ロマン主義博物館:華麗なる貴族文化の博物館

ロマン主義博物館はロマン主義時代の貴族文化を再現、披露するためにベガ・インクラン侯爵によって1924年に設立されました。コレクションの他、博物館の建物自体がかつて貴族の宮殿であり、重要文化財の指定を受けた文化価値のある建築物となっています。貴族の豪華な暮らしぶりを感じながら文化、美術を同時に観賞できる博物館となっています。

■ロマン主義博物館とは

ロマン主義博物館はマドリードの地下鉄トリブナル駅近くにある博物館です。ロマン主義時代の華麗な貴族の文化を再現し、披露する為に1924年に設立されました。
博物館は創設者であるインクラン侯爵のコレクションと、侯爵が属していた芸術友の会の会員である、セラルボ伯爵やロマン主義作家のマリアーノ・ホセ・デ・ララ、ファン・ラモン・ヒメネスらの協力をもとに絵画や家具など多くのコレクションを集約して創設されました。
ロマン主義博物館は1776年に建てられた新古典主義建築の貴族の宮殿を博物館として使用しています。かつて貴族が住居として使用していた部屋をはじめ、礼拝堂、食堂、客間を当時のまま残し、そこに絵画や家具、装飾品などを展示しています。貴族の豪華な暮らしぶりと、その華麗なる文化、美術を同時に観賞することができる博物館となっています。

■ロマン主義博物館のコレクション

ロマン主義とは18世紀末から19世紀前半にかけてヨーロッパを主とした精神運動で、芸術分野においては、感性や主観を重要視し、恋愛や民族意識など自我の表現や中世への憧れの表現などが特徴として挙げられます。19世紀のイサベル二世時代のスペインでも大流行しました。

ロマン主義博物館は絵画、描画、版画、彫刻、家具や食器、装飾品と多岐にわたり所蔵しており、幅広く貴族文化を知ることが出来ます。絵画はイサベル二世の時代に活躍したロマン主義の肖像画家フェデリコ・デ・マドラーソの作品やスペインロマン主義の巨匠ゴヤの作品もあり、当時の宮廷で活躍していた画家達の名画を楽しむことができるでしょう。
また、宮廷画家の他にも19世紀に活躍したスペインの画家、レオナルド・アレンザによる作品も2点あり、主要なコレクションの一つとなっています。調度品としては、イサベル二世のグランドピアノ、スタインウェイ&サンズの1860年製のピアノ、そして装飾が美しいマホガニー製の家具の数々やビリヤード台など貴族の華やかな生活がうかがえるコレクションとなっています。

また、博物館の建物は建築家マヌエル・ロドリゲスによって建てられた新古典主義建築の宮殿で、1962年に重要文化財に指定されており、博物館自体が素晴らしい芸術品の一つであるといえます。

そんなロマン主義博物館のコレクションにはどのような展示が含まれているのでしょうか。主要な展示をご紹介します。

・《舞踏の間》

ロマン主義博物館の中で最も華麗で、貴族文化を感じることが出来る部屋がこの「舞踏の間」ではないでしょうか。
貴族の集まりやサロンに使用されていた部屋で、一面サーモンピンクの豪奢なダマスク柄の壁には多くの肖像画の数々が飾られ、部屋の中央には壁と同じ仕様の布張りの円形ソファや多くのマホガニー製の家具、そしてイサベル二世のグランドピアノなどが展示されています。
また、部屋全体に配置されているソファの座席、背もたれ、肘掛の布部分の全てが壁と同じサーモンピンクのダマスク柄のシルクで装飾されています。貴族や貴婦人らがこのサロンで過ごした優雅なひと時をうかがうことができます。ピアノは、イサベル二世の為に作られたグランドピアノです。
サベル二世は子供の頃より徹底した音楽の教育をうけており、特にピアノの演奏が優れていました。ヨーロッパの宮廷やショパンが愛用していたピアノ製作会社プレイエル社の創始者、イグナツ・プレイエルは女王の為にピアノを制作しています。装飾には寄木細工と金メッキが施され、はめ込み細工(インレイ)の幾何学模様で飾られており、貴族が演奏するに相応しい優雅なデザインとなっています。ハープはパリのエラルド社製のネオゴシックスタイルのハープです。エラルド家は当時フランス王室専属でピアノとハープを製造していました。金メッキが施された支柱部分にはラッパやハープなどの彫刻が繊細に刻まれており、豪華絢爛な王室仕様のハープといえます。
ピアノとハープはロマン主義の貴族文化において最も特徴的な楽器であり、また当時の社交界ではそれらの楽器の演奏が一般的に楽しまれていました。

この「舞踏の間」に入ると、当時の貴族達の華麗なる日常を感じることが出来るでしょう。

・《イサベル2世の肖像》1849年フェデリコ・デ・マドラーソ

本作品は1849年に制作された作品で、スペイン、ロマン主義の肖像画家、フェデリコ・デ・マドラーソによって描かれた作品です。

フェデリコ・デ・マドラーソは19世紀スペインのロマン主義の肖像画家を代表する画家です。マドラーソが描いた格調高く優美な肖像画は、19世紀の当時の貴族社会において絶大な人気と高い評価を得ていました。また、生涯の中で、王立サン・フェルナンド美術アカデミー会長、プラド美術館館長なども務めたこともあり、スペイン美術界に多大な貢献をした画家としても知られています。

マドラーソ家は画家、建築家、美術評論家など多くの美術関係者を輩出している有力な画家一族で、当時のスペイン美術界を支配していました。マドラーソ自身も、幼少の頃より絵画の才能を高く評価され、19歳の時に王立サン・フェルナンド美術アカデミーの準会員になり、宮廷画家に任命されるなど若くして画壇で活躍していきます。1842年にはイサベル二世の肖像画を描いたことが高く評価され、宮廷画家として不動の地位を確立しました。

んな偉大な肖像画家、マドラーソの作品はこのロマン主義博物館にも数多くコレクションされており、彼がいかに大人気の肖像画家であったのかがわかります。そしてその中の一つがこの「イサベル二世の肖像」です。イサベル二世は王冠を着け、肩には繊細で豪華なレースが施され、青く光沢のあるドレスをまとっています。女王の視線は穏やかでいながら凛とした輝きがあり、口元には気品ある微笑みを浮かべています。

(Public Domain /‘St Gregory’byFrancisco Goya.Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

・《大聖グレゴリウス》1796年-1799年フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス

本作品は1796年から1799年に制作された作品で、スペインのロマン主義の巨匠フランシスコ・デ・ゴヤによって描かれた作品です。

このロマン主義博物館はかつて、貴族の暮らしていた宮殿であり、その中には礼拝堂も設けられていました。その礼拝堂の中央にスペインの巨匠フランシスコ・デ・ゴヤが描いた「大聖グレゴリウス」の肖像画が飾られています。
高さ191㎝、幅116㎝のこの大きな肖像画は祈りを捧げる対象として、礼拝堂の中心に設置されています。大聖グレゴリウスは白地に金の刺繍が施された法衣をまとい、椅子に座り書簡を記している姿で、1796年から1799年にかけてゴヤが4大ラテン教父を描いたうちの一枚です。
大聖グレゴリウスは聖人の伝記を含む多くの著作を残した知識人として、またグレゴリオ聖歌の名が示すように多くの作曲をした聖人として知られています。

ゴヤはモデルの内面や象徴するテーマを描き表すことで知られる偉大な肖像画家です。

暗い背景の中、神々しく浮き出て描かれた大聖グレゴリウスは知性あふれる大聖人として象徴的に表現されています。大聖グレゴリウスの威厳、偉大さはゴヤの筆を通して観る人の心に強く働きかけてくれることに違いありません。

ロマン主義博物館は貴族の宮殿を観ながら、その生活や文化、美術を知ることが出来る博物館です。豪華な貴族文化はため息の出るような美しさで、ひと時の夢の世界を味わうことができるでしょう。

http://www.culturaydeporte.gob.es/mromanticismo/inicio.html

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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