ヴァルラフ・リヒャルツ美術館:ケルンを彩る中世から現代のコレクション

ヴァルラフ・リヒャルツ美術館は、ドイツ第四の街ケルンにあります。かつての大司教のコレクションを前身に広がったコレクションは中世から現代までと幅広く、ルーベンスやレンブラントなど、世界的な巨匠によって描かれた作品が豊富に所蔵・展示しています。今回はヴァルラフ・リヒャルツ美術館の歴史や設立の背景、そしてコレクションの見どころを紹介します。

◼️ヴァルラフ・リヒャルツ美術館とは

ヴァルラフ・リヒャルツ美術館は1827年に開館、ドイツ第四の街ケルンにある美術館です。美術館の歴史は1824年、ケルンの大司教を務めたフェルディナンド・フランツ・ヴァルラフの遺言によって、ヴァルラフの自邸と彼が収集していた美術作品がケルンに寄贈されたことから始まります。

ヴァルラフ・リヒャルツ美術館の2つ目の契機は1844年に起こりました。新たに美術館の学芸員となったヨハン・アントン・ランブーによって、美術館拡張の必要性が指摘されたのです。その後、ケルンの商人ヨハン・ハインリッヒ・リヒャルツの寄付がきっかけとなり、新しい美術館の建設が行われ、1861年に美術館は開館を迎えています。その後も寄付によってヴァルラフ・リヒャルツ美術館のコレクションは拡大しています。

1976年に美術館が分割され、同じくケルンにあるルートヴィヒ美術館が設立されました。ルートヴィヒ美術館には主に現代アート作品が所蔵・展示されています。ヴァルラフ・リヒャルツ美術館は2001年に新しい建物に移転し、より充実した芸術鑑賞の機会を提供しています。ヴァルラフとリヒャルツ、美術館の名前には設立・発展に寄与した2人の偉大な人物の名前が冠されているのです。

そんなヴァルラフ・リヒャルツ美術館のコレクションとは、どのようなものなのでしょうか?

◼️ヴァルラフ・リヒャルツ美術館のコレクション

ヴァルラフ・リヒャルツ美術館のコレクションは、中世から現代までの作品を中心としています。13世紀から16世紀の宗教画が中心のケルン派の作品やルネサンス芸術にバロック芸術、ロマン主義や印象派、ポスト印象派、ドイツ絵画などコレクションは豊富なものとなっています。

巨匠と呼ばれる芸術家の作品も多く、例えばバロック期を代表するルーベンスやレンブラントの作品も展示されています。それぞれの時代を代表する画家の作品を目にすることで、作風や様式の変化を感じ取ることもできるでしょう。

ここからはヴァルラフ・リヒャルツ美術館のコレクションの中から、主要な作品を紹介します。

・《Child among staked roses》1881年ベルト・モリゾ

(Public Domain /‘Child among staked roses’byBerthe Morisot. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

Child among staked rosesは1881年、フランスの印象派の画家ベルト・モリゾによって制作された作品です。

ベルト・モリゾは19世紀を代表する印象派の画家の一人です。当時の男性中心の画家界隈で活躍していたため、現在フェミズム研究の対象として挙げられることも多くなっています。ベルト・モリゾの画家としての契機となったのは20歳のとき、バルビゾン派のジャン=バティスト・カミーユ・コローに師事したときです。この時代に戸外制作に親しみ、23歳のときに初めてのサロン入選を果たしています。自然の緑を強調した、柔らかなタッチが特徴でしょう。

またベルト・モリゾは印象派の先駆者といわれる画家エドゥアール・マネと親交が深かったことで知られています。マネの作品のモデルも頻繁に務め一時期は恋仲の噂もあったほどといわれています。1874年にマネの弟であるウジェーヌ・マネと結婚し幸せな結婚生活を送りました。作品にみられる穏やかな母子像は、自身の経験を克明に描写したゆえのものでしょうか?

Child among staked rosesは「柵に架けられたバラの中の子」を意味する言葉で、タイトル通りバラに囲まれた幼い少女の姿を描いたものです。背景に広がるバラのあざやかな緑と赤、少女が身に付けた淡い水色の服の色合いが、あどけない印象を想起させます。優しい色使いと柔らかなタッチは、ベルト・モリゾ作品の特徴と言えるでしょう。太陽のぬくもりまで伝わってきそうなあたたかな世界観が、キャンバスいっぱいに広がっています。

・《奇跡の漁り》1610年ピーテル・パウル・ルーベンス

(Public Domain /‘Miraculous catch of fish’byPeter Paul Rubens. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

「奇跡の漁り」は1610年、バロック期を代表する芸術家ピーテル・パウル・ルーベンスによって制作されました。

ピーテル・パウル・ルーベンスは祭壇画・肖像画・風景画など、幅広いジャンルの絵画を描いたことで知られています。また7ヶ国語を巧みに操る外交官としても活躍していました。彼はベルギーのアントウェルペンで大規模な工房を運営し、生前から高い評価を獲得していました。「黄金の工房」と呼ばれた工房で、ルーベンスと若い画家によってさまざまな作品が生み出されていったのです。緻密かつ繊細な描写と巧みな色使い、質感表現は屈指でしょう。

ルーベンスはフランダースの犬で主人公のネロがどうしても見たいと切望した絵画の制作者でもあります。「キリスト昇架」と「キリスト降架」の2つの作品は、ルーベンスの代表作でしょう。本作品「奇跡の漁り」は、「キリスト昇架」と同時期の1910年に描かれた作品です。筋肉の隆起まで描いた精密な描写は、彼の鋭い観察眼を象徴しています。それぞれの男性の視線から力強い意思が感じられる、ルーベンス屈指の名作といえます。

・《幼子キリストの礼拝》1568年ごろヒエロニムス・ボス

(Public Domain /The Birth of Christ’byHieronymus Bosch. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

幼子キリストの礼拝は1568年ごろ、初期フランドル派の画家ヒエロニムス・ボスによって制作されました。

ヒエロニムス・ボスは生前の資料が少なく未だ謎が多い画家といわれています。初期フランドル派を代表する存在で、祖父・父親・兄も画家を務めた画家一族の生まれとされていますが、詳しい情報はわかっていません。ですがその作品は世界的な評価を獲得しており、代表作の「快楽の園」は独特の世界観からヒエロニムス・ボス屈指の傑作と称されています。三連祭壇画の形式で現世やエデンの園、地獄が描かれ、奇抜な姿をした人々や動物も登場しています。

幼子キリストの礼拝にはハッキリと明確な人物が描かれています。この主題に登場するのは聖母マリアや聖ヨセフで、おそらく本作品も同様の主題がモチーフになっていると思われます。目を見開いた幼いキリストに向かって慎ましく祈りを捧げる三人の人物。背景にはあざやかな空が描かれており、新しい時代の幕開けを予感させます。

◼️おわり

ヴァルラフ・リヒャルツ美術館の歴史やコレクションについて紹介してきました。ドイツのケルンは世界遺産ケルン大聖堂をはじめ見どころが豊富です。また1776年に分割され設立されたルートヴィヒ美術館もあります。ドイツを訪れたときは、ぜひケルンも訪れてみてください。

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※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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