アラ・パチス博物館:初代ローマ皇帝アウグストゥスの祭壇を保存するための博物館

アラ・パチス博物館はローマにある博物館で、2006年に開館しました。初代ローマ皇帝アウグストゥスの功績を称えるアラ・パチス(平和の祭壇)のために建築された建物は、その独創的なデザインが論争を引き起こしました。2000年以上前の遺跡であるアラ・パチスの歴史の重みはもちろん、最先端の保存機能を持った建物とのギャップが楽しめる博物館といえます。そんなアラ・パチス博物館の歴史と所蔵品について詳しく解説していきます。

アラ・パチス博物館とは

アラ・パチス博物館はイタリア・ローマにある博物館です。2006年にアメリカ人建築家リチャード・メイヤーの設計によって建築され、アラ・パチス博物館として開館しました。この博物館には他ではありえない珍しいコンセプトがあります。それは、「ある一つの祭壇を収蔵するためだけ」に建てられた博物館であるということです。博物館名にもなっている『アラ・パチス・アウグスタエ(アウグストゥスの平和の祭壇)』は、激しい戦いを続けてきたローマ帝国に終戦が訪れたことを記念する祭壇(遺跡)で、通称アラ・パチスと呼ばれています。この祭壇を収蔵するために巨大なガラスを用いた箱型の建物がつくられ、アラ・パチス博物館となりました。

アラ・パチスを半永久的に維持・保存するために、ほこりや排気ガス、振動、温度や湿度の変化から保護する設備が整えられました。ガラスは約12㎜の厚さで2層になっており、間にアルコンガスを入れることで太陽光線を防ぐフィルターとして機能しています。

しかし、あまりにも機能的で近代的な建物が完成したため、歴史的な景観を重視するローマ市民のなかで賛否が分かれました。2008年にローマ市長となったアレマンノ氏は、この建物を解体して郊外に移転するとまで宣言しています。その後、論争は落ち着きましたが、建物に対する厳しい声が残っているのが現状です。

博物館内の様子は、全面のガラスから自然光を取り入れているため優しい光に包まれており、静かな気持ちでアラ・パチスを鑑賞することができます。企画展示室を含めてもそこまで広くないため、1点1点の歴史的価値をじっくり感じ取ることができます。

アラ・パチス

アラ・パチス博物館の所蔵品

アラ・パチス博物館は、帝政ローマの初代皇帝アウグストゥス時代に建造されたアラ・パチス(平和の祭壇)のために作られたため、メインはもちろんアラ・パチスです。他にはそれにまつわる彫像・レリーフ・古代ローマ帝国の歴史が分かる資料などが展示されています。また、企画展示室では、デザインや建築を中心とした企画展が不定期で開催されています。

それでは、アラ・パチス博物館で鑑賞できる主要作品をご紹介していきましょう。

アラ・パチス・アウグスタエ(アウグストゥスの平和の祭壇)》紀元前13年~紀元前9年作者不明

本作品は北イタリアの一部のガリアや、スペインでの戦いに勝利したローマ皇帝アウグストゥスを称えるために制作された祭壇です。紀元前13年頃から作りはじめ、紀元前9年1月30日に奉献しました。通称の「アラ・パチス」としてよく知られています。

ローマ皇帝アウグストゥスはアラ・パチスをローマの北の郊外に設置しますが、幾度となくテヴェレ川の氾濫に遭い、地中に埋まってしまいます。1568年と1859年に彫刻の一部が発見されるもアラ・パチスのものであるとは分かりませんでした。その後、1903年になってこれらがアラ・パチスの一部だという主張がおこり発掘が行われますが、途中で中止されています。

再び発掘作業が開始されたのは1937年で、アウグストゥス生誕2000年記念事業としてイタリア政府主導のもと地下70立方メートルの土を凍結し、祭壇を発掘することに成功しました。

アラ・パチスは白い大理石の壁で囲まれており、その壁は精密な彫刻で埋め尽くされています。彫刻には様々な場面が描かれており、皇帝とその家族が生贄を神に捧げる様子や、女性闘士が敵から奪った武器の山に座っている様子などがあります。いずれも皇帝アウグストゥスが市民の平和を願うというメッセージが込められており、ローマという国家の素晴らしさを他国にアピールする内容です。また、文化・芸術の発展に尽力したアウグストゥスは他国の技術にも強い関心をもっていたため、この彫刻でもギリシャ様式が取り入れられています。


《アウグストゥス帝廟の模型》

本作品はローマ皇帝アウグストゥスが、紀元前28年に一族の繁栄を祈念して建てた廟の模型です。

空撮した実際の廟

実物の廟は、アラ・パチス博物館を出てすぐの場所にある円筒形の建造物です。この廟は皇帝アウグストゥスが、エジプト・アレクサンドリアにあるアレクサンドロス大王の墓を参考にして造りました。

3段に積み上げられた円形の廟で、直径は90メートルもあります。現在の廟には多くの木々が生えて想像しにくいのですが、模型を見ると白の総大理石で美しく整えられていたことに気付くでしょう。最上部には皇帝アウグストゥスの銅像がそびえたっています。

実際の廟

この廟は皇帝アウグストゥスが35歳のときに造られましたが、当時この規模の墓を生前に造ることは異例でした。その後、皇帝アウグストゥスは75歳で没しますが、廟の前の広場で火葬されたのち、遺灰が廟の中に葬られました。葬儀は他国からの贈り物や兵士の隊列もなく、遺言通りに質素に行われたと伝えられています。

アラ・パチス博物館の企画展

アラ・パチス博物館では、デザイン・建築系の企画展や建物を利用した特別企画展も行われています。
なかでも特に話題になった企画展を1つご紹介します。

《ヴァレンティノ大回顧展》2007年

2007年に行われた本企画展は、イタリア人デザイナー、ヴァレンティノ・ガラヴァーニの45年のキャリアを記念して開催されたもので、大きな話題となりました。

ヴァレンティノはイタリア・ヴォゲラ出身で、世界中の社交界の人々に愛用されるラグジュアリーブランドを築き上げたイタリアを代表するデザイナーです。ミラノやフランスでファッションデザインを学び、アシスタントを経てオートクチュールのアトリエをローマで開きます。その後、仲間と共同経営で「ヴァレンティノ(VALENTINO)」を設立しました。

ヴァレンティノの数ある作品のなかでも有名なのは、「ロッソ・ヴァレンティノ」と呼ばれる鮮烈な赤を使った印象的なドレスです。アラ・パチス博物館でもレッドドレスが並び、優雅で華やかな芸術作品としても印象的な展示となりました。

the fashion post

ヴァレンティノは、この大回顧展が行われた翌年2008年1月のオートクチュール・コレクションを最後に引退したため、この展覧会は伝説的なイベントとなりました。引退後に公開されたドキュメンタリー映画『ヴァレンティノ:ザ・ラスト・エンペラー』(原題)では、2005年からヴァレンティノに密着しており、アラ・パチス博物館での大回顧展の模様も収められています。

おわりに

アラ・パチス博物館は、初代ローマ皇帝時代のアラ・パチス(平和の祭壇)を保存するためだけに造られた珍しい博物館です。歴史的な意味も大きく、事前にエピソードを知ってから訪れると感動も大きいでしょう。ローマを訪れる際には、一度立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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