アングル美術館:新古典主義の巨匠アングルの作品を所蔵する美術館

アングル美術館はフランスのモントーバンにある美術館で、1854年に開館しました。新古典主義の巨匠として数々の名作を残したドミニク・アングルの作品を主に所蔵しており、絵画作品の他にもデッサンやアングルの遺品を鑑賞することもできます。そんなアングル美術館の歴史と所蔵品について詳しく解説していきます。

ドミニク・アングルとは

ドミニク・アングルは1780年フランスの南東部のモントーバンに生まれた画家です。父親のジャン=マリー=ジョセフ・アングルは画家、彫刻家、装飾美術家として生計を立てていた人物で、アングルも幼少期から芸術に親しむ環境にありました。また父から音楽を学んでいたことでも知られており、音楽家のニコロ・パガニーニとともに弦楽四重奏を結成していたことでも知られています。

アングルは11歳の時に美術アカデミーに入学、1797年にはパリで新古典派の巨匠ジャック=ルイ・ダヴィッドのアトリエに入門します。また1801年には《アキレウスのもとにやってきたアガメムノンの死者たち》でローマ賞を受賞。ローマ賞は政府給費生として国費でイタリア留学が許可されていたため、若手芸術家たちの登竜門として知られていました。アングルは当時のフランス国内の混乱により留学が延期されたものの、1806年にようやく許可され、1824年までイタリアに滞在します。その後1824年のサロンに出品したノートルダム大聖堂祭壇画《ルイ13世の誓願》によりダヴィッドの後継者として認められ、44歳のアングルは帰国することになります。当時のフランスでは新しい芸術運動としてロマン主義が盛んになっており、新古典主義の芸術家たちは新しいリーダーを求めていました。アングルはまさにうってつけの人物だったのです。

その後アングルは《グランド・オダリスク》や《浴女》といった代表作を制作。また、《トルコ風呂》は82歳の時の作品で、円形のキャンバスに多数の裸婦が描きこまれています。オリエンタリズムを感じさせる退廃的な雰囲気が漂っており、晩年になっても制作意欲に満ちていたことがわかります。

アングル美術館のコレクション

そうして新古典主義の巨匠としてフランス絵画史に残る傑作を残したアングルですが、1851年、71歳の時には自分の作品や自身が収集した古代ギリシアの陶器コレクションの一部を生まれ故郷であるモントーバンに寄付しました。そうしたコレクションは1854年から展示されるようになり、1867年にアングルが亡くなったのちには所蔵していた多くのデッサンや遺品がモントーバンのコレクションに加わり、アングルの作品を所蔵している美術館としては最大規模の美術館となりました。

そんなアングル美術館の所蔵品には、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な作品をご紹介します。

(Public Domain /‘The dream of Ossian’ by Jean-Auguste-Dominique Ingres. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

《オシアンの夢》 1813年 ドミニク・アングル

本作品はドミニク・アングルによって1813年に描かれた作品で、スコットランドの伝説の英雄詩人、オシアンをテーマとしています。オシアンはジェイムズ・マクファーソンが発見した古代の盲目の詩人とされる人物で、「フィンガル」、「テモラ」などの散文作品を残したとされています。この人物が実在したのか、真偽の程は不明ですが、原文の翻訳とされる本が出版されるとセンセーションを巻き起こし、18世紀から19世紀にかけて大きな文化的影響を与えました。

アングルは、このテーマをとてもシンプルに扱いました。作中、うつ伏せに寝ているオシアンの夢の中に登場している人物は、まるでアラバスターの彫刻のようで、疲れ果て、命を失ったように横たわって描かれています。まるで彼ら自身が眠り込み、夢を見ているかのようにも見える作品です。

(Public Domain /‘Le Christ remettant les clefs de l’Eglise à Saint-Pierre’ by Jean-Auguste-Dominique Ingres. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

《聖ペテロの天国の鍵の授与》 1820年-1841年 ドミニク・アングル

本作品はドミニク・アングルによって1820年から1841年ごろに描かれた作品で、初代教皇聖ペテロに天国の鍵がイエス・キリストに手渡される様子が描かれています。本作品はローマ賞を受賞し、アングルがローマに滞在していた折にトリニタ・ディ・モンティ教会から依頼を受けて制作した作品で、20年近くの年月を経てようやく完成となった作品です。その後1855年の万国美術展へも出品され、アングルの代表作の一つとしても知られています。

描かれているのは、新約聖書マタイ伝16章に記されているイエスが天国の鍵を聖ペテロに手渡す場面で、中央に描かれるイエス・キリストは青のガウンを身にまとい、右手を天に向け、光輪を携えた神々しい姿で描かれています。聖ペテロはイエスの足元に跪いて、イエスを見上げています。その背後には十二使徒たちが描かれており、それぞれさまざまな表情を浮かべています。

(Public Domain /‘Jesus among the doctors’ by Jean-Auguste-Dominique Ingres. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

《博士たちと議論するキリスト》 1842年-1862年 ドミニク・アングル

本作品は1842年から1862年にかけて制作された作品で、アングルの晩年に制作されました。主題となっているのは、新約聖書ルカ福音書に記されている幼少期のイエスの賢さを強調する一説です。

このエピソードで、12 歳のイエスは、マリアとヨセフ、そして彼らの親戚や友人を連れて、エルサレムへ巡礼しに行きました。帰ってくる時、マリアとヨセフは家に戻りましたが、そこでイエスが行方不明であることに気付きます。3日後、イエスは神殿で博士たちと議論を交わしているところを発見されるのです。

この主題には珍しく、明るく、少し衝突しているようにも見えるはっきりとした色使いで描かれています。青、紫、黄、赤、緑の衣服を身に纏った博士たちは、どこか典型的なイメージを打ち破るようです。

おわりに

アングル美術館はアングルが生前モントーバンに寄贈したアングルの作品と古典彫刻のコレクションをもととして開館した美術館であり、アングルの絵画作品はもちろん、デッサンや個人的な遺品なども目にすることができる美術館です。《トルコ風呂》や《グランド・オダリスク》といったアングルの代表作はパリのルーブル美術館やオルセー美術館に所蔵されていますが、アングルの作品を全体的に鑑賞するには一番適した美術館といえるでしょう。

アングル美術館はフランス南部のモントーバンに位置しており、パリから訪れるには少々距離がありますが、アングルの作品とその世界に浸りたいという方は、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。ルーブル美術館やオルセー美術館のコレクションとともに鑑賞すると、アングルの芸術観がよりいっそう味わえるかもしれませんよ。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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