マンチェスター市立美術館:ラファエル前派のコレクションを誇る美術館

マンチェスター市立美術館はイングランド北西部の都市マンチェスターにある美術館で、1824年に開館しました。19世紀イギリスにおける前衛的な芸術運動である、ラファエル前派のコレクションが充実していることで知られており、世界中からアートファンが訪れる地となっています。
そんなマンチェスター市立美術館の歴史とコレクションについて、詳しく解説していきます。

マンチェスター市庁舎

■マンチェスター市立美術館とは

マンチェスター市立美術館はイングランド北西部の工業都市、マンチェスターにある美術館です。マンチェスターは北部イングランドを代表する都市でもあり、古代ローマ時代から要所の一つとして重要視されていました。また、近代においては綿鉱業が発達したことで工業都市として栄えました。20世紀になると徐々に衰退してしまったものの、現在では商業や芸術、大衆文化の中心地となっています。

マンチェスターが文化的都市となった背景には、雨が多い気候であることがあげられます。屋内で活動することが多かったため、楽器の演奏をしたり読書をしたりすることが多く、そういった活動を通してマンチェスターの文化が育まれていったと考えられています。

そんなマンチェスターを代表する美術館であるマンチェスター市立美術館は、現在3棟が連結された建物となっています。その主要部は1823年にチャールズ・バリー卿によって建設されたものです。19世紀の前衛的芸術運動ラファエル前派の作品や、ヴィクトリア朝時代の装飾芸術コレクションが特に多く所蔵されています。

参考サイト:wikipedia マンチェスター

■マンチェスター市立美術館のコレクション

マンチェスター市立美術館は2,000点以上の油絵、3,000点以上の水彩画やドローイング、250点以上の彫刻などを所蔵しています。そのほかにも陶器やガラス、家具やドールハウスなど13,000点以上の装飾品があり、もっとも古い所蔵品は、紀元前1100年ごろのエジプトで製造されたと考えられているカノプス壺です。

古代から近代にかけて数多くの作品を所蔵している美術館と言えるでしょう。
そんなマンチェスター市立美術館コレクションの主要な作品をご紹介します。

(Public Domain /‘The Hireling Shepherd’by William Holman Hunt. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

・《雇われ羊飼い》1851年ウィリアム・ホルマン・ハント

本作品は1851年に、ラファエル前派の巨匠ウィリアム・ホルマン・ハントによって描かれた作品です。

ハントは1827年ロンドンのチープサイドに生まれた画家で、1848年にジョン・エヴァレット・ミレーやダンテ・ゲイブリエル・ロセッティらとともにラファエル前派を結成したことで知られています。ラファエル前派は「ラファエロ以前」という意味であり、100年前の美術教育を行う当時のアカデミーに異を唱えるものでした。ラファエル前派は、1853年にミレーがロイヤル・アカデミーの準会員となったことをきっかけとして解散していますが、ハントはラファエル前派の精神を最後まで保っていた画家であり、聖書や伝説などを主題としつつ画面の隅々まで細密に描くという画法を取っていました。

本作品では羊飼いの男が赤と白の衣服をまとった魅力的な女性に惹かれている様子が描かれており、その後ろには羊飼いが放置した羊たちの群れが描かれています。羊飼いが仕事を放棄して女性に話しかけるという、見方によっては性的なイメージも含まれた表現であったため、本作品が発表されるとハントは多数の批判を受けることになってしまいます。彼はキリスト教の神学論争をカップルに象徴するために描いたと主張したものの、本作品は論争の的となりました。

参考サイト:wikipedia ウィリアム・ホルマン・ハント雇われ羊飼い

(Public Domain /‘Hylas and the Nymphs’by John William Waterhouse. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

・《ヒュラスとニンフたち》1896年ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス

本作品は1896年に、前述のハントと同じくラファエル前派の画家、ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスによって描かれた作品です。

ウォーターハウスは1849年教皇領のローマに生まれ、両親がともに画家であったために幼いころから芸術に囲まれて育ちました。1870年にはロイヤル・アカデミーに入学。当初はアカデミックな画風で作品を制作しており、その古典的な画風は高く評価され、英国美術協会やダドリー・ギャラリーに展示されます。

また、1874年に制作された《眠りと異母兄弟の死》は、アカデミーの夏の展示会で発表されると大変な話題となり、1917年で亡くなるまで毎年アカデミーの展示会に招かれるようになります。1895年には英国王立美術院の最高芸術院会員に選ばれ、英国王立美術院評議会の議員も務めるなど、まさにイギリスを代表する画家となっていきました。1917年には67歳で死去。現在はロンドンのケンサル・グリーン墓地に埋葬されています。

本作品はそんなウォーターハウスによって描かれた作品で、ヘラクレスに愛された美しい青年であるヒュラスとニンフたちを描いた作品です。青い服と赤い帯のヒュラスが左手にもった水差しで水を汲もうとしているものの、若く美しいニンフたちの魅力にとらわれて目が離せなくなっています。ニンフはヒュラスを魅了しながらその右手をつかんでおり、ヒュラスを死の淵に引きずり込もうとしていることが伺えます。若者を死に誘い込もうとするニンフたちは官能的な姿で描かれ、水面に浮かぶ蓮の葉の間からはその裸体が透けて見えています。

本作品においては2018年に、ある騒動が起きました。マンチェスター市立美術館の学芸員たちが本作品を展示から撤去し、その場所を空いたままにして、女性の裸体の芸術的描写をどのように展示するべきか議論を促すという試みを行ったのです。来場者の意見を聞くためにポストイットが配布され、本作品の絵葉書がギフトショップから撤去されるなど徹底したものでしたが、これが検閲やピューリタニズム、ポリティカル・コレクトネスにあたるとして大きな批判を浴びてしまいます。そうした反響もあって1週間後には再展示されることになったものの、一連のできごとは本作のような作品の展示のあり方が議論されるきっかけとなりました。

参考サイト:wikipedia ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスヒュラスとニンフたち

■おわりに

マンチェスターというと音楽やサッカーに注目が集まるかもしれませんが、芸術的にも見逃せません。マンチェスター市立美術館に足を延ばしてみてはいかがでしょうか。

参考サイト:wikipedia マンチェスター市立美術館(英語)マンチェスター市立美術館(日本語)

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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