アラス美術館:修道院建築の中で作品を楽しめる美術館

アラス美術館はフランス北部の都市、アラスにある美術館です。聖ヴァースト修道院を改修した建物を活用した美術館で、12世紀から16世紀の彫刻や絵画作品、また19世紀の絵画作品でも質の高いコレクションを有しています。そんなアラス美術館の歴史と主な所蔵品について詳しく解説していきます。

アラス美術館とは

北フランスのアラスは羊毛産業で栄えた土地として知られています。12世紀にはフランス国王から商業特権を与えられたということもあり、国際的な銀行業と貿易業の中心地となりました。そんなアラスにあるアラス美術館は7世紀にできた聖ヴァースト修道院の教会を起源としています。

聖ヴァースト修道院は7世紀に建造された建物です。当時、アラスの第7代大司教である聖オベールは、聖ペテロに敬意を表し、アラスの初代司教を務めていた聖ヴァーストが建てた小さな礼拝堂の跡地に、ベネディクト派の修道士のための修道院の建設を始めました。聖ヴァーストの遺品はこの新しい修道院に移され、低地の修道院の中でも重要な存在となりました。司教の管轄からも免除され、1778年まではその独立性を維持していましたが、1778年にはクリュニー修道会に統合されました。

フランス革命の際には弾圧され、修道院の建物は最初の頃は病院として、その後は兵舎として使用されました。1838年、修道院の敷地は市によって購入され、一部は美術館や資料館として、残りは司教の住居として使用されます。

一時期、修道院の一部は破壊されていましたが、1833年に再建され、現在は革命時に破壊された地元の大聖堂の代わりにアラスの大聖堂として機能してきました。修道院の建物は現在、アラス美術博物館になっています。宗教建築と公共サービスが融合した施設としてはフランス最大のものであり、中世の雰囲気と芸術作品を合わせて楽しめるユニークな施設となっています。

アラス美術館のコレクション

アラス美術館では12世紀から16世紀の彫刻に加え、フィリップ・ド・シャンパーニュやシャルル・ルブラン、またルーベンスや二コラ―ス・マース、ウジェーヌ・ドラクロワやジャン=バティスト・カミーユ・コローといった19世紀の絵画作品も所蔵しています。そんなアラス美術館のコレクションには、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な所蔵品をご紹介します。

(Public Domain /‘Jesus among the doctorsThe Children of Bethel Mourned by their Mothers’ by Laurent de La Hyre. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

《幼児虐殺》 1653年 ローラン・ド・ラ・イール

本作品は1653年にローラン・ド・ラ・イールによって描かれた作品で、新約聖書の一説「幼児虐殺」を描いたものです。幼児虐殺は新約聖書の「マタイによる福音書」2章16節から18節に記されている出来事で、新しい王がベツレヘムに生まれたと聞いたヘロデ大王が自らの王権が奪われることにおびえ、ベツレヘムで2歳以下の男児をすべて虐殺しろと命令したといわれる一説です。

ローラン・ド・ラ・イールは1606年2月27日にフランスのパリに生まれた画家で、バロック時代の画家として活躍した人物です。パリに滞在していたイタリア人芸術家たちの作品に大きな影響を受けており、その作風は安定した構図や写実的な人物表現が用いられています。本作品においては神殿と森が背景に描かれ、その前には幼児虐殺が行われた後の凄惨な風景が描かれています。右端のピンクのショールを身にまとった女性は、彼女の前に倒れている、おそらく彼女の子どもと思われる人物の死に深い悲しみのポーズを見せています。多くの人々が悲しみの表情を見せる一方で、背景には死者を運び出そうとする人物も描かれており、混乱が過ぎ去った後の静けさもまた表現されています。

(Public Domain /‘Portrait of a Woman’ by Nicolaes Maes. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

《女性の肖像》 1667年 ニコラス・マース

本作品はオランダのバロック時代の画家ニコラス・マースによって描かれた作品で、女性の半身像が描かれています。ニコラス・マースは裕福な商人の家庭に生まれ、1648年にはアムステルダムに赴き、レンブラントの工房で学び、画家として独立しました。そのため、マースの初期の作品にはレンブラントの影響が色濃くみられます。また1655年から1665年までは比較的小さなサイズの風俗画を描き、女性が糸紬をする姿や食事の準備をする姿など、家庭的なモチーフをよく扱いました。

本作品では中年にさしかかった女性の半身像が描かれています。背景は赤と黒で表現されており、女性の顔と手元にはハイライトが当てられています。こうした表現はレンブラントの工房で修業していた名残ということもできるでしょう。また当時の装束であるリボン付きのレースの首飾りや指輪、手元の小箱などは女性が比較的裕福な身分の女性であることを示しており、女性の顔つきにも自信が表れています。

(Public Domain /‘Paysage à Lambres’ by Constant Dutilleux. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

《ランブルの景色》 1865年 コンスタント・デュティユー

本作品は1865年にコンスタント・デュティユーによって描かれた作品で、フランス北東部の農村ランブルを描いた作品です。コンスタント・デュティユーは1808年にドゥエーに生まれた画家で、画家の他にも版画家としても活躍しました。デュティユーは風景画家として知られており、特にジャン・バスティーユ・カミーユ・コローから大きな影響を受けたといわれています。

本作では、けぶるようなタッチで水面の風景が描かれています。画面奥から流れる川にはおそらくボートと思われる黒い物体がいくつか浮いており、赤や黄色、緑といった色に色づいた葉が風に揺れ動く様子が描かれています。中央には白い壁とオレンジ色の屋根の建物など、農村の美しい風景が描かれています。

おわりに

アラス美術館はフランスの美術館の中でも珍しく修道院建築を利用し、またマルチメディア館を有しているなど近代的なサービスを提供している美術館です。アラス美術館では12世紀から16世紀の彫刻に加え、フランスやフランドルの画家たちの作品を所蔵しています。こういった作品を修道院建築の中で鑑賞できるというのは、非常に贅沢な体験であるといえるでしょう。

アラス美術館はフランス北東部にあり、パリからは離れた場所にありますが、賑わいから逃れて静かに作品鑑賞したいという方にはぴったりの美術館になっています。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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