セビーリャ美術館:セビリア絵画の黄金時代の画家の作品群

◼︎はじめに

スペインのセビリアにあるセビーリャ美術館は、スペインで2番目の規模を誇る巨大な美術館です。修道院をもとにして築かれた美術館内では、中世から20世紀にかけての豊富なコレクションが公開されています。なかでもスペイン絵画の黄金期を代表する画家、ムリーリョの作品所蔵数は世界一ともいわれ、優美で華やかな世界を楽しむことができます。スペイン屈指の芸術鑑賞の聖地、セビーリャ美術館の歴史やコレクションを紹介しましょう。

◼︎セビーリャ美術館とは

アルカサルからのセビリア大聖堂の鐘楼の眺め

セビーリャ美術館があるのは、スペイン南西部に位置するセビリア州の州都セビリアです。地中海性気候で温暖な気候が続くセビリアは、ヨーロッパでもっとも温暖な街のひとつとされ、スペインを代表する文化フラメンコや闘牛が発祥した街として知られています。この街は、世界で3番目に大きい大聖堂・セビリア大聖堂や、ムデハル様式の傑作である宮殿・アルカサルなどがあり、スペイン屈指の観光地のひとつです。

セビーリャ美術館の中庭

セビーリャ美術館は、1835年に設立され、1841年に一般公開が始まりました。美術館の規模は、マドリードにあるプラド美術館に次いで国内で2番目です。1248年に建造された修道院が建物の一部になっており、ほかの美術館とは一味違った歴史情緒溢れる空間を楽しむことができるでしょう。3つある中庭がさらに気分を盛り上げてくれます。

セビリアは、実はスペイン絵画の巨匠を多数輩出している街でもあります。17世紀のスペイン黄金時代を代表する巨匠、ディエゴ・ベラスケスをはじめ、厳格な作風で注目を集めた画家、フランシスコ・デ・スルバランが、セビリアを拠点に活躍していました。また優雅な雰囲気の聖母像が人気を博した、バルトロメ・エステバン・ムリーリョもセビリアの出身です。セビーリャ美術館には、そんな“セビーリャ派”の作品が多数所蔵されており、鑑賞者を楽しませています。

◼︎セビーリャ美術館のコレクション

セビーリャ美術館は、大きく中世から20世紀にかけての美術品をコレクションしています。館内の展示室の総数は14部屋で、時代ごと・画家ごとにわけられているため、鑑賞がしやすいでしょう。

なかでももっとも注目を集めているのは、セビリア出身のムリーリョの作品群です。セビーリャ美術館が所蔵しているムリーリョの作品は22点もあり、その内容は世界一といわれています。美術館の正面にムリーリョの銅像が設置されていることからも、その力の入れ具合がわかるでしょう。

そのほか、セビリアを拠点に活躍したフランシスコ・デ・スルバランや、マニエリスムの巨匠エル・グレコ、スペイン絵画の黄金期を牽引したディエゴ・ベラスケスなど、屈指の名画家の作品が勢揃いしています。人物画や風景画など作品のテーマの豊富さにも注目ですが、特に宗教画のバリエーションの多さには驚愕するはずです。

ここからは、セビーリャ美術館の主要なコレクションを紹介します。

(Public Domain /‘Immaculate of El Escorial’by BartoloméEstebanMurillo. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)*プラド美術館所蔵の「無原罪の御宿り」

・《無原罪の御宿り》1668年バルトロメ・エステバン・ムリーリョ

「無原罪の御宿り」は1668年、一世を風靡した画家、バルトロメ・エステバン・ムリーリョによって制作された作品です。

ムリーリョはかわいらしい無垢な子供の描写や、柔らかな聖母像が特に有名な画家です。1617年にセビリアに生まれたムリーリョは、1645年に初めての大作を手がけて名声を獲得していきました。生涯のほとんどを故郷であるセビリアで過ごし、さまざまな作品を手がけたことで知られています。その代表作の多くはルーヴルやプラドなどの美術館に所蔵されています。

ムリーリョの作品は、まるで画面にもやのかかったような、幻想的な世界観が特徴です。本作品「無原罪の御宿り」では、幻想的なタッチで聖母マリアの清純さを画面いっぱいに表現しています。純白の衣装をまとい、あどけない表情を浮かべたマリアの周囲を、可憐な天使が囲んでいます。ほかの画家の作品にはない、柔らかく可憐な描写は、時代を先取りした表現ともいわれ賞賛を浴びました。また同じタイトルの作品がプラド美術館に所蔵されていることも有名です。

本作品は画家が自身の娘を思って描いた作品ともいわれています。ムリーリョの無垢な愛情ゆえ聖母マリアの表情は、優しく慈悲に満ちているのかもしれません。

(Public Domain /‘Vision of Brother Andrés Salmeron’ byFrancisco de Zurbaran. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)*同じ1640年に製作されたが「聖トマスの崇拝」とは別の作品

・《聖トマスの崇拝》1640年フランシスコ・デ・スルバラン

「聖トマスの崇拝」は1640年、バロック期のスペインを代表する画家、フランシスコ・デ・スルバランによって制作された作品です。

フランシスコ・デ・スルバランはスペイン絵画の黄金時代を代表する画家の一人です。特に宗教画や静物画の評価が高く、荘厳な雰囲気をまとった作品はひとつの時代を築きました。1614年から1617年にかけてセビリアの画家に師事し、1626年からセビリアを拠点に活動しています。1630年代後半にはスペインでもっとも重要とされる修道院、サンタ・マリア・デ・グアダルーペ王立修道院の聖具室の装飾も手がけていました。この修道院は、1993年にユネスコ世界文化遺産に認定されている建物です。

古典的で伝統的な手法による作品を得意とするスルバランですが、1640年代になるとその人気に陰りが見え始めます。柔らかな印象を持ったムリーリョの作品が世間を沸かせ、厳格な印象のスルバランの作品は、徐々に時代遅れといわれるようになってしまったのです。

本作品「聖トマスの崇拝」は、スルバランの分岐点ともいえる1640年に描かれた作品です。画面にはキリストと聖トマスの姿が描かれています。聖トマスはキリストの脇腹に手を差し込んでその身体の真偽を確かめた人物で、本作品ではうやうやしく手を差し出し、尊敬に満ちた表情をキリストに向けています。キリストの手には巨大な十字架が握られており、聖トマスをじっと見つめ返しています。画面に広がる厳かな質感は、スルバラン作品の特徴でしょう。

◼︎おわりに

スペインのセビリアにあるセビーリャ美術館の歴史やコレクションを紹介してきました。スペイン国内で2番目の規模を誇る巨大な美術館です。貴重なコレクションの数々を、ぜひ間近で楽しんでみてください。

セビリアには、世界最大規模の教会建築セビリア大聖堂や、そのシンボルである鐘楼ヒラルダの塔など、観光スポットが豊富です。スペインを訪れたら、ぜひセビリアに足を延ばしてみてはいかがでしょうか。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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