ウォーカー・アート・ギャラリー:「北のナショナル・ギャラリー」とも呼ばれる美術館

ウォーカー・アート・ギャラリーはイングランドの湾岸都市リバプールにある美術館で、1877年に開館しました。中世からヴィクトリア時代の品々、ラファエロ前派の作品、現代アートやファッション、工芸品などを所蔵しており、「北のナショナル・ギャラリー」と呼ばれるほどの充実したコレクションで知られています。そんなウォーカー・アート・ギャラリーの歴史と所蔵品について詳しく解説していきます。

■ウォーカー・アート・ギャラリーとは

ウォーカー・アート・ギャラリーはイングランドの湾岸都市リバプールにある美術館で、1877年に開館しました。リバプールはイングランド北西部マージサイド州の中心都市であり、17世紀末からイングランド有数の商業都市として栄え、18世紀にはヨーロッパからアフリカに日用品や火器を、新大陸からヨーロッパに砂糖などをもちこむ「大西洋三角貿易」の要所として重要な役割を果たし、急速に発展していきました。その後、第二次世界大戦の際には激しい空爆にさらされたため産業は急速に衰退したものの、1960年代からは徐々に再開発が進んでいきました。また世界的なロック・バンドであるザ・ビートルズの出身地であることでも知られています。

そんなリバプールにあるウォーカー・アート・ギャラリーは、1819年にリバプール王立協会が37枚の絵画作品からなるウィリアム・ロスコ―のコレクションを購入したことから始まりました。1843年には専用のギャラリーで展示。1871年から1910年の間には150点近くのコレクションを購入し、コレクションを徐々に充実させていきました。戦時中には一時閉鎖されたこともあったものの、1951年に再開。現在は「北のナショナル・ギャラリー」と呼ばれるほどに充実したコレクションをもとに、数々の展覧会を行っています。

参考サイト:wikipedia リヴァプールWalkerArtGallery

■ウォーカー・アート・ギャラリーのコレクション

ウォーカー・アート・ギャラリーは、イングランドではもちろんヨーロッパでも有数のアートギャラリーであり、ルネッサンス絵画からルーベンス、プッサン、レンブラント、ターナー、そしてラファエロ前派や印象派の作品を所蔵していることで知られています。加えて現代アートやファッション、工芸品なども所蔵しており、非常に充実したコレクションとなっています。
そんなウォーカー・アート・ギャラリーのコレクションの主要な作品をご紹介します。

(Public Domain /‘Portrait of Henry VIII’by Hans Holbein. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

・《ヘンリー8世の肖像》1536年-1537年ハンス・ホルバイン

本作品は1536年から1537年にかけて制作された、ルネサンス期に活躍したドイツの画家であるハンス・ホルバインの作品です。

ホルバインは1497年または1498年のはじめごろに、神聖ローマ帝国のアウクスブルクに生まれました。1515年ごろにはバーゼルおよびルツェルンで制作活動を行っていたことが分かっており、このころまだ10代だったもののバーゼル市長夫妻の肖像画を描くなど、高い画力を見せていました。1526年にはエラスムスの紹介でロンドンに渡り、1536年にはイングランド王ヘンリー8世の宮廷画家となります。イングランド宮廷では王侯貴族をはじめとした有力者たちの肖像画を多数制作していたものの、王の4番目の妃となったアンナ・フォン・クレーフェの肖像画を描いた際、本人と違っていたとして王の不興を買い、宮廷画家の身分を剥奪され追放処分を受けてしまいます。その後、1543年にペストでその生涯を閉じています。

本作品はそんなホルバインによって描かれた作品で、ヘンリー8世の肖像画としてはもっとも有名な作品です。もともとはホワイトホール宮殿の壁画の一部として制作された作品であり、王妃ジェーン・シーモアや、王の両親であるヘンリー7世とエリザベス・オブ・ヨークもともに描かれた作品の一部です。

本作のヘンリー8世は、剣や王冠といった国王のアトリビュートともいえる品々を身に付けておらず、足を広げたポーズで堂々とこちらを見つめています。豪華な衣装はコッドピースや肩パッドによって男性らしさがより強調されており、中世の兵士のようにも見えます。

参考サイト:wikipedia ハンス・ホルバインPortraitofHenryVIII

(Public Domain /‘Low Tide at Trouville’by Gustave Courbet. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

・《トゥルーヴィルの干潮》1865年ギュスターヴ・クールベ

本作品は1865年に、写実主義の画家ギュスターヴ・クールベによって描かれた作品です。

ギュスターヴ・クールベは1819年に、フランス国境に近いフランシュ・コンテ地方の村オルナンに生まれた画家です。21歳のときにパリに出てソロボンヌ大学法学部に入学するものの、芸術家になる希望を抱いていたクールベはアカデミー・シェイスに通い、ルーブル美術館で巨匠たちの作品を模写する日々を過ごしていました。1844年に《黒い犬を連れた自画像》がサロンに入選。その後は《オルナンの埋葬》をはじめとした写実主義の作品を制作し、フランス絵画史に残る画家として数々の作品を残すこととなります。

そんなクールベによって描かれた本作品は、ノルマンディー海岸のリゾート地トゥルーヴィルを描いた風景画です。彼の作品というと明暗のはっきりしたものや、肖像画、寓意のあるもの、官能的なものがまず思い出されますが、本作のように淡い色使いで柔らかい光を描いた作品もいくつか存在します。穏やかな海とオレンジの陽に照らされた雲が描かれたこの絵を見ていると、心も穏やかになるような気がします。彼の作品をあまり好まない人も、本作品は受け入れられるのではないでしょうか。

参考サイト:wikipedia ギュスターヴ・クールベ

(Public Domain /‘Dante’s Dream at the Time of the Death of Beatrice’by Dante Gabriel Rossetti. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

・《ダンテの夢》1871年ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ

本作品は1871年にダンテ・ゲイブリエル・ロセッティによって描かれた作品で、ダンテ・アリギエーリの詩「新生」にインスピレーションを受けています。

ロセッティは1828年にイギリスのロンドンに生まれた画家です。1846年にはロンドンのロイヤルアカデミー付属美術学校に入学し、1848年にウィリアム・ホルマン・ハントやジョン・エヴァレット・ミレーとともにラファエル前派を結成。当時のロイヤルアカデミーに反旗を翻す形で、さまざまな新しい表現の作品を制作していきました。

ロセッティはイタリアの詩人ダンテに生涯関心を寄せており、ダンテの作品をもととした作品を多く制作しています。本作品で描かれているのは、ダンテが愛したベアトリーチェ・ポルティナーリが亡くなる際のシーンを描いたものであり、黒い服のダンテやベッドの上で横たわるベアトリーチェ、そして2人の女性と天使が描かれています。その表現は非常に幻想的なものであり、象徴的な表現が各所に描きこまれています。

参考サイト:wikipedia ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティDante’sDream

■おわりに

ウォーカー・アート・ギャラリーは、「北のナショナル・ギャラリー」と呼ばれるほど充実したコレクションを誇る美術館で、年間を通して質の高い作品を鑑賞することができます。リバプールを訪れた際には、ぜひ足を延ばしてみてください。

公式ホームページ

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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