ピエロ・ディ・コジモ:ルネサンス時代に幻想的な作品を制作した画家

(Public Domain /‘Illustratio from “Le Vite”’ by Giorgio Vasari. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

ピエロ・ディ・コジモは1462年にイタリア、フィレンツェに生まれた画家です。コジモ・ロッセリのもとで修業したことが分かっているものの、確実な資料が少なく、いまだ研究が続けられている画家のひとりです。コジモの作品は古代の神話などからインスピレーションを受けたといわれており、イタリアルネサンス時代においても移植ともいえる作品を残しました。そんなピエロ・ディ・コジモの生涯と作品とはどのようなものだったのでしょうか。

■ピエロ・ディ・コジモとは

ピエロ・ディ・コジモは本名をピエロ・ディ・ロレンツィオといい、1462年フィレンツェに生まれました。コジモの生涯については資料が少ないこともあって明らかになっていることが少なく、教会などからの公的な注文を受けることがほとんどなかったため、その来歴を調べることは非常に困難なものとなっています。数少ない史料である芸術家列伝を著したジョルジョ・ヴァザーリによると、コジモ・ロッセリのもとで修業したと記されているものの、これも確証はなく、いまだに研究が続けられている画家のひとりです。

修業を終えるとコジモは1481年に師と共にバチカンのシスティーナ礼拝堂の壁画装飾に携わっており、ロセッリが担当していた壁画の背景部分を手伝ったとも言われています。徐々に古代の神話からインスピレーションを得た神秘的で寓意めいた主題の作品を描くようになりましたが、1490年代になると宗教改革者であるサヴォナローラが登場し、フィレンツェの状況が一変したことによって、元から描いていた宗教的な主題の作品を描くようになっていきます。

■ピエロ・ディ・コジモの作品

コジモの作品は数十点現存しているものの、制作年代がはっきりしていないこともあり、その来歴さえ明らかにできないものがほとんどです。しかしそれぞれの作品は古代神話からインスピレーションを受けた作品や当時の肖像画としては考えられない表現を用いた《シモネッタ・ヴェスプッチの肖像》などルネサンス時代に活躍した画家としては異色の人物であり、その作品の背景を探る試みが今も行われています。そんなピエロ・ディ・コジモの作品とはどのようなものだったのでしょうか。主要な作品を中心にご紹介します

・《シモネッタ・ヴェスプッチの肖像》 1480年または1490年ごろ

(Public Domain /‘Portrait de femme dit de Simonetta Vespucci’ by Piero di Cosimo. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1480年ごろまたは1490年ごろに制作されたと考えられている作品で、現在はコンデ美術館に所蔵されています。描かれているのはジェノヴァ出身のシモネッタ・ヴェスプッチで、15歳か16歳の時にフィレンツェのマルコ・ヴェスプッチと結婚したジェノバ貴族の女性です。彼女はその美しさでフィレンツェ中から賞賛されていましたが、1476年に23歳で夭逝したことで後に伝説となりました。

左を向き横顔を見せる少女の胸はむき出しになっており、彼女が身につけているネックレスには小さな蛇が絡みついています。背景に描かれている、澄んだ顔色とのコントラストを成す暗い雲は彼女の早逝の象徴であり、背景の枯れ木もその象徴として描かれています。

彼女の持つ特徴の純粋さと、三つ編みやリボン、ビーズで精巧に作られた髪型の豪華さには驚かされます。ヘアラインは当時の流行に基づいてシェービングされており、非常に高い位置にあります。体の角度は見やすいようにわずかに見る側に向けて回転されており、豊かな刺繍と象嵌が施された布が包み込んでいます。

・《聖母のエリザベート訪問》 1489年-1490年

(Public Domain /‘Visitation, with Saints Nicolas and Anthony Abbot’ by Piero di Cosimo. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1489年から1490年にかけて制作された作品で、現在はワシントン・ナショナル・ギャラリーに所蔵されています。描かれているのは新約聖書の一説「聖母のエリザベート訪問」で、聖母マリアと洗礼者ヨハネの母である年老いた聖エリザベスが出会う場面です。

手前左側の聖ニコラスは、貧しい貴族の娘たちに施しをしていたことを示す3つの金の玉を持っており、右側の聖大アントニオスは、杖、鐘、そしていつも連れ添っている豚から彼だと識別できます。背景には、遠くの教会の壁に受胎告知、左には東方三博士の礼拝、中段には幼児虐殺の様子が描かれています。

この絵画の高度なリアリズムは、当時フィレンツェで流行していたフランドル美術の影響を受けていると考えられます。構図は、中央の主要人物の両側に聖人が配置されており、伝統的な三連祭壇画形式を想起させます。聖人たちがベースとなり、マリアとエリザベスの頭部を頂点とするピラミッド型の構図は、当時のレオナルド・ダ・ヴィンチ作品による影響があると考えられます。

・《アレクサンドリアの聖カタリナの神秘の結婚》 1493年

本作品は1493年に制作された作品で、現在はフィレンツェ捨て子養育院美術館に所蔵されています。描かれているのはアレクサンドリアの聖カタリナと聖母子で、中央には装飾された玉座に座る聖母子、周りには天使と聖人がピラミッド型に配置されています。

この作品はドメニコ・ギルランダイオの作品を思い起こさせるもので、市松模様の床にはっきりと現れている遠近法の厳密な使用、手前の小物に見られる細部へのフランドル的な配慮、そして両脇の丘陵地と中央に開いた湖を巧みに配置した風景の心地よさは高く評価されています。

描かれている聖人は、左からペテロ、ヴィテルボのローザ、アレクサンドリアのカタリナ、福音記者ヨハネです。これらの聖人は、フィリッピーノ・リッピのような15世紀後半の芸術家によく見られる、熱を帯びた感情の激しさを含ませて描かれています。

・《蜂蜜の発見》 1505年-1510年

(Public Domain /‘The Discovery of Honey by Bacchus’ by Piero di Cosimo. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1505年から1510年にかけて制作された作品で、現在はマサチューセッツ・ウースター美術館に所蔵されています。ジョバンニ・ヴェスプッチから依頼された本作品は、コジモの他の神話的な絵画と同様に、鑑賞者が自分の博学さを示すことができる要素が散りばめられている作品です。蜂のテーマは、ヴェスプッチ家の紋章に描かれた動物と結びついています。

右手前のバッカスとアリアドネは、ミツバチの群れを空洞の木に定住させるため、引き付ける音を立てるサテュロスとマイナスを連れ添っています。背景には、牧歌的な町の風景と荒涼とした風景が並置されており、文明の歴史の一歩と考えられる蜂蜜の発見が象徴的に描かれています。

■おわりに

ピエロ・ディ・コジモはルネサンス時代において異教からインスピレーションを受け、同時代にはない作品を制作したことで有名な画家です。その幻想的な表現は制作された当時から人々の注目を集めていました。公的な注文を受けることがほとんどなかったことから、作品それぞれの来歴についてはいまだ研究が進められているものの、そのどこか幻想的な雰囲気漂う作品には現在もなお注目が集まっています。

ピエロ・ディ・コジモの作品は現存する作品は数十点と限られているものの、イタリアを中心に各地の美術館に所蔵されており、世界中から訪れる人々を魅了し続けています。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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