ウォレス・コレクション:公爵のプライベート・コレクションから始まった美術館

ウォレス・コレクションはイギリスのロンドンにある美術館で、1897年に開館しました。第4代ハートフォード侯爵リチャード・シーモア=コンウェイのプライベート・コレクションを核とし、レンブラントやルーベンス、ムリーリョなど15世紀から19世紀までに活躍した巨匠たちの作品を所蔵していることで知られています。そんなウォレス・コレクションの歴史と所蔵品について詳しく解説していきます。

ウォレス・コレクションとは

ウォレス・コレクションはイギリスのロンドンにある美術館で、1897年に開館しました。コレクションが所蔵・展示されている建物は、ハートフォード侯爵家が長年所有していた邸宅を改装したものです。19世紀、ハートフォード侯爵家はヨーロッパで最も裕福な一族の一つでした。建物の歴史の中では、フランス大使館とスペイン大使館の役割を果たしていたこともあります。

ハートフォード公爵家は18世紀から19世紀にかけて4代にわたって活躍した名家でしたが、美術コレクターとしても知られていました。そのコレクションと屋敷は非嫡出子であるリチャード・ウォレスに相続されることとなり、ウォレス卿の死後その妻が1897年に国に寄贈したことで、ウォレス・コレクションが開館することとなりました。

1900年になるとコレクションは一般公開され、現在に至っています。コレクションは持ち出しが禁じられており、外部の展示会に貸し出されることはないため、ウォレス・コレクションに所蔵されている作品は普段展示されているハートフォート・ハウスでのみ鑑賞することができるのです。

ウォレス・コレクションの所蔵品

ウォレス・コレクションには5500点近くの所蔵品が所蔵されています。これはプライベート・コレクションとしてはかなり規模の大きいもので、その中にはティツィアーノやレンブラント、ルーベンスといった巨匠たちの作品が含まれており、高く評価されています。

また、ヨーロッパとオリエントの武具や甲冑のコレクション、金細工、ミニアチュールやブロンズ彫刻といったジャンルの作品も所蔵しており、多様な作品を豪華な館で楽しめるユニークな美術館となっています。そんなウォレス・コレクションには、どんな作品が含まれているのでしょうか。主要な所蔵品をご紹介します。

Public Domain /‘The Happy Accidents of the Swing’ by Jean-Honoré Fragonard. Image via WIKIMEDIA COMMONS

《ぶらんこ》1768年ジャン・オノレ・フラゴナール

本作品は1768年に制作された作品で、18世紀ロココ美術を代表する画家ジャン・オノレ・フラゴナールが描いています。

フラゴナールは1732年に南フランスのコート・ダジュールのカンヌ近く、グラースで生まれた画家で、1738年には一家でパリに居を移すことになり、そこでジャン・シメオン・シャルダンとフランソワ・ブーシェに教えを受けています。20歳のときには当時若手画家の登竜門であったローマ賞を受賞し、国費でローマ留学する権利を得ました。1756年からはローマに赴き、1761年には帰国。その後は王族や貴族の依頼で華やかな作品を数多く描いたものの、1789年のフランス革命で時代の好みは新古典主義へと移行していき、1805年にはルーブル美術館の住居から追い出されてしまいます。このため、晩年は失意の中亡くなったといわれています。

そんなフラゴナールが描いた本作品は、放蕩癖で悪名高いフランスのサン・ジュリアン男爵に依頼されて制作された作品です。男爵は「司教に押されるぶらんこに愛人を描いてほしい」と依頼していました。この反権力的な側面はキャリアに影響を及ぼす可能性があったため、フラゴナールは設定を変更するよう説得しました。

男爵の愛人にあたる中央の女性はピンクの華やかなドレスに身をまとい、日差しが降り注ぐ庭園の中でぶらんこに乗っています。その女性の背中を押すのは初老の男性の姿であり、これは女性の夫であると考えられています。画面左端に見えるキューピッドの彫像は人差し指を口に当てるポーズをとり、初老の男性の傍らに描かれているキューピッドは戸惑うような様子です。そして男爵がモデルとなったと考えられる若い貴族の男性は左下に描かれており、女性を下から見上げています。

Public Domain /‘A Dance to the Music of Time’ by Nicolas Poussin. Image via WIKIMEDIA COMMONS

《人生の踊り》1634年-1636年ごろ二コラ・プッサン

本作品は1634年から1636年にかけて制作された作品で、バロック期における画家二コラ・プッサンによって描かれています。

二コラ・プッサンは1594年にフランス・ノルマンディー地方のレ=ザンドリに近い村で生まれた画家です。修業時代のことに関しては史料が少ないためわからないことが多いものの、1624年にはローマに出てウルバヌス8世の甥にあたるフランチェスコ・バルベリーニ枢機卿やその秘書で自由思想家であったカッシアーノ・ダル・ポッツォと交流することになり、その後はローマを拠点として作品制作に励むこととなります。

プッサンが活躍した17世紀はバロック美術の全盛期であり、激しい感情や劇的な明暗表現が好まれていました。しかし、プッサンの表現は古典主義的で詩情にあふれたもので、本作品にもそうした表現が見られます。

《人生の踊り》はのちにローマ教皇クレメンス9世となるロスピリオージ卿から依頼されて制作されたもので、様々な解釈がある作品です。中央では4人の男女たちが手を握って踊っており、画面上部では4頭の馬が牽く黄金の凱旋車に乗りながら太陽神アポロンが両腕を広げています。また時の女神アウローラが花をまき散らしながら凱旋車を先導しており、その周りには時間の聖霊ホーラが輪になって踊っています。

本作品は中央で踊る4人が四季の擬人像であるとされる説があり、青い上着の女性が春、白い上着の女性が夏、オレンジ色の衣装の女性が秋、土色の衣装の男性が冬と考えられています。アポロンが支えている金製の輪は永遠を表す円であり、太陽が12の星座を順にめぐることを示していることから、作品上部では太陽が1年の間に12の星座を、作品下部では四季が順にめぐることを示しているものと考えられています。

Public Domain /‘The Lady with a Fan’ by Diego Velázquez. Image via WIKIMEDIA COMMONS

《扇子を持った女》1638年-1639年ディエゴ・ベラスケス

本作品は1638年から1639年に制作された作品で、スペイン黄金時代を代表する画家ディエゴ・ベラスケスによって描かれています。

ディエゴ・ベラスケスは1599年にスペインのセビーリャに生まれました。フランシスコ・パチェーコに弟子入りしたのち、スペインの首席大臣であったオリバーレス伯爵ガスパール・デ・グスマンの紹介によって宮廷画家として活動することになります。以降はスペイン王家やヨーロッパの著名人たちの肖像画を描き、のちに《ラス・メニ―ナス》という西洋絵画史上の傑作を生みだすこととなります。

本作品はそんなベラスケスによって描かれた作品で、頭に黒いレースのベールをかぶり、ローカットなボディスのダークなドレスを身にまとった女性が描かれています。他のベラスケスの肖像画のほとんどは、スペイン王室の人物や廷臣、召使がモデルとなっていますが、本作品のモデルは特定されておらず、肖像画に関する正確な記録情報も不足しています。非常に謎に包まれた作品であり、作中にもミステリアスな雰囲気が漂っています。

おわりに

ウォレス・コレクションでは絵画はもちろん、彫刻や甲冑、陶磁器や金細工の作品などさまざまな作品を所蔵しており、それらを元貴族の邸宅で鑑賞することができます。ロンドンを訪れた際には、ぜひ足を延ばしてみてはいかがでしょうか。

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