アンドレア・デル・サルト:フィレンツェの伝統的な絵画を描いた画家

(Public Domain /‘Self-portrait’ by Andrea del Sarto. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

アンドレア・デル・サルトは1486年フィレンツェに生まれた画家です。フィレンツェ派の巨匠ピエロ・ディ・コジモに師事し、フィレンツェの伝統を惹き付いた作品を制作し続けたことで知られています。1518年からはフランス国王フランソワ1世に招かれてフォンテーヌブローで制作し、フィレンツェのルネサンス絵画をフランスに伝えることにもなりました。そんなアンドレア・デル・サルトの生涯とはどのようなものだったのでしょうか。

■アンドレア・デル・サルトとは

アンドレア・デル・サルト、本名アンドレア・ディアグノーロは1486年フィレンツェに生まれました。ルネサンス期の画家たちは通称で呼ばれることが多く、アンドレアもそうしたうちのひとりであり、父親が仕立屋だったため「仕立屋の」という意味の「デル・サルト」をつけて呼ばれるようになったと考えられています。

アンドレアは1494年まで金細工師に弟子入りした後、木彫師で画家のジャン・バリレ(Gian Barile)に弟子入りし、1498年まで一緒に暮らしました。その後、フィレンツェ派の巨匠の一人であるピエロ・ディ・コジモに弟子入りし、後にラファエッリーノ・デル・ガルボに弟子入りしたと言われています。

(Public Domain /‘The Birth of Saint John the Baptist’ by Andrea del Sarto. Image via The Metropolitan Museum of Art)

自分の工房を持ち独立したアンドレアは、1518年から翌年にかけてフランス王フランソワ1世に招かれ、フォンテーヌブローへ赴きました。代表作である『アルピエ(ハルピュイア)の聖母』には、安定した三角形構図、甘美な色彩、レオナルド・ダ・ヴィンチの影響が見られるスフマート技法など、彼独自の画風の特色が見られます。

1530年に腺ペストで43年の人生を終えサンティッシマ・アンヌンツィアータ教会に埋葬されましたが、アンドレアの弟子からはポントルモ、ロッソ・フィオレンティーノなど、次世代のマニエリスム絵画を担う画家が輩出されています。

■アンドレア・デル・サルトの作品

アンドレア・デル・サルトの作品の特長は、レオナルド・ダ・ヴィンチの代表的な技法であるスフマートや安定的な構図をもちいた16世紀初頭の古典主義に則った傾向といえるでしょう。こうした表現はフィレンツェで長く描かれてきた伝統的な表現であり、師であるアンドレアから弟子のポントルモやロッソ・フィオレンティーノらに引き継がれ、のちのマニエリスムの表現の基礎を築くことになりました。そのため、ルネサンスとマニエリスムの橋渡し的な存在となった画家と考えられています。そんなアンドレア・デル・サルトの作品とはどのようなものだったのでしょうか。主要な作品を中心にご紹介します

・《ノリ・メ・タンゲレ》 1509年-1510年

本作品は1509年から1510年にかけて制作された作品で、現在はフィレンツェのピッティ美術館に所蔵されています。描かれているのは、復活したキリストがマグダラのマリアの前に姿を現す場面で、柵で囲まれた生垣や放射状に生い茂った木など、植物の要素が多く含まれています。

手前には、ひざまずいて背筋を伸ばしているマグダラのマリアと、十字軍の旗を掲げているイエスが描かれています。地平線をパネルの中央に設定し、師であった巨匠ピエロ・ディ・コジモの手本から派生したと思われる、柔らかなニュアンスのある作図が施されています。

遠くの青い靄の風景には、墓の中の三人のマリアや井戸の中のサマリヤ人の女性など、キリスト復活後のエピソードを想起させる人物も描かれています。

・《受胎告知》 1512年ごろ

(Public Domain /‘The Annunciation’ by Andrea del Sarto. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1512年ごろに制作された作品で、現在はフィレンツェのピッティ美術館に所蔵されています。描かれているのは、非常に演劇的な雰囲気を持つ聖母マリアと三人の天使との交流の場面です。

作品の奥をよく見てみると、ほぼ裸で座り込んでいる人物と、風通しの良さそうなロッジの中から彼女を指差す3人の男性の姿が描かれています。これはおそらく、『旧約聖書』の「ダニエル書」で語られているスザンナの物語から参照されたものでしょう。手前の聖母と天使の姿は、人間的な優しい美しさと、詩的な力強さに満ちています。

・《アルピエの聖母》 1517年

(Public Domain /‘Madonna of the Harpies’ by Andrea del Sarto. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1517年に制作された作品で、現在はウフィツィ美術館に所蔵されています。描かれているのは台座の上に立つ聖母子、周りに立つ天使と聖人です。台座にアルピエという女面鳥身の生物が描かれていることから、このように呼ばれています。

人物はレオナルド・ダ・ヴィンチが描いたようなオーラを放ち、ピラミッド型の構図をとっています。異教神話に登場するアルピエは誘惑と罪を表しており、聖母はそれを克服してその上に立っているのです。幼子イエスは少し成長した姿で描かれており、たくましいポーズをとっています。

聖母の左側には、聖ヨハネが非常に洗練された赤い衣服を着て立っており、反対側には素朴な色の服を着た聖フランチェスコがそれぞれ彫刻的に描かれています。色と影で作られた暖かく神秘的な後光は、この絵がもたらす豊かな精神的メッセージを暗示しています。

■おわりに

アンドレア・デル・サルトは16世紀初頭に活躍したフィレンツェの画家であり、一時はフランス王フランソワ1世の招きでフォンテーヌブローに滞在するなど、国際的な活動をした人物です。古典主義に則った安定した構図や穏やかな色彩を用いた画風が特徴的で、レオナルド・ダ・ヴィンチのスフマート技法を用いるなど、ルネサンス後期らしい表現の作品を描いた画家といえるでしょう。

アンドレアの表現はその後、次世代の画家として活躍することになるポントルモやロッソ・フィオレンティーノらに引き継がれることとなり、マニエリスムの基礎を築くこととなります。アンドレアの作品はフィレンツェを中心としたイタリア各地の教会や美術館に所蔵されており、世界中から訪れる人々を魅了し続けています。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

関連記事一覧