ジャックマール=アンドレ美術館:芸術の都・パリの隠れた名所として名高い美術館

ジャックマール=アンドレ美術館は資産家であるエドゥアール・アンドレと、その妻で肖像画家であるネリー・ジャックマールが1869年に建築した邸宅を利用した美術館です。館内には夫妻が数十年にもわたって収集した絵画、彫刻、タペストリーなどが多数並んでいます。また、当時のインテリアがそのまま残った、優雅な雰囲気が漂う部屋の数々も見どころ満載です。今回は、芸術の都・パリの隠れた芸術スポットであるジャックマール=アンドレ美術館について詳しくご紹介していきます。

ジャックマール=アンドレ美術館とは

フランスの首都パリにあるジャックマール=アンドレ美術館は、1869年に建てられたエドゥアール・アンドレとネリー・ジャックマール夫妻の邸宅を美術館として利用しています。イタリア・ルネサンスやオランダ絵画、ロココ絵画など、夫妻が世界中から収集した絵画作品や彫刻、タペストリーなどが邸宅内に数多く展示されています。

1階はイタリア・ルネサンス愛好家であったエドゥアール・アンドレが作った『イタリア美術館』で、ボッティチェリなどルネサンス期を代表するイタリア絵画や、ルネサンス初期の巨匠ドナルテロをはじめとする著名な彫刻家による優れた彫刻作品が並んでいます。絵画ギャラリーではブーシェなど18世紀を代表するロココ絵画が展示され、また、夫妻が図書館として使っていたスペースにはファン・ダイクなどのオランダ画家による絵画作品が展示されているなど、部屋ごとに異なった展示がなされています。

このような作品だけではなく美術館自体も見どころが多く、ルイ14世が使っていた家具を中心に、優美なデザインの調度品が並ぶタペストリーの間や、舞踏会が開かれた優雅な雰囲気が漂う音楽室、そして総面積約1,000平方メートルという円形の大広間など、19世紀当時の優雅で気品に満ちた魅力にあふれています。また、かつて食堂として使われていたスペースは当時のインテリアをそのままに、現在ではミュージアムカフェとして使われ、エレガントな空気が漂う中で食事やティータイムを楽しむことができます。また、こうした豪奢な部屋だけでなく、当時としては珍しい温室庭園である『冬の庭園』も、ジャックマール=アンドレ美術館の見どころスポットとして注目されています。

ジャックマール=アンドレ美術館の所蔵品

ジャックマール=アンドレ美術館では、夫妻が数十年に渡って世界中から収集したコレクションがおよそ5,000点収蔵されています。ボッティチェリやベリーニ、ウッチェロ、マンテーニャといった画家やドナテロといった彫刻家など、エドゥアール・アンドレが好んだイタリア・ルネサンスの巨匠が手掛けた作品をはじめ、ファン・ダイクやレンブラントなどの優れたオランダ絵画や、ブーシェ、ナティエ、シャルダンなどが生み出した優美なロココ絵画が館内に並んでいます。
そんなジャックマール=アンドレ美術館のコレクションには、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な作品をご紹介します。

《聖ゲオルギウスと竜》1458年〜1460年頃パオロ・ウッチェロ

(Public Domain /‘Saint George and the Dragon’byPaolo Uccello. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

本作品は初期ルネサンスの画家、パオロ・ウッチェロが1458年〜1460年頃に手掛けた絵画で、『黄金伝説』にある『聖ゲオルギウスの竜退治』をモチーフにしています。甲冑を着込み、馬にまたがって竜と対峙している騎士が聖ゲオルギウス、槍に貫かれている竜、そして竜が退治された様子を安堵した表情で見つめる生贄とされた姫君が描かれています。

かつて、カッパドキアのセルビオス王の首都ラシア付近には、毒をまき散らして人を襲う悪竜がいました。そこに住まう人々は悪竜の暴挙を抑えるため、毎日2頭ずつ羊を生贄として捧げていました。しかし、とうとうその羊が尽きてしまい、人間を生贄として捧げることになってしまいます。その生贄として王様の娘に白羽の矢が立ってしまいます。窮地の中、偶然立ち寄った聖ゲオルギウスは悪竜の話を住民から聞くと、悪竜を退治するために立ち上がります。本作品は、聖ゲオルギウスが悪竜を槍で串刺しにして姫君を救い出すエピソードを元にしたものです。

聖ゲオルギウスと竜、姫君とテントが横から見た構図なのに対し、遠景が俯瞰の構図で描かれているのが特徴です。また、描かれている竜の骨格が鳥類に近いというのも興味深く、現在の私たちには恐竜が鳥類の祖先であるという認識がありますが、それが明らかとなったのは1980年代以降です。ウッチェロの時代ではもちろん知られているはずがないのですが、竜を鳥に近い骨格で描くという彼の表現力は、この絵の魅力をさらに深めています。

《エマオの晩餐》1628年頃レンブラント・ファン・レイン

(Public Domain /‘The supper at Emmaus’byRembrandt van Rijn. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

本作品はレンブラントによって1628年頃に描かれたもので、ルカによる福音書にあるエピソードがモチーフになっています。エマオとは「暖かい井戸」という意味で、エルサレムから11kmほど離れた場所にあるこの地で、クレオパともう一人の弟子が復活を果たしたキリストに遭遇するという話の一場面が主題となっています。

クレオパともう一人の弟子は、キリストが復活したその日の午後に一人の人物と出会い、語らいながらエマオへと向かいました。エマオに到着するとクレオパはその人物を夕食に誘います。食卓にてその人物がパンに向かって祝福するとパンが割れさけ、目の前にいる人物が復活したキリストであるとクレオパは悟ります。そして、クレオパの眼前にいたキリストはすぐに姿を消してしまったというのが、ルカによる福音書に記されたエマオでのクレオパとキリストのエピソードです。

レンブラントといえば、写実的な人物描写に遠近法と光と影の巧みな使い方によって描かれる劇的な作風ですが、本作品でもレンブラント流の手法がとられています。興味深いのは、驚愕の表情を見せるクレオパと手前の人物、キリストの描写の違いです。クレオパは光の側にいて、衣服や目を見開いた表情まで実に写実的で生きている人物として描かれていますが、それとは対照的にキリストは影がかかったシルエットで、それと分かる程度のぼんやりとした姿で描写されています。影によって正体を隠しつつも、その人物がキリストそのものであることに驚くクレオパの心境が伝わってくるような臨場感が漂っています。

《ダンタン侯爵夫人マルチド・ドゥ・キャニー》1738年ジャン・マルク・ナティエ

(Public Domain /‘Mathilde de Canisy’byJean-Marc Nattier. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

本作品は18世紀を代表するロココ画家、ジャン・マルク・ナティエによって描かれたもので、1738年にサロンで発表されました。花飾りを右肩にかけて左手に仔犬を抱え、天に向かって伸ばした右手には小鳥が止まり、あどけない表情を見せる公爵夫人に真珠のように輝くドレスが合わさり、優美で繊細、そして華やかながらも上品で愛らしい魅力が漂っています。

本作品は美術館入口左手にある部屋に飾られていて、その可憐かつエレガントな雰囲気は、まるで訪れた人々を歓迎するかのようです。

本作品を手掛けたジャン・マルク・ナティエはフランスの画家一族出身で、『ポンパドゥール夫人』といった肖像画のほか、『ポルタバの戦い』といった歴史画や、ルイ15世と宮廷にいる貴婦人を神話の登場人物に見立てた『ディアナに扮したアデレード夫人』などの神話をモチーフにした絵画などを多数手がけています。繊細で優美、そして少しメランコリックなニュアンスを感じさせる作風は、今もなお多くの人々を魅了し続けています。

おわりに

ジャックマール=アンドレ美術館ではイタリア・ルネサンスを始め、オランダ絵画やロココなど、優れた作品を鑑賞することができます。また、コレクションもさることながら建築や内装自体も美的センスに優れており、19世紀フランスが好きな人にぜひお勧めしたい美術館です。フランス・パリへと旅行に行く際は、ぜひジャックマール=アンドレ美術館もルートに入れてみてはいかがでしょうか。

Official Website

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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