アントネロ・ダ・メッシーナ:初期ヴェネツィア派の重要な画家

(Public Domain /‘Portrait of a Man’ by Antonello da Messina. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

アントネロ・ダ・メッシーナは1430年ごろシチリア半島東北部の町メッシーナに生まれた画家です。15世紀のルネサンス期に活躍した人物として知られており、フランドルの細密描写をイタリア絵画にとりいれた斬新な作品を数々制作しました。またイタリアにおいて油彩技法で作品を制作した最初期の画家でもあり、つぎつぎと新たな表現や技術を取り入れていったという点では、特筆するべき画家といえるでしょう。そんなメッシーナの生涯と作品とはどのようなものだったのでしょうか。

■アントネロ・ダ・メッシーナとは

アントネロ・ダ・メッシーナは1430年ごろ、シチリア島東北部の町メッシーナに生まれました。父親は大理石職人で、4人兄弟であったといわれています。資料の少なさもあって生涯には不明な点が多いものの、故郷メッシーナを拠点としてナポリやヴェネツィアなどでも制作にあたったといわれています。

またアントネロはさまざまな土地を旅し、自らの作品に取り入れた画家でした。芸術家列伝を著したジョルジョ・ヴァザーリによると、アントネロはフランドルに旅したという記述があり、またナポリ滞在時にはヤン・ファン・エイクなどのフランドル絵画を目にした可能性も指摘されています。そうした意味ではアントネロはイタリア絵画にフランドル絵画の精密さをもたらした画家であるといえるでしょう。

1475年から翌年にかけてはヴェネツィアに滞在しており、ジョヴァンニ・ベリーニらと交流し、ヴェネツィア派の絵画に大きな影響を与えました。アントネロは1479年に50歳前後で亡くなっていますが、1979年から1983年にかけて発行された5000イタリア・リレにはアントネロの肖像画が採用され、イタリアにおける国民的画家として今も愛されています。

■アントネロ・ダ・メッシーナの作品

アントネロ・ダ・メッシーナの作品の特長はなんといっても初期ネーデルランド絵画の影響を受けた作品を制作したことでしょう。それまでのイタリア絵画はルネサンス時代の優美で調和のとれた表現を重視していましたが、アントネロの登場によって衣服やアトリビュート、部屋の中におかれたちょっとした小物にも細密描写が用いられるようになります。メッシーナが新しい技法や表現に興味関心を抱いていたからこそ、こうした画風が成立したといえるでしょう。そんなメッシーナの作品とはどのようなものだったのでしょうか。主要な作品を中心にご紹介します。

・《書斎の聖ヒエロニムス》 1475年頃

(Public Domain /‘Saint Jerome in his Study ’ by Antonello da Messina. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1475年頃に制作された作品で、現在はロンドン・ナショナル・ギャラリーに所蔵されています。壁も天井もない部屋で、凱旋門のようなアーチの奥のアトリエで働く聖ヒエロニムスの姿が描かれています。

アントネロはこの作品の中に、多くのシンボルを含ませました。例えば、聖ヒエロニムスが読んでいる本は知識を表し、彼の周りにある本は、彼がラテン語に翻訳した聖書を意味しています。右側に潜むライオンの影は、聖ヒエロニムスがライオンの前足からとげを抜いたという話に由来しており、このことに感謝して、ライオンは聖ヒエロニムスに付きまとっているのです。

・《受胎告知の聖母》 1473年-1474年

(Public Domain /‘Virgin Annunciate’ by Antonello da Messina. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1473年から1474年にかけて制作された作品で、現在はシチリア州立美術館に所蔵されています。描かれているのは、処女マリアの目の前に天使のガブリエルが降り、マリアが聖霊によって妊娠したことを告げる場面ですが、この主題では珍しく、描かれているのはマリアのみです。

天使が去ったばかりの瞬間のマリアの表情が捉えられています。聖母の手は、謙虚な驚き、不信感、謙虚さを表現しています。油絵具を使用することで、非常に柔らかい色調で描くことに成功しました。

主な特徴は、この作品が受胎告知を主題にしたものであるにもかかわらず、天使が見当たらないことです。そのため、鑑賞者はマリアの態度のみで何が起こっているのかを理解しなければなりません。この絵は「神秘的」とされ、長年にわたって様々な種類の調査や研究の対象とされてきました。美術史の中で最も謎に満ちた絵画の一つ、そして最も重要な絵画の一つとみなされています。

・《キリストの磔刑》 1475年

(Public Domain /‘Calvary’ by Antonello da Messina. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1475年に制作された作品で、現在はアントウェルペン王立美術館に所蔵されています。描かれているのは、イエスがゴルゴタの丘で十字架にかけられている場面です。

十字架にかけられたイエスは作品の中央に描かれており、両脇には、ねじれた枝にはりつけられた二人の盗賊がいます。手前には、痛みに包まれ祈りを捧げる聖ヨハネと聖母マリアが座り込んでおり、彼らの周りには、頭蓋骨やフクロウ、蛇など、死の暗黒の前兆を示す数々の象徴も描かれています。

2010年に実施された最近の地形学的研究では、絵の丘を実際の風景と比較したところ、メッシーナ海峡の風景が元になっている可能性があることがわかっています。

・《聖セバスティアヌス》 1478年

(Public Domain /‘St. Sebastian’ by Antonello da Messina. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1478年に描かれた作品で、現在はドレスデン国立絵画館に所蔵されています。描かれているのは聖セバスティアヌスで、3世紀にディオクレティアヌス帝のキリスト教迫害で殉教したことで知られています。特に柱に身を縛り付けられ、矢を射られた姿で描かれることが多く、本作品においてもそうした姿で描かれています。

聖セバスティアヌスの光に照らされてゆるやかに造形された身体のボリュームは、アンドレア・マンテーニャの作品を彷彿とさせますが、縛られている髪の毛や木の皮などのリアルなディテールは、アントネロ作品の典型的なものです。

そのほか、左側の横たわっている男性、典型的なヴェネツィア様式の煙突、柱、建物の記念碑的な外観、右側の議論をしている二人の男性などは、後期ゴシック様式の要素とヴェネツィア、フラマン、ルネッサンス様式の要素が面白いほどに混ざり合っています。

■おわりに

アントネロ・ダ・メッシーナは15世紀に活躍した画家であり、フランドル絵画からの細密描写や遠近法、フランドル美術などを取り入れ、それまでのイタリア絵画にない新しい表現を生み出したことで有名な人物です。また鮮やかな色彩表現はヴェネツィア派のその後の発展につながったといわれています。

アントネロの作品は現在ヨーロッパ各地の美術館に所蔵されており、現存する資料が少ないことから今もなお研究が進められています。また15世紀のイタリアやフランドルなど国際関係を考察するうえでも重要な画家であるとして、注目が集まっています。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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