クリュニー美術館:中世美術に特化したコレクションが有名な美術館

クリュニー美術館は正式には「国立中世美術館― クリュニー浴場および館」といい、略称は国立中世美術館、クリュニー美術館が通称として呼ばれています。その所蔵品は古代から中世に限られており、フランスでも数少ない中世美術だけをコレクションしている美術館です。そんなクリュニー美術館の歴史と所蔵品について詳しく解説していきます。

クリュニー美術館とは

1832年、中世の美術を多くコレクションしていたアレクサンドル・デュ・ソムラールは、クリュニー館の一部に住んでおり、館に彼が集めた中世のコレクションを収蔵していました。彼の死後、国によってクリュニー館と収蔵されていたコレクションを買い取られ、このコレクションを主軸とし中世美術品だけを集めた美術館を1843年に開館しました。

クリュニー館は1-3世紀のローマ時代に建設された大衆浴場の跡地と、13世紀にブルゴーニュ地方のクリュニー修道会のパリ拠点として置かれた修道院の院長の別邸として建設された建築物です。15世紀末には大規模な改築が行われ、現在に至っています。現在でもローマ時代の冷水浴場が展示室として使用されています。この美術館に1歩足を踏み入れると、まるで中世にタイムスリップしたような不思議な感覚を覚えます。

また美術館の裏手に「中世の庭」として薬草や花、野菜などが育てられています。中世によく栽培されていたミントやセージ、玉ねぎなどの野菜畑、中世をイメージして作られた花畑などを楽しむことができます。この庭からは、ローマの遺跡である微温浴場と熱温浴場を見ることができます。

クリュニー美術館の所蔵品

クリュニー美術館には、古代から中世にかけて製作された彫刻やタペストリー・ステンドグラスなどが所蔵されています。その所蔵数は23000点以上あり、そのうち実際に展示されている作品は約2300点です。多くの中世美術工芸品を所蔵しているクリュニー美術館ですが、その所蔵品の多くは作者不明の作品です。

所蔵品の展示は23ある展示室に絵画、タペストリー、彫刻などジャンルごとに展示されています。また展示室内では時代ごとに展示するなどの工夫がなされており、タペストリーとステンドグラスは専用の展示室が設置されているため、素晴らしい作品をテーマや時代ごとに見ることができます。

そんなクリュニー美術館の所蔵品にはどのような作品があるのでしょうか。主な所蔵品を紹介します。

≪貴婦人と一角獣≫15世紀末作者不詳

(Public Domain /‘The lady and the unicorn sight’byUNKNOWN. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

本作品は6枚の連作タペストリーです。このタペストリーは1841年プロスペル・メリメが現在のクルーズ県にあるブーサック城で発見しました。織物であるために保存状態はよくありませんでしたが、小説家ジョルジュ・サンドが『ジャンヌ』(1844年)の中でこのタペストリーを絶賛したことにより注目を集め、クリュニー美術館に所蔵されることになりました。

(Public Domain /‘The lady and the unicorn hearing’byUNKNOWN. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)
(Public Domain /‘The lady and the unicorn taste’byUNKNOWN. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

「貴婦人と一角獣」の展示室では、作品の劣化を防ぐために展示室内の照明を最小限に抑えてあります。円形の展示室には「視覚」「聴覚」「味覚」「嗅覚」「触覚」の5枚のタペストリーと「我が唯一の望みに」という題名の残りの1枚が展示されています。展示室の中央には椅子が用意されており、作品をじっくりと鑑賞できるように工夫されています。

(Public Domain /‘The lady and the unicorn smell’byUNKNOWN. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)Photo10
(Public Domain /‘The lady and the unicorn touch’byUNKNOWN. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

このタペストリーのデザインはパリで考案され、フランドル地方で15世紀末頃に製作されたといわれています。当時の有力者であったジャン・ル・ヴィストが娘の結婚祝いのために織らせたというタペストリーには、貴婦人と一角獣とライオンがそれぞれのテーマで織られています。ジャン・ル・ヴィストの出身地であるリヨン(Lyon)からライオン(Lion)、フランス語の「viste」(すばやい)とル・ヴィスト(Le Viste)が一致するために足の速い一角獣が織られたといわれています。更にタペストリーにはジャン・ル・ヴィストの紋章と思われるデザインが施されています。しかし、「我が唯一の望みに」というテーマのタペストリーの解釈はいまだ謎のまま解明されていません。

(Public Domain /‘The lady and the unicorn deside’byUNKNOWN. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

タペストリーは赤と青を基調にし、貴婦人や一角獣、ライオンのほかにサルやウサギ、小さな花などが背景に織り込まれています。

≪ステンドグラス≫12世紀から13世紀

クリュニー美術館には12世紀から16世紀に製作されたステンドグラスを、約230点所蔵しています。このコレクションはフランスにおけるステンドグラスの所蔵数では最大で、ステンドグラスが最盛期であった12世紀から13世紀にかけての作品がほとんどです。ルイ9世の命でシテ島に建設されたサント・シャペル(聖なる礼拝堂)の作品が多く所蔵されています。

クリュニー美術館に所蔵されているステンドグラスはほとんどが聖書を題材とする小さな作品で、2000年から2004年にかけてフランス・ガス財団のメセナ(企業による芸術・文化支援)によって修復が行われています。

クリュニー美術館にはステンドグラスだけを集めた暗室があります。ステンドグラスは教会の高い位置に設置されているため普段はしっかりと見ることはできませんが、クリュニー美術館では葉っぱの一枚一枚まで観察できるほど間近で鑑賞できます。ステンドグラスをじっくりと堪能できる展示方法といえるでしょう。

≪13世紀から15世紀の彫刻≫

クリュニー美術館には13世紀から15世紀の彫刻があります。2019年4月に火災に見舞われたノートルダム大聖堂にあった「最後の審判」の死者の復活、フランス革命時に美術館に収蔵した「アダム像」やフランス革命時に破壊された「諸王の像」のオリジナルが所蔵されています。「諸王の像」はイスラエルやユダヤの王たちの像なのですが、フランス革命の時、フランス王の像と間違われて壊されたということです。破壊されているため諸王の頭部と体の部分が分かれた状態で展示されています。このほかサント・シャペルの十二使徒像などが所蔵されています。またフランスだけではなく同時代のイタリアの彫刻も多く所蔵されています。

終わりに

クリュニー美術館は中世の美術品を専門に展示している美術館です。これはルーブル美術館の中世コーナーと同じ規模となっており、中世の雰囲気を十分に楽しめる空間となっています。フランスのパリを訪れた際にはぜひ足を延ばしてみてはいかがでしょうか。

Official Website

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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