トゥール美術館:大司教の館を改装した美術館

トゥール美術館はフランスのトゥールにある美術館で、1910年に開館しました。19世紀から20世紀のフランス国内外の絵画、特にアンドレア・マンテーニャやルーベンス、レンブラントの作品を所蔵していることで有名です。そんなトゥール美術館の歴史と所蔵されているコレクションについて詳しく解説していきます。

トゥール美術館とは

トゥール美術館はフランソワの中部、アンドル=エ=ロワール県の県庁所在地にある美術館で、1910年に開館しました。トゥールは古代ローマ時代にトゥロネンシスと呼ばれていました。3世紀の半ばになると聖ガティアヌスがローマからトゥールに派遣され、4世紀の後半にはのちに聖人となるマルティヌスがトゥールの司教をつとめるなど、キリスト教的にも重要な土地といえます。また第二次世界大戦の際にパリが陥落した際にはフランス政府が移転したことでも知られており、その後すぐにボルドーへ退避したものの、近代史においても重要な役目を果たしました。

トゥール美術館はトゥール駅からおよそ10分のところにあり、もともとは大司教館だった建物を改装したものです。18世紀に建てられた大司教館の前には、フランス風の庭園が広がっていて、当時の装飾の一部も残されています。博物館の中庭には、大きなレバノン杉が植えられています。また、宮殿の向かい側の中庭には、サーカスに出演していた象の剥製があります。

トゥール美術館のコレクション

トゥール美術館のコレクションはトゥレーヌ地方の城や修道院などから移された美術工芸品に加え、ルーベンスやレンブラント、ドラクロワをはじめとした15世紀から20世紀の作品が展示されています。そんなトゥール美術館のコレクションにはどのような作品が含まれているのでしょうか。主要な所蔵品をご紹介します。

(Public Domain /‘The Resurrection’ by Andrea Mantegna. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

《キリストの復活》 1459年 アンドレア・マンテーニャ

本作品は1459年にアンドレア・マンテーニャによって制作された作品で、磔刑に処されたキリストが復活した姿が描かれています。アンドレア・マンテーニャは1431年にパドヴァ近郊のイゾーラ・ディ・カルトゥーロに生まれた画家です。パドヴァの画家フランチェスコ・スクァルチオーネに師事したのち、1450年ロドヴィゴ・ゴンザーガ候の招きでマントヴァに移り、ゴンザーガ家の宮廷画家として数々の作品を制作しました。また1471年から1480年ごろにかけて銅版画に直接彫るエングレービングという銅版画を制作したことでも知られています。

マンテーニャの作風は遠近法とごつごつした硬質な線描を駆使したものであり、イタリア・ルネサンスの画家たちの中では非常に異色のものでした。またマンテーニャが活躍した15世紀後半においてはすでに油彩技法が普及していたものの、テンペラを用いて制作しており、画風にしても制作スタイルにしても非常に特異であった画家といえるでしょう。

本作品では中央の岩山の前に医師の棺がおかれ、その棺から一歩踏み出すキリストの姿が描かれています。キリストは神々しい放射線状の光に包まれており、またそれを祝福するように天使たちが描かれています。その周りにはキリストの墓を見張る兵士たちが描かれており、それぞれ目の前で起きていることが信じられないというかのように驚きのポーズを見せています。

他のマンテーニャの作品に見られるように強調された遠近法は用いられていないものの、ごつごつとした岩山の表現や、ひび割れた大地の表現はまさにマンテーニャらしい表現と言えます。また人物配置はどこか劇的でもあり、イタリア・ルネサンスには見られない独自の表現で描かれています。

(Public Domain /‘Agony in the Garden’ by Andrea Mantegna. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

《オリーブ山のキリスト》 1459年 アンドレア・マンテーニャ

本作品は1459年にアンドレア・マンテーニャによって制作された作品で、ゲッセマネのオリーブ山上で祈るキリストの姿を描いたものです。

キリストは弟子である聖ペテロ、小ヤコブ、聖ヨハネの3人を連れてゲッセマネのオリーブ山にのぼり、父なる神に自らに迫る災いを退けるように祈りを捧げます。画面右側には悲壮な表情を浮かべるキリストが手を合わせて祈りをささげており、そのキリストに応えるかのように天使が天から手を伸ばしています。3人の弟子たちはぐっすりと眠りこみ、キリストの様子には気が付いていません。キリストの表情は救世主、神の子というよりも、これからわが身に訪れる磔刑を心から恐れている様子で、非常に人間らしい感情で表現されています。マンテーニャはイタリア・ルネサンスにおいて異色の画家といわれますが、こうした感情表現はルネサンスの影響を受けているといえるでしょう。

本作品にはマンテーニャの特長である遠近法が用いられており、画面右側には街や神殿が、そしてそこからキリストを捕縛するために向かってくるローマ軍が描かれています。先頭にはキリストを裏切ったユダが描かれており、ローマ軍を導くように振り返っています。また右側上部に描かれた岩山はマンテーニャらしく、ごつごつとした筆致で描かれており、左上部に描かれた壮麗な街並みとのコントラストを生み出しています。このさまざまな要素を一つの作品にまとめ上げているという点で、マンテーニャの高い画力がうかがえる作品となっています。

(Public Domain /‘Shepherd in the Alps’ by Joseph Vernet. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

《アルプスの羊飼いの娘》 1763年 クロード・ジョセフ・ヴェルネ

本作品は1763年にクロード・ジョセフ・ヴェルネによって制作された作品で、ジャン=フランソワ・モンマルテルの牧歌的な物語を主題にして描いたものです。

本作品を描いたクロード・ジョセフ・ヴェルネは1714年にフランス、アヴィニョンに生まれました。フィリップ・ソーヴァンに絵画の手ほどきを受けたのちにローマ留学などを経験し、1740年代からはフランスの高位高官やイタリア人、イギリス人などから風景画の注文を受けるようになります。ドゥニ・ディドロはジャン・シメオン・シャルダンとともにヴェルネのことを「まったく驚嘆すべき画家」と表現しており、壮大な風景画は王侯貴族たちや有力者の間で大変な人気となりました。

本作品はジャン=フランソワ・モルモンテルの物語の主人公であるアデライードとトリノの若い貴族フォンローズ伯爵を描いたものです。アデライードは高貴な家柄の出身であるものの、自らの出自を知らないまま羊飼いとして暮らしており、フォンローズ伯爵はそんなアデライードに恋をしています。アデライードは「草が隠し始めた石が見えますか。それは、最も優しく高潔で、私の愛と軽率さのせいで命を失ってしまった男性の墓です」と伯爵に打ち明け、亡き夫の墓を伯爵に示します。

本作品において画面のほとんどは雄大なアルプスの自然で占められており、特に空に広がる雲や山の表現は秀逸といえるでしょう。またアデライードが腰かける樹齢を感じさせる太い木はヴェルネの観察力を示すかのように、非常に写実的に描かれており、背景のダイナミックなアルプスの風景とコントラストを生じさせています。

おわりに

トゥール美術館はフランスのトゥールにある美術館で、サン・ガシアン大聖堂に隣接して建つ大司教の館を改装した美術館です。15世紀から20世紀のフランス国内外の絵画を所蔵・展示しており、アンドレア・マンテーニャをはじめとしたキリスト教美術のコレクションは特に定評があります。トゥールを訪れた際には、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

関連記事一覧