ナショナル・ギャラリー:イギリスを代表する美術館

ナショナル・ギャラリーはイギリス、ロンドンにある美術館で、13世紀から20世紀までの作品を所蔵しています。ヨーロッパ諸国の国立美術館に比べると所蔵数は少ないものの、西洋美術史上きわめて重要とされるコレクションがそろっていることで知られています。そんなナショナル・ギャラリーの歴史と所蔵品について詳しく解説していきます。

■ナショナル・ギャラリーとは

ナショナル・ギャラリーは、イギリス・ロンドンのトラファルガー広場にある美術館で、1824年に開館しました。開館するきっかけとなったのは、イギリスの芸術家たちがヨーロッパ諸国の芸術に触れる機会を作るべきだとイギリスにおける国立美術館の創設を求めたことで、1805年には英国美術振興協会が設立されます。

1823年にはロシアからロンドンに亡命してきた銀行家ジョン・ジュリアス・アンガースタインが生前収集していたコレクションが売りに出されることになり、1823年にはホイッグ党の政治家であるジョージ・エイガー=エリスが議会でこのコレクションを購入する提案を出します。当時、オーストリアからの戦時公債の返済により潤っていたことから、イギリス政府はアンガースタインのコレクションを購入し、このコレクションをもとにナショナル・ギャラリーが開館することになりました。このコレクションにはラファエロやホガースの《当世風の結婚》シリーズなどが含まれていたものの、数は38点あまりと規模としては小さいものでした。このことから、美術館は個人からの寄付や購入などによって徐々にコレクションの拡大を進めていきました。

そんな小さなコレクションから始まったナショナル・ギャラリーでしたが、現在では600万人近くの人々が世界中から訪れており、世界有数の美術館の一つとなっています。

■ナショナル・ギャラリーのコレクション

ナショナル・ギャラリーは13世紀半ばから20世紀までの2,300点余りを所蔵しており、この点数はほかのヨーロッパ諸国の国立美術館に比べると決して多いとは言えません。しかし「ジョットからセザンヌまで」という言葉にも表されているように、西洋美術史上きわめて重要とされている作品が所蔵されており、質の高いコレクションを誇っています。

そんなナショナル・ギャラリーのコレクションには、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な所蔵品をご紹介します。

(Public Domain /‘The Entombment’ by Michelangelo. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

・《キリストの埋葬》 ミケランジェロ 1500年ごろ

本作品はイタリア・ルネサンスの巨匠ミケランジェロによって制作された作品で、はイエスの遺体を墓に埋葬しようとしている様子が描かれています。

ミケランジェロは1475年にフィレンツェのカプレーゼに生まれた画家で、サン・ピエトロ大聖堂の《ピエタ》やアカデミア美術館の《ダヴィデ像》、また《システィーナ礼拝堂天井画》を生み出すなど、イタリア・ルネサンスの傑作を残した画家として知られています。

中央では三人の人物がキリストの死体を墓場に向かって運んでおり、両脇を二人の女性が囲んでいます。解剖学的にも正しく描かれているキリストの身体は、アリマタヤのヨセフに後ろで抱かれており、左右の男性と女性は、まるで座っているかのような死体を支えるために体を傾けています。背景は霧がかり、岩や山の険しい風景が描かれています。

(Public Domain /‘Salome with the Head of John the baptist’ by Caravaggio. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

・《洗礼者の首を持つサロメ》 カラヴァッジョ 1605年

本作品は1605年にカラヴァッジョによって制作された作品で、新約聖書の一説が描かれています。

カラヴァッジョは1571年イタリアのロンバルディア州、ミラノに生まれた画家です。ティツィアーノの弟子であった師のもとで学んだ後、ミラノで絵画の修業を終え、活動の場をローマに移します。当時のローマは対抗宗教改革のため教会や邸宅を飾るためのキリスト教美術品が求められていましたが、100年余り続いたマニエリスムは時代遅れの表現となっており、時代にあった新しい表現が求められていました。そんななかカラヴァッジョは強烈な明暗法であるキアロスクーロを用いた作品を描き、ローマの人々から絶賛されます。

こうした画家としての成功の一方で、カラヴァッジョの私生活は安定することはなく、自宅で暴れて拘置所に何度も送られ、ローマ教皇から死刑宣告を受けるほどでした。1606年には乱闘で若者を殺し、懸賞金をかけられたことによってローマを逃げ出し、マルタやナポリでも乱闘騒ぎを起こしています。その後1610年には熱病にかかり、トスカーナ州モンテ・アルジェンターリオで38歳という短い生涯を閉じています。

《洗礼者ヨハネの首をもつサロメ》に登場するサロメは1世紀の古代パレスチナの領主の娘で、新約聖書などに記述が残されている人物です。サロメは宴で美しい踊りを踊った褒美として洗礼者ヨハネの首を求めたといわれており、その斬首の後の図が本作では表現されています。

赤いマントを羽織ったサロメはさらに洗礼者ヨハネの首の首を載せ、何とも言えない表情を漂わせています。画面全体にはカラヴァッジョの代名詞ともいえるキアスクーロが用いられており、画面全体をドラマチックに表現しています。

(Public Domain /‘Virgin of the Rocks’ by Leonardo da Vinci. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

・《岩窟の聖母》 1483-1486 レオナルド・ダ・ヴィンチ

本作品はレオナルド・ダ・ヴィンチによって1483年から1486年にかけて制作された作品で、聖母子と幼子イエス、そして洗礼者ヨハネと天使が描かれています。

1483年4月25日にサン・フランチェスコ・グランデ教会司教バルトロメオ・スコルリオーネと無原罪の御宿り信心会から依頼を受けて制作された作品で、レオナルドらしいスフマート、つまりぼかしの技法を使った繊細なタッチを垣間見ることができます。

しかし、本作品が教会に納品されたのは依頼から20年以上も経った1508年ことでした。これは、レオナルドと作品に関わる画家たちが教会側の支払いに納得がいかなかったためです。彼らは納品日を過ぎても仲裁人の介入や訴えを起こすなど様々な争いを経て、作品を1508年に納品することとなりました。本作品の前に制作され、おそらく注文主の満足を得ることができなかったため納品しなかったと考えられる作品はルーブル・バージョンとして現在はルーブル美術館に所蔵されています。

聖家族がエジプトに逃亡した際のエピソードである「幼児虐殺」の際の洞窟の様子で、聖母マリアと幼子イエスの洗礼者聖ヨハネとの出会いが描かれています。また、右端に描かれている、伝統的にヨハネと関連づけられる天使のウリエルが特徴的です。

■おわりに

ナショナル・ギャラリーはイギリスを代表する美術館であり、ほかのヨーロッパ諸国のコレクションと比べると所蔵数は少ないものの、西洋美術史上傑作と称される作品を鑑賞できます。ロンドンを訪れた折には、ぜひ足を延ばしてみてはいかがでしょうか。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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