国立中世美術館:中世の息吹を感じ取ることができる美術館

国立中世美術館はフランス、パリ5区にある美術館で、中世の絵画や彫刻、宝飾品、装飾写本、ステンドグラスなどの作品を所蔵しています。特に連作タペストリー《貴婦人と一角獣》は、その見事な織と構図から世界中のアートファンの注目を集めています。今回は国立中世美術館の歴史と、コレクションについて詳しく解説していきます。

■国立中世美術館とは

国立中世美術館はフランス、パリ5区にある美術館で、中世の絵画や彫刻、宝飾品、装飾写本、ステンドグラスなどの作品を所蔵しています。もともとは13世紀に建設されたクリュニー修道院の修道院長の別邸として建てられた建物で、15世紀末にはクリュニー修道院長であったジャック・ダンボワーズによって全面的に修復、改築されました。その後はさまざまな用途に用いられていたものの、17世紀にはローマ教皇庁大使館がおかれ、18世紀には天文台として使われていました。

1832年になると、会計検査院の主任評定官を務める、中世美術の愛好家であったアレクサンドル・デュ・ソムラームが建物の一部を住まいとし、自身のコレクションを収蔵していました。ソムラームが亡くなると、国が建物とソムラームのコレクションを購入し、またパリ市も修道院が建設される以前のガロ=ロマン時代の浴場および彫刻や宝飾品を譲渡したことから、こうしたコレクションをもととして「クリュニー浴場および館の美術館」が設立。ソムラームの息子であるエドモン・デュ・ソムラームが初代館長に任命されました。

エドモン・デュ・ソムラームはその後も《貴婦人と一角獣》や《聖ステファノ伝》などのタペストリーを収集し、もともと1500点ほどであったアレクサンドル・デュ・ソムラームコレクションは、エドモン・デュ・ソムラームが亡くなる際には11000点にも達していたといわれています。

1992年には「クリュニー浴場及び館の美術館」から「国立中世美術館―クリュニー浴場及び館」に改名され、フランスの中世芸術を収蔵・展示する美術館として一般公開されています。

■国立中世美術館のコレクション

現在、国立中世美術館のコレクションは23,600点以上となっており、そのうち2,300点が公開されています。展示室は23室、美術館の床面積は3.500㎡となっており、時代ごとでは古代から初期中世、ロマネスク芸術、リモージュの琺瑯、ゴシック芸術、15世紀、地域ごとではコプト美術、初期の王国、ビュザンティオン、ローマ帝国、フランス、英国、イベリア半島、イタリア、スペイン、ゲルマン諸国、北欧諸国とフランスのみならず、ヨーロッパ全体の中世芸術を俯瞰できる展示になっています。

そんな国立中世美術館のコレクションにはどのような作品が含まれているのでしょうか。主要な所蔵品を中心にご紹介します。

・《船乗りの柱》 1世紀

国立中世美術館では中世の作品だけでなく、古代彫刻の作品も所蔵しています。特に本作品はパリ最古の彫刻としても知られており、ガロ=ロマン時代にセーヌ川で船を使った運送に携わっていた人々の様子を後世に残す、貴重な資料として研究されてきました。

西暦1世紀ローマ帝国の第二代皇帝であったティベリウスの統治下において、当時のガリア地方にあった街「ルテティア」の船乗りたちがローマ神話の主神であるユピテルに献納したものと考えられています。ただその一方で、狩猟を司る神であるケルヌンノスや戦いの神であるエススなどケルト神話の神々たちも描かれており、当時は異なる宗教が混合して信仰されていたことを示しています。

本作品は、18世紀にノートルダム大聖堂の聖歌隊席の下から発掘されました。ローマと同じく、パリもさまざまな時代を経てきた都市であるため、国立中世美術館の展示品からはその長い歴史を感じ取ることができます。

・《貴婦人と一角獣》 15世紀末

《貴婦人と一角獣》とは15世紀末に制作されたタペストリーで、若い婦人とユニコーンがともに描かれた作品です。制作年は不明である者の、おそらくパリで下絵が描かれ、フランドルで織られたものと考えられています。

タペストリーの中に描かれた旗やユニコーンが身に付けている盾には、フランス王シャルル7世時代の有力者であったジャン・ル・ヴィストの紋章である「三つの三日月」が描かれているため、おそらくこのタペストリーを作らせたのはル・ヴィストであると考えられています。また作中には獅子と一角獣が何度も登場しますが、獅子のフランス語読みとル・ヴィストの出身地であるリヨンの発音は似ており、また同様に足の速い一角獣を示す「viste」がル・ヴィストの発音に似ていることから、獅子と一角獣が描かれるに至ったのではないかと考えられています。

本作品のテーマは長年不明とされていますが、「味覚」「聴覚」「視覚」「嗅覚」「触覚」そして「我が唯一の望み」から構成されています。「我が唯一の望み」が具体的にどのようなものを指しているのかはいまだに明らかになっていません。それぞれのタペストリーには若い貴婦人とユニコーンが描かれ、獅子や猿なども登場し、それぞれが花や植物を一面にあしらった模様で彩られた小さな陸地の上に描かれています。

「味覚」では貴婦人が侍女に差し出されている皿からキャンディを受け取っており、ユニコーンはそんな貴婦人たちをはさむように旗を掲げています。「聴覚」では貴婦人は小型のパイプオルガンを弾いており、侍女はオルガンのふいごを動かしています。「視覚」では貴婦人は地面に座り、右手には手鏡を持っています。ユニコーンはその鏡に映る己の顔を眺めているようです。「嗅覚」では貴婦人は立っており、胸の前にある手は花輪を作っているとされています。一方猿、は貴婦人の後ろにある籠から花を取り出して匂いをかいでいます。「触覚」では貴婦人はみずから旗を掲げ、片手はユニコーンの角に触れています。

(Public Domain /‘The Lady and the Unicorn’ by Unknown author. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

そして、この作品の中でもっとも謎とされているのが「我が唯一の望み」です。絵の中央には紺色のテントが置かれ、その上部には「我が唯一の望み」と書かれています。貴婦人はネックレスを外し、侍女が差し出す小箱にネックレスを収めようとしています。「我が唯一の望み」は若い貴婦人がネックレスを小箱にしまうことによって他の五感によって起きた情熱を収めようとしている、あるいは「理解する」という6番目の感覚を示しているのではないかという説もあります。

■おわりに

国立中世美術館は美術館としては珍しく、古代から中世の作品を所蔵している美術館です。建物自体も13世紀にクリュニー修道院長の別邸として建てられたということもあり、美術館全体が中世の雰囲気を漂わせています。

また、国立中世美術館の所蔵品の中でももっとも有名なのが、《貴婦人と一角獣》です。5つの感覚を示しているとされる5枚のタペストリーと、「我が唯一の望み」と題された1枚のタペストリーからなる連作タペストリーは、長年美術史研究者の間でもその来歴や描かれているモチーフについて議論が行われてきました。この作品はフランス国外へ貸し出されることはほとんどないので、パリに訪れた際にはぜひ訪ねてみてはいかがでしょうか。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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