ボナ美術館:19世紀フランス絵画の名作を楽しめる美術館

ボナ美術館はフランス、バイヨンヌにある美術館で、1897年に開館しました。エコール・デ・ボザールの教授として活躍したレオン・ボナのコレクションをもとにし、エル・グレコやピエール・ピュヴィ・ド・シャヴァンヌといったヨーロッパ美術の傑作を所蔵していることで有名です。そんなボナ美術館の歴史と所蔵品について詳しく解説していきます。

■ボナ美術館とは

ボナ美術館のあるバイヨンヌはフランス南西部、ピレネー=アトランティック県の郡庁所在地にあたります。古くローマ時代には駐屯地がおかれ、百年戦争の際は英仏間でこの地をめぐって争いが繰り返されたこともあり、武器製造が盛んになったこともありました。その後1854年にはパリと鉄道で結ばれ、ビアリッツで休暇を過ごす人々の観光拠点となりました。また13世紀から14世紀にかけて建設されたサント=マリー大聖堂は世界遺産に認定されており、バイヨンヌの守護聖人である聖レオンの聖遺物を保管していることから、街の人々の信仰を集める地ともなっています。

(Public Domain /‘Self-portrait’ by Léon Bonnat. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

そんなバイヨンヌにあるボナ美術館は、バイヨンヌ出身の画家であるレオン・ボナが生前に収集したコレクションを1891年に寄贈したことから創設されました。レオン・ボナは1833年にバイヨンヌに生まれた画家で、1854年にパリに移るとエコール・デ・ボザールで学び、肖像画家として知られるようになっていった人物です。1867年にレジオンドヌール勲章を受章したのちはアカデミーのサロン審査員に選出され、1888年にはエコール・デ・ボザールの教授となっています。ボナの教え子にはギュスターヴ・カイユボットやジョルジュ・ブラック、ラウル・デュフィといった20世紀美術の巨匠として知られることになる画家たちも含まれており、ボナが教育者としても非常に優れていたことがわかります。

ボナは自らの画業や教育者としての務めを果たす一方で、コレクターとしてもその才能を発揮していました。ボナ美術館に寄贈されたコレクションは画家が自身の作品以外を体系的に収集した珍しい例として研究の対象にもなっています。その後個人コレクターからの寄贈も相次ぎ、ボナ美術館は地方でも有数の美術館として名を知られるようになっていきました。

■ボナ美術館のコレクション

ボナ美術館に所蔵されているレオン・ボナのコレクションは15世紀からのヨーロッパの画家たちの作品を所蔵したものです。その中にはエル・グレコやゴヤといったスペインの画家たちの作品やジャック・ルイ・ダヴィッドやドミニク・アングル、ウジェーヌ・ドラクロワといった19世紀フランス絵画のコレクションに定評があります。

そんなボナ美術館のコレクションには、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な作品をご紹介します。

(Public Domain /‘The Half-Length Bather’ by Jean-Auguste-Dominique Ingres. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

・《半身像の浴女》 1807年 ドミニク・アングル

本作品はドミニク・アングルによって1807年に制作された、浴女を描いたシリーズの一作品に数えられる作品です。

ドミニク・アングルは1780年にフランス・パリに生まれた画家で、11歳の時にトゥールーズの美術アカデミーに入学したのち、1797年には新古典主義の巨匠ジャック=ルイ・ダヴィッドのアトリエに入門。1801年には《アキレウスのもとにやってきたアガメムノンの使者たち》でローマ賞を受賞します。ローマ賞は当時の若手画家たちにとって登竜門であった賞で、受賞者は国費でのローマ滞在が許されていました。アングルの場合はフランス国内の混乱から留学が延期されていたものの、1806年にはようやくローマに滞在。その後《浴女》や《ユピテルとテティス》といった傑作を描いたのち44歳で新古典主義の後継者としてフランスに帰国することとなります。

本作品はそんなアングルがローマ滞在時に浴女を描いた一連の作品のひとつとして知られる作品で、若い女性がこちらをふりかえる様子が描かれています。女性の髪には布が巻かれ、水浴びをしていることがわかります。こうした浴女の表現にはイタリア・ルネサンス、特にラファエロの影響が指摘されており、女性の理想的な身体美が表現されています。浴女を描いた作品は、当初展示された際は好意的な評価は少なかったものの、1855年にパリ万国博覧会に《ヴァルパンソンの浴女》が展示されると途端に高い評価を受けるようになりました。

本作品を皮切りにしてアングルは浴女をテーマとした作品を数多く描き、1863年にはアングルの代表作にあたる《トルコ風呂》を描くこととなります。浴女を描いた最初の作品という意味では、本作品はアングルを研究するうえで非常に重要といえるでしょう。

(Public Domain /‘The Happy Land’ by Pierre Puvis de Chavannes. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

・《穏やかな土地》 1882年 ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ

本作品は1882年にピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌによって制作された、穏やかな理想的な世界が描かれた作品です。

ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌは1824年にフランスのリヨンに生まれた画家です。当初は父親と同じ技師になるつもりであったものの、病にかかったことで断念し、その後イタリアに旅して画家を志すようになります。1850年にはサロンにデビューするものの8年連続で落選してしまい、画家としての道は閉ざされたかのように思えましたが、当時のパリではナポレオン3世のもとパリ大改造計画が行われており、公共建築の建造プロジェクトが数多く進められていました。シャヴァンヌはそういった建物の壁画を依頼されるようになっていきます。

シャヴァンヌの作風の特長は、イタリアを旅行した際に目にしたフレスコ画に影響を受けたと思われる静けさと詩的な雰囲気の漂うタッチといえます。また平面的かつ装飾的な表現を得意としており、こうした表現は大画面の壁画に非常に適していました。シャヴァンヌはパンテオン・ソルボンヌ大学、またボストン公共図書館の壁画なども手掛けており、その作品はパリを中心とした各地で見ることができます。

本作品は1882年のサロンに出品された作品で、友人であったボナはシャヴァンヌの肖像画を出品しました。2人は友情の証として2点の作品を交換したといわれています。もともとはパリのボナの邸宅を飾ることを目的として描かれた作品であり、理想的で私的な世界が描かれています。本作品の制作にあたっては数点のスケッチと図面が残されており、それらはアメリカのイェール大学に所蔵されています。

■おわりに

ボナ美術館はエコール・デ・ボザールの教授として活躍した画家レオン・ボナのコレクションを基盤として創設された美術館であり、スペイン絵画から19世紀フランス絵画まで充実したコレクションを所有しています。ボナのコレクションは体系化されており、ボナの画風を探る上でどのように過去の巨匠たちの作品を研究していたか、また当時の画家たちがどのように過去の作品を認識していたかといったテーマを探るうえで貴重な手がかりになっています。

ボナ美術館はスペイン国境近くのバイヨンヌにあり、TGV大西洋線が走っていることからパリからもアクセスが良い場所にあります。フランスを訪れた際には、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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