ブレラ美術館:イタリア絵画の名作が集まる世界有数の美術館

ブレラ美術館とは

ブレラ美術館は、芸術の都として知られるイタリア・ミラノにある美術館で、ブレラ絵画館とも呼ばれています。主に15~18世紀のヴェネツィア派とロンバルディア派の作品が収蔵されており、ラファエロやマンテーニャ、ベリーニといった世界的に有名な画家の宗教画をメインに展示しています。また、フランドルに生まれ、イタリアでその才能を開花・発揮させたルーベンスの作品も収蔵されています。

ブレラ美術館の建物は、17世紀にイエズス会の施設として建てられたものです。1773年にロンバルディアも統治していたオーストリアのマリア・テレジアがこれを入手し、1776年には美術アカデミーが設置されて絵画収集が開始されます。その後、皇帝となったナポレオンの文化政策によって、ミラノを中心に北イタリア中の名作絵画が収集され、これらのコレクションを収蔵するための美術館として整備されました。

1809年にナポレオン40歳を記念して美術館として開館・一般公開され、数多くの名画を一般市民も観覧できるようになりました。現在もミラノ市民や観光客が数多く訪れる芸術施設として愛され続けています。因みに、美術館の名前はかつてこの土地周辺が「ブレイラ(野原)」と呼ばれていたことに由来しています。

ブレラ美術館

ブレラ美術館の所蔵品

ブレラ美術館では、およそ400点以上の絵画作品が年代と流派別に展示され、歴史やそれぞれの作品の作風などを学ぶことができます。ラファエロの『聖母の婚礼』やマンテーニャの『死せるキリスト』、ベリーニの『ピエタ』といった名画をじっくりと堪能してください。また、宗教画以外にもカナレットによる『サン・マルコの船だまりから波止場の眺望』のような風景画も展示されています。

『サン・マルコの船だまりから波止場の眺望』が印刷された切手

そんなブレラ美術館コレクションの主要な作品をご紹介します。

《聖母の婚礼》1504年ラファエロ

本作品は1504年にラファエロが権力者アルビッツィーニから依頼を受け、サン・フランチェスコ聖堂のサン・ジュゼッペ礼拝堂の祭壇画として制作しました。『黄金伝説』にある『聖母の結婚』がテーマとなっています。聖母マリアが14歳の時、当時の司祭長が天使から「国中の独身者を集めて杖を持たせ、杖の先から花が咲いた者を聖母マリアの夫とせよ」という聖告を受けます。国中の独身者を集めて聖母マリアの夫となるものを選定していると、大工のヨセフが持つ杖の先から百合の花が咲き誇ったため、彼が聖母マリアの夫に選ばれ、その場で結婚式を執り行うという場面が描かれています。

本作品は画面左側には貞淑な表情を見せる聖母マリアと少女たち、中央には聖母マリアとヨセフの手を取る司祭長、右側には百合の花が咲いた杖と指輪を持つヨセフ、選定から漏れて杖を折る独身者たちが置かれ、画面奥には神殿が遠近法を用いて緻密に描かれています。20歳前後という若さながらも、ラファエロの完璧な空間把握能力と描写力によって生み出された本作品は、盛期ルネサンスに見られるような活き活きとしたしなやかさがあり、静粛かつ荘厳ながらも、鑑賞している側がまるでその場に立ち会っているかのような臨場感があります。

ROOM24

《死せるキリスト》1483年頃アンドレア・マンテーニャ

ブレラ美術館を代表する本作品は、1483年頃マンテーニャによって描かれたとされています。彼の手掛けた作品の中でも特に著名です。杭の跡が痛々しい足の裏をこちらに向けるような構図で、十字架から降ろされたキリストの遺体が描かれています。こうした描き方は当時画期的で、その描写力の見事なことからイタリア・ルネサンスの代表作と称され、後の作家たちに多大な影響を与えました。

本作品には、極端に短縮して描くという技法が取り入れられており、頭をあえて大きく描くことでキリストが持つ苦悩を鮮明に表現しています。遠近法に基づくのであれば、画面奥にある頭は小さく描かれるものですが、そうなっていない本作品に不自然さは感じられません。マンテーニャの持つ力量の高さがうかがえるでしょう。また、手足に杭を打たれた跡が残り、変色しているキリストの遺体や、息子の死に涙を流して嘆く老いた聖母マリアの描写には一切美化が加えられず非常にリアルです。聖書の中の一場面としてではなく、一人の人間が死に絶えたという現実を突きつけるような描き方がされています。

本作品は、自身の死を予感したマンテーニャが自身の信仰のために描いたとされ、1506年にマンテーニャが亡くなった後に工房で発見されるまで、表に出ることはありませんでした。

ROOM6

《ピエタ(聖母と聖ヨハネに支えられる死せるキリスト)》1465年頃ジョヴァンニ・ベリーニ

1460年ごろ、ヴェネツィア派の巨匠であるジョヴァンニ・ベッリーニに手掛けられた本作品は、『死せるキリストへの哀悼』とも呼ばれ、ベッリーニが生み出したピエタの中で最高傑作と評されています。キリストの遺体を支える聖母マリアと聖ヨハネを描いていて、物言わぬ亡骸となったキリストへの哀悼と嘆きが漂っています。造形美や悲劇性、詩情的な描写は、同時期に活躍した初期ルネサンスの巨匠ドナテロから影響を受けているようです。

ピエタとはイタリア語で「憐れみ」を意味し、十字架から降ろされたキリストの遺体を聖母マリアが抱いている姿を彫刻や絵画によって表現した作品のことを指します。代表的なピエタは、ミケランジェロの作品です。本作品を含め、ピエタはベッリーニの初期から晩年期に至るまで、その生涯を捧げたテーマとして知られています。

ミケランジェロのピエタ

本作では、キリストは茨の冠に両手の杭跡という伝統的な姿で描かれ、左脇にはローマ兵がキリストの死を確認するために槍で突いた傷跡があります。杭跡と傷の痛々しさと比べ、キリストの表情はどこか穏やかに見え、自己を犠牲にして原罪を背負うという偉業を成し遂げた安堵感が漂っています。それとは反対に、死せるキリストに頬を寄せる聖母マリアと、悲嘆の表情を浮かべる聖ヨハネからは、かけがえのないものを失った喪失感と嘆きがうかがえます。こうした対称的な表現が本作品の悲劇性を強調しています。

おわりに

芸術の都・ミラノを代表するブレラ美術館では、イタリア・ルネサンスの巨匠たちが手掛けた数多くの名画と巡りあうことができます。荘厳ながらも人間性を感じさせる作品たちに、思わず心が動かされることでしょう。ミラノ観光の際は足を運んでみることをおすすめします。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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