国立民族学博物館(リスボン):ポルトガルをはじめ、世界各国の民俗学を学べる博物館

国立民族学博物館は1975年に開館したポルトガル・リスボンにある美術館です。ポルトガルの伝統文化や民俗学を伝える資料、生活用具、芸術作品を保管する貴重な博物館で、ポルトガルをはじめ5大陸80か国から集められたコレクションは約50万点にのぼります。そんな国立民族学博物館の歴史と所蔵品について詳しく解説していきます。

■国立民族学博物館とは

国立民族学博物館はポルトガルのリスボンにある博物館で、1975年に開館しました。

博物館の歴史は1959年まで遡ります。ホルヘ・ディアスがリーダーを務めたポルトガル海外少数民族調査隊は、世界各地の少数民族の文化を調査・研究するために結成され、調査隊が持ち帰った成果は「マコンデ族の人々の生活と芸術」というタイトルで展示発表されました。この展示会をきっかけに1962年に海外民族博物館を創立しますが、博物館の開館には至りませんでした。1692年以降もアフリカ・アジア・アメリカなど世界各地へ調査チームを派遣しています。

1973年にホルヘ・ディアスが亡くなるとエルネスト・ヴェイガ・デ・オリベイラが後を継ぎ、民族学博物館の開館に尽力しました。そして、1975年に建築家アントニオ・サラガ・シーブラが設計した現在の建物で一般公開がスタートしました。1989年には国からの指定を受け、国立民族学博物館となりました。

2000年には建築家エドゥアルド・トリゴ・デ・スーザによって、図書館・メディアセンター・展示スペース・庭園が新たに増設されています。また、2007年にはポピュラーアートミュージアムの所蔵品が国立民族学博物館に移動することが決まり、2012年には一つの美術館として統合されました。

■国立民族学博物館(リスボン)の所蔵品

国立民族学博物館には、ポルトガルを始め世界各国の伝統文化・民族の暮らしを伝える資料が数多くコレクションされています。資料・標本の総数は約50万とも言われており、保管・保護という観点からも重要な意味をもつ博物館です。

コレクションは大きく2つのグループに分類されます。
最初のグループは、1962年以降に世界各地に派遣され、民族文化を調査・研究したスタッフが持ち帰ったものを基盤とするコレクションです。ポルトガルをはじめ、アフリカ・アジア・アメリカを中心に5大陸80か国から集められ、約42,000点あります。

もう一つのグループは、2007年にポピュラーアートミュージアムから移されたコレクションです。主に1930年代~1940年代初頭に集められたもので、かご細工・衣装・楽器・装飾品・絵画・彫刻から釣り道具まで、ポルトガルの様々な地域の生活様式が分かる貴重な資料が含まれています。

そんな国立民族学博物館のコレクションには、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な作品をご紹介します。

・《チョカルヘイロのマスク》19世紀~20世紀頃制作者不明

19世紀~20世紀頃にポルトガル北東部トラス・オス・モンテス地方で制作された作品です。

山岳地帯であるトラス・オス・モンテス地方では、毎年12月26日と1月1日に「チョカルヘイロの祭り」が行われます。もともとは冬至の祭りでしたが、現在は聖母とイエスキリストを祝う祭りとなり、地元の人々はもちろん各地から観光客が訪れます。20世紀中ごろまでは祭りの主役は成人前の男性で、青年期から成人に向かうための大切な儀式だと考えられていました。

本作品は祭りの儀式に登場するチョカルヘイロというキャラクターの木製マスクで、額にヘビとリンゴの模様が刻まれています。

・《春》1930年前後マリアーノ&リベルダーデ・ダ・コンセイサン

本作品は1930年前後に制作された粘土の置物で、マリアーノ・ダ・コンセイサンとリベルダーデ・ダ・コンセイサンの夫婦が手がけました。

この置物は「エストレモスの土人形工芸」の代表的な作品の1つです。「エストレモスの土人形工芸」とは、18世紀以降に発展したポルトガル南部の都市エストレモスの伝統工芸品でしたが、1920年代には後継者がほぼいなくなっていました。そのため、エストレモスにある工業学校の教師であったホセ・サ・レモスが、当時唯一この作品を作り続けていた工芸作家アナ・ダス・ペレスの協力のもと、技術を残す方法を模索しました。

その結果、アナ・ダス・ペレスはすでに高齢でしたが、本作品を制作した夫婦の夫マリアーノ・ダ・コンセイサンに技術を引き継ぐことに成功します。アナ・ダス・ペレスがマリアーノ・ダ・コンセイサンを指導するなかで、工芸品としての新たなアイデアも生まれ、これま

で取り扱ってこなかったクリスマスモチーフの作品なども作るようになりました。現在「エストレモスの土人形工芸」は2015年にポルトガルの無形文化遺産、2017年にはユネスコ無形文化遺産に登録されています。

本作品は、1930年代に開催された国際民芸展示会の展示品として、ポルトガル政府の宣伝局が選んだ伝統工芸品の1つです。タイトルの《春》がイメージできるような、明るい色彩の焼き粘土が印象的な作品に仕上げられています。展示後にはポピュラーアートミュージアムのコレクションとなり、2007年以降に国立民族学博物館へ移されました。
また、夫婦の共作とされていますが、主に妻のリベルダーデ・ダ・コンセイサンが作った作品だと分かっています。リベルダーデは、1940年に再独立300年記念行事・ポルトガル世界博覧会の美術工芸パビリオンへ参加し、土人形工芸を実演しました。このときに制作した作品も、のちに国立民族学博物館のコレクションに加わっています。

・《ミーニョ地方の婚礼衣装》20世紀制作者不明

20世紀に制作されたポルトガル北部のミーニョ地方に伝わる婚礼衣装です。

中世のヨーロッパでは黒は高貴な色と位置付けられており、婚礼で使用されるのが一般的でした。諸外国では18世紀頃から白の婚礼衣装が広まりましたが、ミーニョ地方では時代が変化しても黒の婚礼衣装を受け継いでいます。

本作品は、ウール素材のジャケットに黒いシルクのスカートでシックにまとめられています。細やかな刺繍にはサテンとベルベットが使用されており、比較的裕福な家の衣装であったことが推測できます。「恋人たちのハンカチ」と呼ばれるカラフルな刺繍ハンカチで花束を包むのも、ミーニョ地方の風習の1つです。

■おわりに

国立民族学博物館はポルトガル・リスボンにある博物館です。ポルトガルはもちろん、世界各国の民俗学の歴史にふれることができます。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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