トロワ近代美術館:フランス近代美術からアフリカ美術まで

トロワ近代美術館はフランスのトロワにある美術館で1982年に開館しました。実業家のピエール・レヴィとその妻であるドゥニーズが1976年にフランス国家に寄贈したコレクションをもとにして開館した美術館で、ギュスターヴ・クールベやピエール・ボナールといったフランス近代絵画の作品からガラス工芸品やアフリカ美術まで、多岐にわたるコレクションを所蔵しています。そんなトロワ近代美術館の歴史と所蔵品について詳しく解説していきます。

トロワ近代美術館とは

トロワ近代美術館はフランスのトロワにある美術館で、1982年に開館しました。トロワはフランス北部、グラン・テスト地域圏のコミューンで、オーブ県の県庁所在地にあたります。16世紀から20世紀にかけてはニット産業が栄え、ヨーロッパにおけるニットの一大中心地でもありました。1940年にはナチス・ドイツによって爆撃を受けたこともあったものの、戦後になって復興し、古き良き歴史を伝える街となっています。

そんなトロワにあるトロワ近代美術館開館のきっかけになったのは、1976年に実業家で美術収集家のピエール・レヴィが個人所有していた2,000点をフランス国家に寄贈したことでした。ピエール・レヴィは1907年生まれで、フランス軍とも取引をしていた繊維工場を経営し、フランス最大級の繊維会社にした人物です。レヴィ家のメンバーは、多くの有名な画家や彫刻家と個人的に親交があり、その結果、20世紀初頭のフランスの前衛絵画のコレクションが多くを占めていました。

フランス大統領フランソワ・ミッテランのもと1982年に開館したこの美術館は、トロワの旧司教館に設立されています。大聖堂の南側に位置する司教館は、古代のガロ・ローマ様式の建物の上にあり、その基礎にはローマ様式の柱と擁壁が築かれています。最初の司教館は11世紀に建てられたもので、中央のシャンパーニュ様式の部分は16世紀に建てられたものです。トロワ近代美術館はこうした長い歴史を持つ宗教建築の中で芸術作品を楽しめる、たぐいまれな場所なのです。

トロワ近代美術館のコレクション

トロワ近代美術館のコレクションはレヴィ夫妻が収集した二コラ・ド・スタール、ベルナール・ビュッフェ、バルテュスといった画家たちの作品が含まれています。フォービスムの画家たちやジョルジュ・ブラックといった20世紀美術の巨匠たちの作品も所蔵されています。そんなトロワ近代美術館のコレクションには、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な所蔵品をご紹介します。

《レスタックの風景》 1906年 ジョルジュ・ブラック

(Public Domain /‘Georges Braque, 1908’ by Photographer non-identified, anonymous. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1906年にジョルジュ・ブラックによって制作された作品で、ブラックが滞在した南仏プロヴァンスのマルセイユの北西の港町レスタックを描いたものです。ジョルジュ・ブラックは1882年にセーヌ川沿いの町アルジャントゥイユに生ました。1900年にパリに出てフォービスムに近い作品を制作したり、セザンヌに影響を受けた作品を制作したりしながらパブロ・ピカソと出会い、キュビスムを創始。その後は文字を挿入したり、絵の具に砂を混ぜたりと新しい表現の作品を模索していきました。

ブラックは1906年10月から1907年の2月まで友人の画家フリエスとレスタックで過ごしていますが、これはブラックが尊敬していたポール・セザンヌが1870年代と1880年代にレスタックに滞在し、風景画を制作していたためでした。セザンヌの影響を受けた画家たちはまるで巡礼するかのようにレスタックを訪れ、数多くの画家たちがレスタックを主題にして制作しました。

本作品では色鮮やかな緑や赤、紫やオレンジといった色を用いてレスタックの風景が描かれています。若きブラックはこうしたフォービスム的な画風の作品を描いており、暖かい光に照らされるレスタックの町が色鮮やかに描かれています。また本作品にも見られる対象を極めて単純化してとらえようとする取り組みは、その後のキュビスムを期待させます。

(Public Domain /‘Jane Avril’ by Henri de Toulouse-Lautrec. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

《ジャンヌ・アヴリル》 1893年 トゥールーズ=ロートレック

本作品は1893年トゥールーズ=ロートレックによって制作された作品で、フレンチカンカンの人気ダンサーであったジャンヌ・アヴリルを描いたものです。アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックは1864年、南仏のアルビに生まれた画家で、ポスター作品をはじめとした傑作を描いたことで知られています。

ロートレックは由緒正しい伯爵家に生まれ、「小さな宝石」と呼ばれて可愛がられていたものの、弟が幼くして亡くなったことをきっかけに両親は別居。それをきっかけとして母親と共にパリに住まうようになり、父親友人の画家からレッスンを受けます。徐々に芸術の才能を示し始めていたものの、13歳と14歳の時に足の骨を骨折し、その後足が成長することはなく、成人した時も身長は152cmにすぎませんでした。そんなロートレックは父親から疎まれるようになり、孤独にさいなまれるようになっていきました。

しかしそんなロートレックを救ったのは、芸術でした。ロートレックは自身が身体障碍者として差別を受けていたこともあり、娼婦や踊り子たちといった夜の女性たちと交流するようになり、また女性たちもロートレックに親しみを感じるようになります。ロートレックは次第に夜の女性たちを主題としてさまざまな作品を制作するようになっていきました。

(Public Domain /‘Jane Avril’ by Paul Sescau. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品はそうした作品の一つで、フレンチカンカンのダンサーであるジャンヌ・アヴリルを描いたものです。ジャンヌ・アヴリルはフランス・パリのヴェルヴィルで生まれたものの、父親であるルイジ・ディ・フォンと伯爵は不在がちで、かつ母親はアルコール中毒でジャンヌを折檻することがあったため、ジャンヌは家から逃げ出します。官憲に捕まえられてピチエ・サルペトリエール病院に収監されたこともあったものの、16歳で釈放されると昼夜問わずに働き、ダンサーとして身を立てることに成功します。

本作品では黒いタイツを履き、オレンジが印象的なドレスに身を包んだジャンヌが足を高く上げており、その踊りに合わせるように曲を演奏しているのであろう演者の手と楽器、そして楽譜が手前に描かれています。こうした大胆な構図は日本美術から影響を受けたものという指摘もあります。

おわりに

トロワ近代美術館は実業家ピエール・レヴィがそのコレクションをフランス国家に寄贈したことではじまった美術館であり、20世紀後半から60年代までの多様な作品を目にすることができます。こうした作品を所蔵するにあたってレヴィ夫妻はガラス工芸作家のモーリス・マリノや画家アンドレ・ドランからアドバイスを受けて作品を購入しており、その友情を示すかのようにマリノやドランの作品もコレクションに含まれています。

また古くからの建築様式が残る旧司教館を改修した建物に美術館があるのも、フランスならではといえるかもしれません。古き良き建築と20世紀の芸術作品を楽しむことはもちろん、エントランスから外を眺めると司教館であった際には菜園であった中庭があり、現在では彫刻作品を楽しむこともできます。

トロワは決してアクセスが良いとは言えませんが、フランスを訪れた際には、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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