ケ・ブランリ美術館:世界各地の民族美術のコレクションを約35万点所蔵する美術館

ケ・ブランリ美術館はフランスのパリにある国立美術館で、2006年に開館しました。民族学や民族美術をテーマに35万点ものコレクションを保有し、世界各地の少数民族の文化を肌で感じることができます。そんなケ・ブランリ美術館の歴史と所蔵品について詳しく解説していきます。

■ケ・ブランリ美術館とは

ケ・ブランリ美術館はフランスのパリ7区にある美術館で、2006年に開館した新しい美術館です。セーヌ河沿いの、エッフェル塔に程近い場所にオープンしました。

この美術館の開館には、ジャック・シラク元大統領が深く関わっています。アジアやアフリカの民族美術を愛好していたシラク元大統領がパリ市長であった頃に、原始美術の研究者であったジャック・ケルシャシュと出会い、民族美術専門の美術館の構想が持ち上がりました。当時あまり重要視されていなかった民族美術の価値を説いた2人は、この構想を様々な場所に働きかけました。開館の前にケルシャシュは亡くなりましたが、シラク元大統領が引き続き活動を続けたことにより、大統領在任中の2006年にケ・ブランリ美術館が開館することとなりました。

ケ・ブランリ美術館の建物は、フランスの建築家であるジャン・ヌーヴェルが設計しました。美術館の敷地は透明なガラスの壁で仕切られ、近代的な作りになっています。

美術館の建物の壁にはパトリック・ブランによる植栽が行われ、自然とのつながりを意識させます。また、庭師のジル・クレマンにより1.8ヘクタールの広さの庭園がデザインされました。展示作品の原風景となるような庭を目指して作られたという庭園では、自然を感じながら遊歩道を散策することもできます。

■ケ・ブランリ美術館の所蔵品

ケ・ブランリ美術館では、オセアニア、アジア、アフリカ、アメリカの少数民族の文化をテーマにしたコレクションを所蔵しています。所蔵するコレクションは約35万点で、その中の3500点ほどが、4つのエリアに分けて常設展示されています。また、企画展も頻繁に開催されています。

現在ケ・ブランリ美術館に所蔵されているコレクションの多くは、もともとは国立人類博物館と国立アフリカ・オセアニア美術館に所蔵されていました。これら2つの美術館に所蔵されていた民族学の資料と民族美術のコレクションがケ・ブランリ美術館に集められたことで、新しい美術館でありながら莫大な数のコレクションが所蔵されています。

そんなケ・ブランリ美術館のコレクションには、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な作品をご紹介します。

・《タジキスタンの女性の帽子》19世紀後半-20世紀初頭

本作品は19世紀後半から20世紀初頭に制作された作品で、キルティングと刺繍の布で制作された女性用の帽子です。

タジキスタン共和国は中央アジアに位置する共和制国家で、現在の人口は約930万人です。国の広さは日本の半分以下と小さめの国家です。首都はドゥシャンベで、以前はソビエト連邦に属していましたが、独立してタジキスタン共和国となりました。

タジキスタンの歴史は古く、古代はアケメネス朝ペルシアに属する国でしたが、アレクサンドロス大王に制服されるなど様々な国の占領下に置かれることとなります。6世紀後半にテュルク系民族、8世紀にはアラブ人、9世紀後半にはイラン人が侵入し、この頃にサーマーン朝が成立します。サーマーン朝が100年以上続いたことによりタジキスタンの文化が発展し、公用語であるタジク語が各地で話されることとなりました。現在もタジク系の民族が人口の8割以上を占めています。

その後も他国の占領下に置かれることの多かったタジキスタンの地域では、1991年にソビエト連邦が崩壊したことにより、地域や部族同士で紛争が激化しました。交渉は長期化しましたが、1997年に和平交渉が行われ、独立国家として承認されました。

この展示の帽子は円錐形で、細かく華やかな模様で編まれています。様々な人種が入り混じり、発展してきたタジキスタンの伝統を感じられる作品です。

・《スリランカの悪魔祓いの仮面》20世紀初頭

20世紀初頭に製作された作品で、木材や藁を使用して作られています。

スリランカ民主社会主義共和国は、南アジアの共和制国家です。仏教とヒンドゥー教に影響を受けた文化が多く見られ、シンハラ人、タミル人を始めとする様々な民族が共存しています。他国からの侵入が多く、一時はイギリスの占領下に置かれていましたが、20世紀に独立しています。

赤く恐ろしい外観のマスクですが、これは病気の原因となる悪魔を表しています。スリランカでは伝統的に病気を治すために悪魔祓いを行っており、この仮面も悪魔祓いの儀式に使われていました。

アンバランゴダという地域では悪魔祓いが盛んだった歴史があり、観光用として現在も仮面劇などが行われています。また、その他の南部の農村などでも現在も悪魔祓いが盛んに行われています。病気以外にも、雨乞いの儀式などで使われることもあります。

・《貴州省ミャオ族のイヤリング》

本作品は中国貴州省のミャオ族で使われているイヤリングで、シルバーから制作されています。

ミャオ族は中国の少数民族の1つですが、文字をもたず口頭のみで語り継がれてきたこともあり、歴史的資料が存在せず、古代からの民族の変遷は謎に包まれています。清の時代に国家の政策に反抗してミャオ族は数度の反乱を起こしましたが制圧され、移住してきた漢族に抑圧されることとなりました。現在ミャオ族は山地や盆地で農業を営んでおり、広い地域に居住しています。

このイヤリングはシルバーで制作されています。ミャオ族では、シルバーのアクセサリーは若い女性が特別な機会に着ることができるものです。イヤリングは螺旋状になっており、ミャオ族の衣装などにもしばしば螺旋が見られますが、これは悪霊を追い出す役目も担っています。

■おわりに

ケ・ブランリ美術館は充実した民族美術のコレクションを有する美術館であり、世界各地の少数民族についての文化を肌で感じることができます。

Website : http://www.quaibranly.fr/

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

関連記事一覧