ポディモンテ美術館:ファルネーゼ・コレクションをはじめとする傑作絵画が数多く所蔵される美術館

カポディモンテ美術館は、芸術の国イタリアのナポリにある国立美術館で、その歴史は18世紀にさかのぼります。エリザベッタ・ファルネーゼのコレクションをはじめ、ボルジア・コレクションやナポリ美術のコレクション、また、絵画だけでなく陶磁器や甲冑など、ジャンルを問わず数多の芸術作品を所蔵・展示しています。美術館のコレクションには、ティツィアーノやパルミジャニーノ、マッザチオといった巨匠が手掛けたものもあり、ルネサンスからマニエリスムまで幅広く収集しています。

カポディモンテ美術館とは

カポディモンテ美術館は、イタリア・ナポリにある国立美術館です。本館の歴史は古く、1738年にナポリ王であるブルボン家の子息、カルロ7世によってカポディモンテ宮殿が作られたことから始まります。その後、亡き母であるエリザベッタ・ファルネーゼから絵画コレクションの数々を受け継ぎ、王宮に展示したのが今日まで続くカポディモンテ美術館になりました。

カポディモンテ宮殿はフランスに占領された1806~1815年の間、ナポレオンの兄であるジョーセフ・ボナパルトやジョアヒム・ムラットの住居となります。その後1840年まで王宮の修復・拡張工事が行われ、この頃に近代美術部門も追加されました。1861年にはサヴォイア家が宮殿を所有することになり、武器や甲冑などのコレクションも加わります。

20世紀初頭には、王宮はアオスタ公爵一家が住居として利用することとなり、この時期にマザッチョやヤコポ・デ・バルバリらの絵画や版画のコレクションが加わり、さらに一層、カポディモンテ宮殿に優れた作品群が集まっていきます。第二次世界大戦に入ると、これら優れた芸術品が損害を受けないよう、サンティッシマ・トリニダ・ディ・カーヴァデ・ティッレーニ大修道院へ王宮に収蔵されていた数多のコレクションは移動することになります。

戦後1946年にアオスタ公爵一家が王宮から離れると、ブルーノ・マイオーリ教授の指揮でかつて王宮に所蔵されていたすべてのコレクションが再び収集され、1957年には正式に国立美術館として再スタートしました。

カポディモンテ美術館の所蔵品

カポディモンテ美術館のコレクションは実に膨大で、18世紀の終わりごろにはおよそ1,800点以上の絵画作品がカポディモンテ宮殿に集まっていたとされています。カルロの母エリザベッタ・ファルネーゼが収集していたコレクションをはじめ、ボルジア・コレクション、ダヴァロス・コレクション、ナポリ美術コレクションなどを所蔵しています。歴史的に価値の高い発行物や絵画スケッチ、水彩画など、絵画作品が充実している美術館です。

所蔵されているコレクションの中には、盛期ルネサンスを代表するヴェネツィア派の巨匠ティツィアーノをはじめ、パルミジャーノ、カラッチなど世界的に有名な画家による作品も数多く展示されています。また、ルネサンス期のみならず19世紀の近代アートなども展示され、様々な時代の芸術を堪能することができます。

そんなカポディモンテ美術館のコレクションには、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な作品をご紹介します。

(Public Domain /‘Antea (also known as Portrait of a Young Woman)’by Parmigianino. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

《貴婦人の肖像(アンテア)》1530年頃(諸説あり)パルミジャニーノ

本作品はパルマ出身でマニエリスムの巨匠パルミジャーノが、1530年頃制作・発表しました。2010年、国立西洋美術館で開催された「カポディモンテ美術展」にて目玉作品として展示され、同展覧会のポスターを飾ったことでも有名です。第二次世界大戦時にはドイツ軍に接収されてベルリンへと送られましたが、後にオーストリアへ渡り、1945年にイタリアへと返還されました。

カルロの母であるファルネーゼが収集した絵画作品の一つで、パルミジャニーノがローマに滞在していたころに描かれました。この作品は、モデルとなった女性への深い愛情と崇拝を感じさせます。因みに本作品は『アンテア』とも呼ばれ、その名はローマの高級娼婦と同名ですが、彼女を描いたかどうかは不明です。肖像画の衣装が豪華さと庶民的な要素を併せ持っているために、彼の愛した恋人か、もしくは花嫁か、あるいはさる高貴な女性を描いたなど、まるでダ・ヴィンチが描いた「モナ・リザ」のように様々な憶測を生んでいます。

また、1535年に発表されたパルミジャーノの代表作として知られる「長い首の聖母」では、この肖像画のモデルとなった女性とよく似た顔の天使が聖母マリアの左隣におり、パルミジャーノにとってモデルとなった女性がどれだけ大切で敬愛しているのかがうかがえます。

《ダナエ》1546年ティツィアーノ・ヴェチェッリオ

本作品は、1546年頃ヴェネツィア派の巨匠として知られるティツィアーノによって製作されたもので、ギリシア神話に出てくる、姫君ダナエのエピソードをテーマに描かれています。ダナエの父であるアルゴス王アクリシオスが、「娘が生んだ最初の子ども、すなわちあなたの孫によってあなたは殺される」という予言を受け、ダナエに子供ができないよう塔に幽閉するも、黄金の雨に姿を変えたゼウスがダナエのもとに現れ、誘惑されたダナエはゼウスとの子を身ごもるという話です。

美術史美術館の『ダナエ』(Public Domain /‘Danae Kunsthistorisches Museum’by Tiziano Vecellio. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

ティツィアーノは本作を含め、ダナエを題材にした作品を少なくとも6シリーズ描き、現存する4点はそれぞれカポディモンテ美術館、プラド美術館、エルミタージュ美術館、ウィーン美術史美術館に所蔵されています。カポディモンテ美術館にある本作品はティツィアーノが手掛けた中でも最初のもので、教皇パウルス3世の孫であるアレッサンドロ・ファルネーゼの注文を受けて製作されたものです。

カポディモンテ美術館の『ダナエ』を印刷した切手

ティツィアーノの手掛けた他のダナエとの相違点は、本作品だけ唯一エロスを描いているという点です。エロスとはギリシア神話に出てくる恋愛をつかさどる神で、私たちが今日目にする天使のモチーフになったと言われています。

本作品を含めティツィアーノが手掛けたダナエの作品群は、後にバロック時代で活躍するレンブラントやダイク、象徴主義の巨匠クリムトらに多大な影響を与え、彼らもまたダナエを題材にした優れた作品を世に生み出しました。

《キリスト磔刑》1426年頃マザッチオ

本作品は、初期ルネサンスを代表するイタリア人画家マザッチオが1426年ごろに手掛けました。キリストがエルサレムで磔刑に処されているシーンが描かれています。イタリア・ピサ地方にあるサンタ・マリア・デル・カルミネ教会のために描かれた祭壇画の一つです。何枚ものパネルで構成された祭壇画の中で『聖母子と天使』の上部に置かれており、イエスの未来を暗示した作品だと言えるでしょう。

本作品では、神性さを表現するために背景は黄金一色で塗られ、十字架に貼り付けにされているキリストを中央に置き、左には我が子の変わり果てた姿を見て悲嘆にくれる聖母マリアを、右には磔刑に処されたキリストに向かって祈りを捧げる聖母マリアの母アンナを、そして中央にはキリストに向かって跪く弟子ヨハネの姿が描かれています。ヨハネはこちらに背を向けているため、その表情は見えませんが、両手を掲げ十字架のキリストに請うような姿からその悲嘆とキリストへの敬愛がうかがえます。

キリストに跪いているヨハネのように、絵を鑑賞している側に背を向けるような構図にすることで、あたかも絵を見ている我々もキリストの磔刑場面にいるかのような臨場感を生み出しています。この作品がマザッチオの傑作として評価されている理由の一つと言えるでしょう。

おわりに

カポディモンテ美術館では、ルネサンス期の作品のみならず19世紀の近代アートまで幅広い時代の芸術作品を扱っています。これらの貴重なコレクションは美しいだけでなく、作品たちが生まれた時代の歴史も物語ってくれます。西洋芸術、特にルネサンス期に興味のある方はぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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