ナショナル・ポートレート・ギャラリー:偉人たちの肖像画を集めた美術館

ナショナル・ポートレート・ギャラリーはイギリス、ロンドンにある美術館で、歴史的に有名な肖像画のコレクションを所蔵していることで知られています。そんなナショナル・ポートレート・ギャラリーと所蔵品について詳しく解説していきます。

ナショナル・ポートレート・ギャラリーとは

ナショナル・ポートレート・ギャラリーは1856年に設立された世界初の肖像画美術館です。コレクションの中には絵画だけでなく、写真や彫刻などさまざまなジャンルが含まれており、約215,000点の作品を所蔵しています。肖像画のみのコレクションとしては世界最大級で、大部分の作品は16世紀から現代にいたるまでに制作されたものです。さまざまな時代の偉人たちの肖像を幅広く鑑賞することができます。

ナショナル・ポートレート・ギャラリーのコレクション

ナショナル・ポートレート・ギャラリーのコレクションには、イギリスを代表する戯曲家ウィリアム・シェイクスピアから悲劇の最期をとげたダイアナ妃まで、さまざまな人物の肖像画が含まれています。そんなナショナル・ポートレート・ギャラリーのコレクションには、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な所蔵品をご紹介します。

Public Domain /‘Chandos portrait’by John Taylor. Image via WIKIMEDIA COMMONS

《ウィリアム・シェイクスピアの肖像》1610年ごろジョン・テイラー

本作品はジョン・テイラーによって1610年ごろに制作された作品で、イギリスを代表する戯曲家ウィリアム・シェイクスピアを描いています。ジョン・テイラーは1585年にイングランドに生まれた画家で、1590年代後半には子役として活動していたと考えられています。1620年代までには6人の弟子を持っていたと考えられており、制作活動も盛んに行っていたようですが、現在では本作以外にテイラーが手がけたと明らかになっている作品は発見されていません。

本作品で描かれているウィリアム・シェイクスピアはイギリスを代表する戯曲家であり、1616年にイングランドのストラトフォード=アポン=エイヴォンに生まれました。1585年ごろにロンドンに移り、1613年に引退するまでに四大悲劇である「ハムレット」「マクベス」「オセロー」「リア王」をはじめ、「ロミオとジュリエット」「ヴェニスの商人」「夏の夜の夢」といった傑作を残しました。特に「ソネット集」は現代においても最高の詩集と評価されています。

本作品においてシェイクスピアは黒に白襟の衣装で描かれ、背景は赤と黒のみと非常にシンプルな表現が使われています。その切り詰められた表現はシェイクスピアの表情を際立たせており、当代きっての戯曲家として数多くの作品を残したシェイクスピアの才能を感じさせる作品です。

Public Domain /‘King Charles I’by Sir Anthony Van Dyck. Image via WIKIMEDIA COMMONS

《チャールズ1世の肖像》アンソニー・ヴァン・ダイク1635年

本作品はアンソニー・ヴァン・ダイクによって1635年に制作された作品で、スチュアート朝のイングランド王チャールズ1世の肖像を描いています。

アンソニー・ヴァン・ダイクは1599年にスペイン領であったネーデルランドのアントウェルペンに生まれた画家です。幼いころから優れた芸術の才能を見せ、1615年には画家として独り立ちし、友人であるヤン・ブリューゲルとともにアトリエを構えて活動していました。

1618年にはアントウェルペンの芸術家ギルドである聖ルカ組合への入会を許され、北ヨーロッパ全域で活動していたピーテル・パウル・ルーベンスの筆頭助手にもなっています。ルーベンスは自身の工房だけでなく、他の芸術家たちが経営する工房でも補助的な制作を行う契約を結んでおり、ヴァン・ダイクの仕事量も相当なものでした。

1620年になるとバッキンガム公ジョージ・ヴィリアーズのすすめでイングランドにわたり、ジェームズ1世のために作品を制作しています。4か月ほどイングランドで過ごしたのち、フランドルに戻った時期もありました。1621年にはイタリアに移り、6年にわたってイタリア・ルネサンスの画家たちの作品を研究。

1630年になるころにはハプスブルグ家の大公妃イサベル・クララ・エウへニアの宮廷画家に任命され、王族や貴族といった有力者を中心に制作活動を行っていました。

当時、イングランドを統治していたチャールズ1世はイギリスの歴代君主の中でも特に芸術に関心を示した王として知られており、1628年にはマントヴァ公カルロ1世のコレクションを購入したほか、諸外国の画家たちをイングランドに招聘していました。

1628年にはオラツィオ・ジェンティレスキ、続いてオラツィオの娘で同じく画家であったアルテミジア・ジェンティレスキを招いており、チャールズ1世はヴァン・ダイクの師であるルーベンスもイングランドに招きたいと考えていました。ヴァン・ダイクとイングランド王室とのかかわりは1620年以来続いており、ヴァン・ダイクはチャールズ1世の絵画収集のアドバイザーを務めるとともに、肖像画も描いています。

本作品はそうした肖像作品のひとつで、正装をしたチャールズ1世がこちらを見つめている様子が描かれています。チャールズ1世は背が低くかったため、威厳ある姿で描くには相当の力量が必要とされました。本作品では色彩の豊かさを絞ることで王の厳格な姿を表しており、ヴァン・ダイクの表現力の高さがわかります。

Public Domain / ‘Winston Churchil’ by Walter Richard Sickert. Image via WIKIMEDIA COMMONS

《ウィンストン・チャーチルの肖像》1927年ウォルター・シッカート

本作品は1927年にウォルター・シッカートによって制作された作品で、イギリスの政治家であるウィンストン・チャーチルを描いています。

ウォルター・シッカートは1860年にバイエルン王国のミュンヘンに生まれた画家です。デンマーク系ドイツ人でイラストレーターであった父親とイギリス人の母親の間に生まれ、1868年にはイギリスに移住。当初は舞台俳優を目指していたものの、1881年からはスレイド美術学校に入学し、画家を志すようになります。

その後シッカートはジェームズ・マクニール・ホイッスラーと出会い、彼の助手をつとめるようになっていきました。またシッカートはパリに滞在することも多く、その際印象派の画家のひとりであるエドガー・ドガとも出会っています。こうした交流関係のためか、シッカートの表現は印象派に近いものとなっていきました。その後、風景画を中心に数多くの作品を制作し、1942年にはイングランドのバースで81歳の生涯を閉じています。

本作品で描かれているウィンストン・チャーチルは1874年にイギリスのウッドストックで生まれた政治家で、第二次世界大戦中に苦境に立たされたイギリスを導いた人物として知られています。チャーチルは特に葉巻を好んだことで知られており、本作品でも葉巻をくゆらせた姿が印象的です。シッカートは当時チャーチルに絵画のレッスンを行っており、本作品はそうした際に描かれた作品と考えられています。

おわりに

ナショナル・ポートレート・ギャラリーは世界でも珍しい肖像画のコレクションを所蔵している美術館です。歴史に名をのこす偉人たちの肖像画を目にすることで、その時代の文化や営みを感じ取ることができます。ロンドンを訪れた際には、ぜひ足を延ばしてみてはいかがでしょうか。

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