国立装飾美術館:スペインの装飾芸術、工芸品の美術館

国立装飾美術館は、主にスペインの陶磁器やテキスタイル、家具や宝飾品など、多岐にわたる装飾芸術品をコレクションしています。スペインだけでなく、ヨーロッパ諸国や東洋美術の装飾品もコレクションしており、幅広く装飾芸術について知ることができる美術館です。

■国立装飾美術館とは

国立装飾美術館はマドリードのレティーロ公園近く、モンタルバン通りに位置しており、スペインの様々な装飾芸術、工芸品を展示している美術館です。

1912年、スペインの工芸振興のための調査、研究、教育を目的として、当初、“国立工芸美術館”の名称で創設され、1929年に国立装飾美術館に改名されました。1934年スペースを確保する為、現在のモンタルバン通りの19世紀の貴族の邸宅へ移動しました。

1878年に建てられたこの貴族の邸宅は建物自体も文化的価値があり、美術館とともにその歴史性や芸術性が高く評価されています。

■国立装飾美術館のコレクション

国立装飾美術館では14世紀から今日に至るまでの、主にスペインにおける様々な装飾芸術品、工芸品を10,000点ほど展示しています。そのコレクション数は寄付やオークションでの買収によって、現在も増え続けています。美術館ではそれらのコレクションを年代別、種類別に分類して展示しており、スペインの装飾性豊かな工芸や文化の歴史を一望できるようになっています。また、スペイン以外のヨーロッパ諸国の工芸品や、カルロス三世が収集した東洋の美術品などもあり、幅広く世界の装飾芸術を観賞することができます。

スペインの装飾美術の展示はおもに17、18世紀に分類して展示しています。17世紀はスペインのタラベラ地方やテルエル地方の伝統的な陶器、家具、金、銀、エナメルなどの宝飾品等となっています。

18世紀には、磁器という新素材が導入されただけでなく、ガラス製品、家具なども、精巧な技術で製造されるようになっています。それらに加えてヨーロッパの名窯、マイセン、セーブル、リモージュ等の陶磁器も展示され、スペインとヨーロッパにおける装飾技術の進歩を感じることができます。

また17世紀から19世紀の貴族の邸宅のインテリアを再現した展示もあります。ここでは内装や家具の美しさを楽しみながら、その時代ごとのスタイルの変化を知ることが出来ます。中でも18世紀バレンシアの、タイルで美しく装飾されたキッチンを再現した「バレンシアのキッチン」は、美術館の中で最も人気がある展示となっています。

そんな国立装飾美術館のコレクションには、どのような展示が含まれているのでしょうか。主要な展示をご紹介します。

・《タラベラの陶器》

トレドの伝統工芸であるタラベラ陶器を歴史的に紹介している展示です。

タラベラ・デ・ラ・レイナはトレドにある町の名称でタラベラ陶器の生産でその名を知られています。16世紀にフェリペ二世の命によって建造されたエスコリアル宮殿を飾るタイルが、この地で作られたことからその名が知れ渡りました。この時代の宮殿や修道院の多くはタラベラ製のタイルで装飾されています。タラベラは陶器の一大生産地となり、その製法はスペインの植民地であったアメリカ大陸にも渡ります。現在ではメキシコで生産されるタラベラ陶器も独自に発展して、スペイン産と同等に有名になっています。

この展示において、タラベラ陶器は模様やスタイルの特徴によって時代別に分類され、16世紀から19世紀にわたる変遷を観ることが出来ます。植物、動物、鳥、兵士、建物、幾何学模様など様々なモチーフが手書きで美しく描かれています。中には修道会の注文で作られたシリーズなどもあり、当時のタラベラ陶器の隆盛ぶりがうかがえます。

磁器の登場とともにタラベラ陶器の市場は低迷していきますが、現在もタラベラにおいて陶器は作り続けられ、世界的に人気がある工芸品の一つとなっています。

・《17世紀の貴族の邸宅》

17世紀の貴族の邸宅内のインテリアをそのまま再現している展示です。

「17世紀貴族の邸宅」は17世紀の貴族の邸宅内の礼拝堂、寝室、キッチン、客室、エストラド(小部屋)の内装をそのまま再現しており、当時の貴族の生活様式を知ることが出来ます。

当時の貴族たちは邸宅内に家族用、もしくは個人用の礼拝堂を持っていました。両開きになるドアの内側は色鮮やかな模様で飾られ、祭壇中央にはイタリアのバロック時代の画家カルロ・マラッタの聖家族像の絵が礼拝対象として飾られています。両脇にはエナメル装飾のキャンドルが飾られ、足元には高級なトルコのウシャク絨毯が敷かれています。この華麗な礼拝堂を見るだけでも、当時の貴族たちの豊かな暮らしぶりが思い浮かべられるのではないでしょうか。

また、17世紀の貴族の住居では非常にシンプルな部屋に、豪華な家具を設置するのが一般的なスタイルでした。この邸宅の展示も簡素な建物の造りとは対照的に、寝室、客室とも黒檀やべっ甲、象牙を使用した豪華な家具が並んでいます。中でも寝室のベッドは非常に美しく、人気がある展示となっています。黒檀とべっ甲から作られているポルトガル様式のベッドで、ベッドボードには聖人の姿が描かれ、足元にはらせん状の支柱が2本に立っています。華麗で気品のあるこのベッドは一見の価値ありです。

キッチンは、炉と食卓が並ぶダイニングキッチンのようになっています。
食卓はタラベラ陶器でテーブルセッティングされており、華やかな食卓を再現しています。
また串、大釜、レードルなど調理器具も展示されており、当時の料理の様子がわかります。

エストラドはスペイン語で“壇”という意味で、女主人用の小部屋などを言います。通常、この部屋には腰掛用の木製の壇(エストラド)が設置されているためこのように呼ばれています。女主人はこの部屋で壇に座って、おしゃべりや歌を楽しんだり、デザートを食べたり、自由な時間を楽しめるようになっていました。

・《バレンシアのキッチン》

本展示は18世紀のバレンシアの宮殿内の厨房のタイル装飾を美術館において忠実に再現しており、国立装飾美術館で最も人気がある展示の一つとなっています。

この「バレンシアのキッチン」は実際に使われていた貴族の宮殿内の厨房の装飾タイル約1600枚をそのままキッチンの内装とともに再現しています。壁と合わせて当時の流し台やコンロなどの設備も再現され、リアリティあふれる展示となっています。装飾タイルの図柄は料理が提供されるまでの物語を描いており、絵本を読んでいるような感覚で楽しく観ることが出来ます。

まず、キッチンに入ると白いタイルに描かれた色とりどりの絵が目に飛び込んできます。野菜や果物にお肉やお菓子、そして調理用具や花々などと共に使用人や犬の姿が描かれており、まるで絵本の世界のよう。入って右側には、商人の男性が食材の入ったかごを召使の女性に渡す場面が描かれています。その隣に調理をする召使の女性、続いてその食材を盗み食いする猫達がコミカルに描かれていきます。

コンロの上にはフライパンで焼かれる魚の絵やそのフライパンの魚を盗む猫の絵、そして召使の女性に捕まってしかられる絵などが描かれています。そして入口の左側の壁の絵では召使の女性達がお菓子や飲み物、チョコレートドリンクがのったトレーを宮廷スタイルの給仕達に手渡しています。給仕達は豪華に着飾った女主人にそれらを届け、物語は終了します。

当時、貴族達は頻繁にパーティーを催しており、その際に提供されるのはこのタイルに描かれているチョコレートドリンクや多くのお菓子、ムースやアイスクリームでした。そういったデザートの調理や提供の全ては、召使や給仕達の仕事であり、このタイルにはその様子が描かれているのです。

美しく、楽しく描かれた装飾画の価値はもちろんのこと、18世紀バレンシアの貴族社会の日常や食べ物、服装を知る貴重な資料にもなっています。

■おわりに

国立装飾美術館はスペイン、西洋、東洋の装飾芸術を幅広く楽しむことが出来る美術館です。いつの時代も、装飾品は私達の暮らしを楽しく豊かにしてくれているものだと気づかされます。

https://www.esmadrid.com/ja/kankoujouhou/museo-nacional-de-artes-decorativas

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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