ウジェーヌ・ブーダン美術館:ブーダンとオンフルールゆかりの画家たちの作品が楽しめる美術館

ウジェーヌ・ブーダン美術館はフランスのオンフルールにある美術館で、1868年に開館しました。ブーダンの作品はもちろん、オンフルールにゆかりのある印象派の作品から現代の画家たちの作品、ノルマンディの民族衣装なども所蔵されており、地域の文化を伝える美術館としても親しまれています。そんなブーダン美術館の歴史と所蔵品について詳しく解説していきます。

ウジェーヌ・ブーダンとは

ウジェーヌ・ブーダンは1824年にノルマンディ地方のオンフルールで水夫の子として生まれました。一家はその後ルアーヴルに引っ越し、父親は水夫を辞めて文具商として働くようになります。当時のルアーヴルにはバルビゾン派の画家たちが多数滞在しており、その中にはトロワイヨンやミレーといった画家たちも含まれていました。

1859年になると写実主義の画家クールベと出会い、パリのサロンへ初出品。1857年には印象派の巨匠クロード・モネと出会い、戸外制作を教えています。印象派の画家たちは当時のアカデミズムの画家たちがアトリエで制作していたのに対し、戸外で制作し光や風の動きをも作品に描くというポリシーの下作品制作を行っていました。もしブーダンがモネに教えることがなければ、印象派がこれほどまでに絵画史に残ることはなかったのかもしれません。また1874年の印象派展にはブーダンも出品しており、ブーダンと印象派の画家たちの間では交流が続きました。

その後ベルギーやオランダ、南フランスを旅し、ヴェネツィアに滞在して制作を行いながらもパリのサロンへの出品をつづけ、1881年には第3賞、1889年には金賞を受賞。1892年にはレジオン・ドヌール勲章を受章します。1898年にはドーヴィルで生涯を閉じることになりますが、その青空と雲の美しい表現はボードレールやコローから「空の王者」と賛辞を受けるほどでした。

ウジェーヌ・ブーダン美術館とは

ウジェーヌ・ブーダン美術館はブーダンとその友人であるアレクサンドル・デュブールの発案で1868年に設立されました。もともとはアウグスティノ修道会の礼拝堂内に作られたものの、1974年には近代的な建物が増築され、ふたつの広い展示室ではコレクションをもとにさまざまな展覧会が行われています。

ブーダン美術館のコレクションはブーダンの53点の作品と仲間の作品17点から始まりましたが、その後もオンフルールにゆかりのある印象派の画家の作品や現代の画家たちの作品も収集し、コレクションを豊かなものにしていきました。その中にはクロード・モネやギュスターヴ・クールベ、ラウル・デュフィなどフランス絵画史を彩る画家の作品が含まれています。またノルマンディ地方の民族衣装や家具なども展示されており、地域の文化を伝える美術館としても親しまれています。そんなブーダン美術館の所蔵品の中には、どのようなものが含まれているのでしょうか。主要な作品をご紹介します。

《オンフルール近郊の海岸》 1866年 ギュスターヴ・クールベ

本作品はギュスターヴ・クールベによって1866年に描かれた作品で、オンフルール近郊の海岸をダイナミックなタッチで描いたものです。キャンバスの2/3には空が描かれており、大気の流れによって雲が徐々に流れていく様子が描かれています。また、下部に描かれている海岸はそんな空とコントラストを生み出すかのように静かな空気に包まれており、波の音が聞こえてきそうです。

《トゥルーヴィルのオンフルールの道》 1860年ごろ ウジェーヌ・ブーダン

本作品は1860年ごろウジェーヌ・ブーダンによって描かれた作品で、オンフルールの海岸線の道を描いたものです。ブーダンらしく空はキャンバスに大きく描かれており、まるで大気が動いているかのように雲は写実的に描かれています。その明るい空とは対照的に、木々は暗めのタッチで描かれており、空とのコントラストが作り出されています。まっすぐ続く道には前に進む人々と一匹の犬が描かれており、穏やかな午後の昼下がりを思わせます。

(Public Domain /‘Eugène Boudin’ by Unknown author. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

ブーダンは1859年ギュスターヴ・クールベに出会い、彼をきっかけとしてサロンに出品しました。クールベは見たものをそのまま描くという写実主義の画家であり、作品もそうしたポリシーを反映するかのようにはっきりとしたタッチで描かれました。クールベとの出会いの翌年に描かれた本作品は、そんなクールベの表現の影響が見られます。

《オンフルール、サント・カトリーヌ広場、市場》 1865年 ヨハン・バルトルト・ヨンキント

本作品はヨハン・バルトルト・ヨンキントによって1865年に描かれた作品で、オンフルールの中でも特に歴史のあるサント・カトリーヌ地区を描いたものです。サント・カトリーヌ地区はいまなお歴史のある建造物が残る地域で、当時の画家たちにも非常に人気のあった場所でした。特に15世紀から16世紀にかけて建造されたサント・カトリーヌ教会はモネをはじめとした画家たちに幾度となく描かれたことで知られており、現在はウジェーヌ・ブーダン美術館の別館となっています。

(Public Domain /‘Johan Barthold Jongkind’ by Unknown author. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作を描いたヨハン・バルトルト・ヨンキントは1819年にオランダとドイツの国境近くのオーファーアイセル州ラートロープで生まれた画家です。ハーグの芸術アカデミーで学んだ後、1847年にパリのモンマルトル地区に移り住み、ウジェーヌ・イザベイやフランソワ=エドゥアール・ピコに師事。サロンの出品作はボードレールやエミール・ゾラから称賛を浴びたものの、アルコール依存症とうつ病を患っており、その評価が安定することはありませんでした。また1862年にはクロード・モネと師弟関係となり、作品制作に励んだものの、1891年にはフランス南東のグノーブルに近いラ・コート=サン=タンドレで71歳の生涯を閉じています。

本作品ではサント・カトリーヌ教会をやや右よりに描き、左には街並みを描くことで、安定した構図を作り上げています。キャンバスに対して空をやや多めに描くことで、目線を下ろすにしたがって徐々に描く対象が増えており、こういったコントラストは本作品を魅力的にさせている一因といえるでしょう。

おわりに

ウジェーヌ・ブーダン美術館はブーダンの生まれ故郷オンフルールに設立された美術館で、当初はブーダンの遺品と友人たちの作品をコレクションとしてはじまりました。現在では、現代の画家たちの作品やノルマンディの民族衣装や家具を展示するなど、ブーダンと印象派、そしてオンフルールという観点でコレクションが収集されています。

ウジェーヌ・ブーダン美術館があるのはフランスの北、パリからはかなり距離があり、なかなか足を延ばすのは難しいかもしれません。しかし昔ながらの街並みを楽しみながら、ブーダンや当時の画家たちの作品に親しむにはもってこいの場所といえるでしょう。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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