのちのマニエリスムの画家たちに大変な影響を与えました。また異端審問において「我々画家は、詩人あるいは狂人と同じく、心に思ったことを自由に表現する権利を持っている」と言い放ったとされる一説は、当時の芸術家の精神を表しているといっても過言ではないでしょう。

ヴェロネーゼの作品は現在ロンドン・ナショナル・ギャラリーやルーブル美術館をはじめとしたヨーロッパ各地の美術館に所蔵されており、世界中から訪れる人々を魅了し続けています。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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