国立彫刻美術館:神学校の歴史と風格を感じさせてくれるスペインの美術館

15世紀に神学校として建てられた建物を使用した美術館です。建物にも装飾が施され美術館としての価値を高めています。そんな場に展示されたキリストの彫刻からは、時として神聖さだけではなく恐ろしさまで感じ取ることができます。

○国立彫刻美術館とは

スペインのバリャドリッドにある彫刻品をメインに展示している美術館です。バリャドリッドは、かつてスペイン王国の宮殿も置かれた歴史ある町です。町には宮殿の他カトリック教会や広場などの歴史的建造物が多く残っています。

国立彫刻美術館では、かつてのキリスト教の神学校であった建物を利用して彫刻作品を展示しています。神学校はキリスト教の教えを後世に伝える場であり、展示品の多くもキリスト教に関する物が多いです。スマホもTVも無い時代に人々にキリストの教えを伝える際に、どれだけ芸術が重宝されてきたのかを知ることができます。

○国立彫刻美術館の展示品

入口にはスペイン後期のが張り巡らされており、また建物の中には礼拝堂もあり神学校時代の名残が感じられます。また美術館には庭園とベンチもあるので展示品を見終えた後には、天候が良ければ周りの建造物を見ながらゆったりと過ごすことも出来ます。

〈聖ベネディクトゥスの大祭壇〉アロンソ・ベルゲーテ

アロンソ・ベルゲーテは、スペイン・ルネサンスで最も功績を残したと言われる画家であり大物彫刻家です。父親が画家であったベルゲーテは、早くから芸術に携わり、若い時にはあのミケランジェロにも師事した事がありました。カスティリャ・ルネサンス絵画の創始者とも言われ、スペイン彫刻の発展にも大きく貢献しました。激しい動静を伝える表現を得意とした彼の彫刻は、怒りや悲しみと言った気持ちが伝わる荒々しい表情を見せています。かつ暖色系の光沢をふんだんに使う事でその表現を際立たせています。

中央に配置された聖ベネディクトゥスは、人々に教えを伝える為か真剣且つ険しい表情で佇んでいます。今にも動き出しそうな彫刻からは、あたかも当時生きていた彼をそのまま固めて残しているかのような生命力を感じる事が出来ます。聖ベネディクトゥスは、西欧修道士の父とも称えられ、彼の著した会則は西ヨーロッパを中心に広まりました。彼の表情からは、苦悩と真剣な眼差しが現代の我々にも向けられています。

〈復活祭の行進に使われる山車〉1612年頃から1614年

1612年頃から1614年に作られたこちらの作品はキリストの受難がテーマとなっています。作者は不明です。色鮮やかに染色された彫刻は、まるで現代に作られたのかと思ってしまう程のクオリティです。キリストの受難では、キリストが十字架にはりつけられ処刑される事で精神的・肉体的に苦痛を味わっています。人類へ罪と生を考えさせる大変難しい場面です。

キリストは大変苦悶に満ちた表情をしており、その表情には、怒り悲しみなどの感情を読み取ることができます。周囲の人々の淡々とした表情には、落胆と疲れを感じられ、人々の苦悩を知る事が出来ます。まるで演劇の一幕のような迫力のあるこの作品が、当時どれだけの人々の心を揺さぶったのか計り知れません。

〈キリストの埋葬〉ファン・デ・フニ

こちらは、スペインの著名な彫刻家による作品です。

ファン・デ・フニは、木工を得意とした彫刻家で、傑作として名高いバリャドリッド大聖堂の主祭壇は彼の手によるものです。特に人間の苦悶に満ちた表情を描き出す事を得意とした彼は人間の幸福よりも、埋葬や追悼という生から切り離された場面を多く残しました。当時の人々にとって、生と死はより身近な物であり、死ぬと言う事は俗世から切り離される証でした。キリストの死に直面する事で、人々は果たしてどのように死に向き合うのか。その苦悶の表情からは、何が感じ取れるのか考えさせられる作品です。

キリストは血を流しており、その苦悶の表情からは彼が死んでしまったことが読み取れます。死に直面した周囲の人々の鬱屈した気分を絵画よりもリアルに感じ取ることができ、キリストにあてられた手が今にも動き出すのではないかと、彫刻である事を忘れてしまいそうです。

○終わりに

魂が宿っているかのように力強い彫刻の数々を目前にすると、まるで自分が実際にその場面に遭遇しているかのような錯覚に襲われます。この国立彫刻美術館では絵画鑑賞とはまた違った生々しい刺激を受けることができます。

Website : https://www.culturaydeporte.gob.es/mnescultura/inicio.html

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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