ミロ美術館:世界最大の個人美術館

「永遠の子供」ともいわれた画ジョアン・ミロのための美術館が、スペインのバルセロナにあります。ミロ美術館は世界最大規模の個人美術館といわれ、ミロ自身の作品をはじめとしたコレクションの総数は1万点以上です。自由奔放な作風が特徴のミロの作品を鑑賞するなら、この場所をおいてほかにはないでしょう。それではミロ美術館の歴史やコレクションを紹介していきます。

◼︎ミロ美術館とは

スペインのバルセロナにある美術館がミロ美術館です。標高184mのムンジュイックの丘にたたずむ美術館は、名前の通り、主にスペインの画家ジョアン・ミロの作品を展示しています。

ジョアン・ミロ・イ・ファラーは20世紀を代表するスペインの画家です。自由奔放な作風から「永遠の子供」と呼ばれることもあります。ミロはバルセロナも属するカタルーニャ州の出身で、活動中にシュルレアリスムの運動に参加したことから「シュルレアリスムの画家」とされることもありますが、その独特の表現方法から20世紀の芸術界で独自の地位を確立しています。まるで子供が自由に想像し創造したかのような作品は、どこか親しみのある柔らかな印象を持っています。

ミロが画家の道を志そうと決心したのは8歳のときでした。ある時、若くしてうつ病と腸チフスを患ったミロは、療養のためカタルーニャ地方のモンロッチを訪れました。モンロッチの環境で刺激を受けたミロは画家となることに己の道を定めたミロは、翌年にはバルセロナの美術学校に入学を果たしました。絵画のほか彫刻や陶器の制作も手がけたほか、晩年は大型のパブリック・アートも制作しています。また、アメリカ出身の文豪アーネスト・ヘミングウェイと交流があったことも知られています。

ミロ美術館は個人美術館としては世界最大のもので、バルセロナの人々からは「ミロからの贈り物」と呼ばれ親しまれています。1968年にミロ自身が構想を固め、友人と共に設立しました。建物の設計はスペイン出身で20世紀を代表する建築家に挙げられるホセ・ルイ・セルトが担当しています。自然光がふんだんに差し込む館内は明るく、開放的です。この時、ホセ・ルイ・セルトは無償で美術館の設計を請負い、後に初代館長となったミロの友人の写真家、ジョアキン・ゴミスは1万4千点を超える作品を寄贈したと言われています。

ミロ美術館にはその死後も、多くの作家から彼に捧げられた様々な美術品が寄贈され、そういった作品を集めた展示が行われたほどでした。ミロの人間性が垣間見える逸話の一つとなっています。ホセ・ルイ・セルトは美術館の設計を無償でおこなったといいますから、ミロの人間性が垣間見えるでしょう。

美術館が開館したのは1975年のことです。初代館長を務めたのは、ミロの親友でもあったジョアキン・ゴミスでした。美術館は1986年に増築され、さらなるコレクションの充実を図っています。ミロ美術館はミロ自身の考えである「若い世代が現代芸術の新しい取り組みができるような施設」としての側面を持っています。エスパイ13と命名された部屋はその思想を実現させた、若い世代向けの美術の実験室です。美術に対する新しい視点を提供してくれるでしょう。

◼︎ミロ美術館のコレクション

ミロ美術館のコレクションの中核を占めるのは、もちろんジョアン・ミロの作品です。そのうちの多くは、ミロ自身が寄贈したものが占めています。スケッチやデッサン、絵画に彫刻など展示品のジャンルは多岐にわたり、その総数は1万点を超えています。

個人美術館と侮るなかれ、その充実ぶりはほかの美術館にまったく引けをとりません。スペイン出身の彫刻家で、巨大な屋外作品で知られるエデゥアルド・チリーダや、シュルレアリスムの画家ルネ・マグリッドなど、ジョアン・ミロ以外の芸術家の作品も充実しています。

また、ミロ美術館では作品の解説用に「QRペディア」が設置されています。QRペディアとは設置されたQRコードを読み取ることで、鑑賞者の言語でその作品に関するウィキペディアの記事が表示されるシステムです。通常の美術館の解説文は現地の言語や英語が主ですが、このシステムを使えば、英語が母国語でなくとも安心して作品を見ることができるでしょう。

このように、芸術鑑賞の「体験」そのものにも力を入れているのがミロ美術館です。ここからはミロ美術館の主要なコレクションを紹介します。

・《太陽の前の形状》1968年ジョアン・ミロ

太陽の前の形状は1968年、ジョアン・ミロが制作した作品です。

本作品はミロによって対象が大きく抽象化されており、赤と青、黄色の色調が独特の世界観を生み出しています。一見すると不規則な印象を受けますが、実はそこには厳密な構図のバランスが隠されているのです。シュルレアリスムに属する作品ともいわれていますが、ミロの自由奔放さと詩的な世界観が十分に象徴されています。

・《星座、明けの明星》1941年ジョアン・ミロ

星座、明けの明星は、1941年にジョアン・ミロが完成させた作品で、合計23作に及ぶ一連のシリーズでもっとも重要な作品といわれています。

星座シリーズは第二次世界大戦が始まる少し前、ミロが家族とヴェレンジュミル・シュル・メールに移住した際に描いた作品です。合計23作になる連作で、本作品・明けの明星はもっとも重要な作品とみなされています。まるで宇宙のような異空間を駆け巡る黒く細い線、星と鳥、そして大きくデフォルメされた女性がモチーフとして登場しています。

当時の暗い世相に対して、ミロの描いた本作品にはどこか明るさが同居しているかのようです。困惑する世界、そこからの逃避を想起させるような詩的な作品でしょう。星座シリーズ、そしてその最終作である明けの明星は、ミロ自身にとっても大きな転機となった作品です。

・《4枚の翼》アレクサンダー・カレダー

4枚の翼は、アメリカの彫刻家アレクサンダー・カレダーが手がけた作品です。カレダーはモビールやスタビルと呼ばれる抽象彫刻が有名な彫刻家で、絵画や版画など多岐にわたる創作活動をおこなってきました。当初はエンジニアを志すも転身、芸術家として活躍したというエピソードは有名です。活動初期に針金を使った作品を披露し注目を集め、動きを加えた彫刻「モビール」は芸術界の先駆けとなったといわれています。

本作品・4枚の翼はミロ美術館の庭に設置されているオブジェであり、赤く染められた4枚の板が滑らかな曲線を描き、ひとつの形態を形成しています。空に向かって反り上がる姿は躍動感に溢れ、美術館の飛躍を暗に表現しているかのようです。この彫刻に込められた彫刻家の気持ちとは、いったいどのようなものだったのでしょうか?

◼︎おわりに

世界最大の個人美術館といわれるミロ美術館の歴史やコレクションを紹介してきました。自由奔放で無垢な印象を受けるミロの作品に、ぜひこの博物館で出会ってみてください。ミロの想いが込められた空間で、絵画や彫刻などさまざまな作品を楽しむことができるでしょう。

ミロ美術館があるバルセロナは芸術の街です。サグラダ・ファミリアをはじめとした建築物鑑賞も楽しめます。スペインを訪れたら、ぜひバルセロナにも足を延ばしてみてください。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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