カルロ・クリヴェッリ:装飾的な表現で名を馳せたヴェネツィア派の画家

カルロ・クリヴェッリは1430年ごろに生まれた画家です。金箔を施した黄金のパネルに描いた祭壇画で有名であり、古典的であるもののどこか官能的な表現は当時から大変な人気を集めました。そんなカルロ・クリヴェッリの生涯と作品とはどのようなものだったのでしょうか。

■カルロ・クリヴェッリとは

カルロ・クリヴェッリは1430年ごろイタリア・ヴェネツィアに生まれました。史料の少なさもあって明らかになっていない点が多いものの、修業時代はヴィヴァリー二一族の工房で過ごしていたことが分かっています。ヴィヴァリーニ一族は15世紀のヴェネツィア絵画における二大流派の一つで、明瞭な色彩や柔らかな線描を特長としており、国際ゴシック様式特有の金色を用いた豪奢な祭壇画制作で知られていました。クリヴェッリの作風はこのころつちかわれたものと考えられています。

その後クリヴェッリはパドヴァに移り、同じくパドヴァで活躍していたマンテーニャの影響を受け、その画風はより硬質なものに変化していきます。徐々に画家としての名声を得るようになっていたクリヴェッリでしたが1457年には既婚女性と不倫関係に、またその女性を誘拐するという暴挙に出て、6カ月の懲役を科せられてしまいます。その後クリヴェッリは各地を放浪することになり、1459年にはイストニアのタザールに滞在。1468年から亡くなるまではマルケ地方で制作を行っていたといわれています。

■カルロ・クリヴェッリの作品

カルロ・クリヴェッリの作品の大きな特徴は、国際ゴシックの様式を引き継ぎ、装飾的で豪奢な作品を制作したことでしょう。その画風はヴィヴァリーニ一族のもとで修業していた折に培われたものと考えられますが、当時のフィレンツェは調和のとれた構成や解剖学に則った人体表現を重んじる自然主義が流行しており、クリヴェッリの表現は当時のルネサンスの画家たちからは異なるものでした。そんなクリヴェッリの作品とはどのようなものだったのでしょうか。主要な作品を中心にご紹介します。

・《ピエタ》 1476年

(Public Domain /‘Pietà’ by Carlo Crivelli. Image via The Metropolitan Museum of Art)

本作品は1476年に制作された作品で、現在はメトロポリタン美術館に所蔵されています。描かれているのは、死んで十字架から降ろされたキリストを抱く聖母マリアの様子です。

クリヴェッリは装飾的な効果と、極端なリアリズムの細部とを対比させて描いています。例えば、腫れ上がった傷と目立った静脈を持つ手は、墓の縁から鑑賞者の間に垂れ下がっています。歪んだ線は抽象的で非現実的な人物像を生み出していますが、この構図は厳粛で並外れて力強いドラマチックな効果を強めています。17世紀には、この絵はローマのバルベリーニ家が所有していたもので、額縁には彼らの紋章である蜂が飾られています。

・《マグダラのマリア》 1477年

(Public Domain / ‘Mary Magdalene’ by Carlo Crivelli. Image via Rijksmuseum Amsterdam )

本作品は1477年に制作された作品で、現在はアムステルダム国立美術館に所蔵されています。クリヴェッリが住んでいたマルケス地方の、人口の少ない田舎の教会に設置する祭壇画として制作されました。

描かれているのはイエスの足に香油を塗り、自らの髪の毛でぬぐったとされる聖女マグダラのマリアで、金色のパネルに非常に装飾的に描かれています。彼女は大理石の階段の上に立っており、お姫様のような髪型をしています。片手で彼女のイコンである香油壺を持ち、もう片方の手の指先でマントを持ち上げています。下部では、観客に向かって足とドレスの一部が階段からはみ出しており、浮き彫りになった金彩の豊かさは後期ゴシック時代を彷彿とさせます。

・《受胎告知》 1486年

(Public Domain /‘The Annunciation, with Saint Emidius’ by Carlo Crivelli. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1486年に描かれた作品で現在はロンドン・ナショナル・ギャラリーに所蔵されています。1482年に教皇シクストゥス4世がアスコリ・プチェーノ市に自治権を与えたことを記念して制作されたもので、地元の教会の祭壇画として制作されました。

天からの降り注ぐ光は、マリアが聖霊によってイエス・キリストを胎内に迎え入れたことを表しています。左側の閉ざされた通路とマリアの寝室の純水のフラスコは、マリアの処女性を表しています。翼のある天使ガブリエルは、アスコリ・プチェーノの守護聖人である聖エミディウスとともに、この町の模型を持って描かれています。手前のリンゴは、禁断の果実とそれに伴う人間の堕落を表しており、孔雀は、その肉が朽ちることがないと信じられていたため、不死を象徴しています。

・《ろうそくの聖母》 1488年−1490年

(Public Domain /‘Madonna of the candle’ by Carlo Crivelli. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1488年から1490年にかけて制作された作品で、現在はミラノのブレラ美術館に所蔵されています。もともとはカメリーノ大聖堂の多翼祭壇画の一部として描かれたものでしたが、1799年の地震で教会が破壊されると、この絵も破損し、この地域の他の多くの絵とともにサン・ドメニコ教会に移されました。

大理石の玉座の上には、果実と植物の装飾があり、背もたれには布が張られています。聖母マリアは膝の上に子を乗せて座り、梨を手にしています。彼女はエレガントな服を着て頭に冠をかぶり、彫像のようです。彼女の顔の完璧な楕円形は感情を出すことなく、梨と遊んでいる憂鬱なまなざしを持つ幼子イエスの姿と対照的です。また、様々な色の豊かなダマスク織の布地、宝石から大理石の斑点のある鏡まで、すべてが装飾的であり、段差を降りると、桃、マリアの処女性を表すユリ、受難と純潔の象徴である赤と白のバラで満たされた水差し、サクランボ、署名の碑文、そして作品のタイトルにも含まれている細い蝋燭が描かれています。

■おわりに

クリヴェッリはルネサンス時代において国際ゴシック様式の流れを受け継いだ金色を多用した表現と非常に硬質な描写の作品を残したことで知られており、クリヴェッリの作品はルネサンス時代において極めて異質な作品といえるでしょう。

クリヴェッリの作品は19世紀初頭のナポレオンの侵攻とイタリア統一の混乱によって世界中に散逸することになってしまい、制作当時の作品が設置されているのは一部の礼拝堂にすぎません。そうした点を考えると、美術館に所蔵されたクリヴェッリの作品は大変な歴史を乗り越えてきた作品であるといえるでしょう。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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