
バグダッド・カフェ:どんな砂漠にもオアシスはきっとある
モハヴェ砂漠に佇むうらびれたモーテル兼カフェ。そこに暮らす家族や個性的な宿泊客たちと突然現れたドイツ人旅行者女性ヤスミンの交流を描いた心温まる物語。
あらすじ
ドイツ・ローゼンハイムからの旅行者ヤスミンはアメリカ旅行の途中、夫と喧嘩をして車を降りてしまいます。夫はそんなヤスミンに構わず車を走らせました。何も無い砂漠の一本道の中を一人重いトランクをひきずりながら歩き続けるヤスミン。
一方、ラスヴェガス近郊のモハヴェ砂漠にポツンと佇む一軒のカフェ兼モーテル兼ガソリンスタンドの「バグダッド・カフェ」の黒人の女主人ブレンダはいつも不機嫌。夫に怒りを向け、ピアノに夢中の息子や自分勝手な娘にも腹を立てています。ついにブレンダの小言に辟易した夫サルは家から出て行ってしまいます。
夫が去った後、孤独感に苛まれるブレンダの前に現れたヤスミン。ブレンダは車もなく砂漠の中を一人歩いてきたヤスミンに不信感を抱き、冷たい態度を取り続けます。慣れないアメリカで、特に行き先もやることもないヤスミンはカフェの手伝いや、ホコリと不要物だらけの部屋の中を掃除し、ブレンダの子供たちと仲良くなりますが、逆にブレンダから反感を買ってしまいます。しかし、ヤスミンに対して不信感を抱いていたブレンダも、あることがきっかけでヤスミンに心を開いていきます。
ヤスミンが現れたことにより、砂漠のように荒んでいた人々の心も和んでいき、彼らに笑顔が戻ります。笑顔は人々を集め、寂れていたカフェにはいつの間にか大勢の客が訪れるようになります。やがて、ヤスミン自身の人生にも新しい扉が開かれます。
登場人物とキャスト
・ヤスミン(マリアンネ・ゼーゲブレヒト)
主人公。中年の太めのドイツ人女性。アメリカ観光中に夫と喧嘩し、「バグダッド・カフェ」に宿泊するようになります。誤って夫の荷物が入っているスーツケースを持ってきてしまったために、手持ちの荷物は男物の服や夫が購入した手品セットのみ。誰一人知り合いのいない異国の地で彼女は孤独。しかし、ドイツ人らしく真面目な彼女はホコリだらけのカフェの掃除をし、手持ち無沙汰に手品を覚えていくうちに、カフェに集まる人々の心を解きほぐし、またヤスミン自身も新しい自分に気がついていきます。
・ブレンダ(CCH・パウンダー)
もうひとりの主人公。いつもイライラしている彼女は常に周りに当り散らしています。頼りにならない夫の代わりにカフェのほとんどの仕事を受け持ち、自分勝手な娘やピアノのことしか頭にない息子と孫の世話にと、ブレンダはストレスの塊になっています。誰にも弱みを見せられずに強がっている彼女もまた孤独を感じていたのでした。初めはヤスミンに不信感を抱いていた彼女でしたが、ヤスミンの誠実さを知るにつれ、段々と心を開くようになり、本来の明るさを取り戻していきます。
・ルーディー・コックス(ジャック・パランス)
ハリウッドの映画の背景画を描いていた老画家。テロテロとした光沢のあるシャツにカウボーイブーツといった派手な身なりをいつもしています。
彼は「バグダッド・カフェ」の隣人で、カフェにもよく訪れています。ブレンダたちは、そんな彼のことをまるで「家族」のように思っています。サロモのピアノに聞き入っていたヤスミンにインスパイアを受け、絵のモデルにもなってもらいます。
・デビー(クリスティーネ・カウフマン)
「バグダッド・カフェ」の宿泊客でモーテル内のルート66を通るトラック運転手相手にタトゥーの店を開くセクシーな女性。彼女はヤスミンを観察するだけで自分からは関わろうとしませんでした。ヤスミンによって居心地のよくなったカフェから、最後に「みんな仲良すぎるわ」と一言残して出て行ってしまいます。
・フィリス(モニカ・カローン)
ブレンダの娘。男の子とおしゃれのことしか頭にないティーンエイジャー。家族の中で一番はじめにヤスミンに心を開きます。
・サロモ(ダーロン・フラッグ)
ブレンダの息子。バッハとピアノをこよなく愛し、いつもピアノを弾いています。一人息子(ブレンダにとっては孫)がいますが、妻はいません。彼のピアノを理解してくれたヤスミンに打ち解けていきます。
・カヘンガ(ジョージ・アギラー)
いつも無口な「バグダッド・カフェ」の店員。ヤスミンに買い物メモリストを書いてもらうなど最初から彼女に偏見なく接します。
・サル(G.スモーキーキャンベル)
ブレンダの夫。おっとりして気は利かないけれど、心優しい男性。家を出ていった後も、車の中から双眼鏡でブレンダの様子を見守っています。
・エリック(アラン・S・クレイグ)
ヤスミンの後からやってきたヒッチハイカー。「バグダッド・カフェ」の側にテントを張ります。いつもブーメランを飛ばしています。
・保安官アーニー(アペサナクワット)
突然現れたヤスミンを怪しんだブレンダが呼んだネイティヴ・アメリカンの保安官。
・ムンシュテットナー(ハンス・シュタードルヴァー)
ヤスミンの夫。ヤスミンとの喧嘩のシーンや「バグダッド・カフェ」にやってきた車の止め方から短気で自分勝手な性格であることがうかがえます。
概要
1987年11月12日にヨーロッパで公開されたドイツ映画(当時は西ドイツ)。アメリカでは1988年4月22日に公開されました。心温まる物語と懐かしさを感じるイエローの色調の映像と主題歌『コーリング・ユー』の静かなメロディが映画を観る人々の心を癒しました。
1994年には、オリジナル版(95分)に未公開シーンを追加(17分)した『バグダッド・カフェ完全版』として再上映することとなり、新たなファンの獲得にも成功しました。また、2008年のカンヌ国際映画祭で上映された「バグダッド・カフェ(ニューディレクターズカット版)」は、監督自らが再調整を行い、さらに美しくなった映像を私たちに届けてくれました。
TV版『バグダッド・カフェ』
1990年にアメリカで同作を原作としたTVドラマがCBSの連続ホームコメディとして放映されました。ブレンダ役に人気女優ウーピー・ゴールドバーグを起用しましたが、ヤスミンがドイツ人観光客という設定もなく、脚本も映画の品質とはるかにかけ離れたものであったため、初演から酷評をうけました。TV版『バグダッド・カフェ』は、当時ABC放送の人気TVドラマ”Family Matter”に押された上、主演のウーピー・ゴールドバーグとプロデューサー間のトラブルでウーピー・ゴールドバーグが降板を宣言し、不人気のまま2シーズン途中で終了しました。
ミュージカル版『バグダッド・カフェ』
パーシー・アドロン監督とその妻エレオノーレ・アドロン脚本のこのミュージカルは、ボブ・テルソンによる新曲も追加され、2004年にスペイン(バルセロナ)で初演されました。2005〜2006年のフランスツアーは大成功を収めました。映画公開当時は20歳そこそこの若さだった主題歌『コーリング・ユー』を歌うジェヴェッタ・スティールがこのミュージカル版「バグダッド・カフェ」では、カフェの女主人ブレンダ役を演じています。

ルート66沿いに実在する『バグダッド・カフェ』
1926年11月11日、アメリカ合衆国を東西に横断することができる国道ルート66が開通しました。第2次世界大戦後はグランドキャニオンへの観光ブームが起こり、たくさんの人々が利用するようになりましたが、1950年代中ごろからルート66に取って代わる高速道路の建設が始まり、1985年ルート66は国道としての使命を終えました。このロサンゼルスからラスベヴェガスに続くルート66の、周りに何もない、寂れた小さな町にバグダッド・カフェが実在しています。以前は違う店名で営業していたそうですが、映画『バグダッド・カフェ』によって訪れる人が増え、1995年に映画に使われた「バグダッド・カフェ」に改名したそうです。残念ながら映画に登場したモーテルは既に経営はしていません。
主題歌『コーリング・ユー』
バグダッド・カフェの音楽を担当したボブ・テルソンは、ゴスペルの作曲や、現代音楽家フィリップ・グラスのアンサンブルでオルガンを弾くなど、多彩な経歴の持ち主。
パーシー・アドロン監督が主題歌を依頼したのは、彼が出演していた1985年のゴスペル・ミュージカル『The Gospel at Colonus』を観劇したことがきっかけでした。この舞台のことを気に入った監督は、1987年の映画のために、ガーシュウィンの「サマータイム」のような曲を作って欲しいと依頼しました。また、世界的ヒットになったこの『コーリング・ユー』を歌っているのは、ミネアポリスのゴスペル・グループ、J.D.スティール・シンガーズの出身であるジェヴェッタ・スティール。『The Gospel at Colonus』に出演していた彼女の歌声に魅了された監督は、シンガーとして彼女を推薦したといいます。この歌は映画公開後、ホリー・コールやポール・ヤングなど、世界中のアーティストにカバーされるヒット曲になりました。
監督パーシー・アドロンが語る『ニュー・ディレクターズ・カット版』
オリジナル版(アメリカ版)を制作するにあたり、配給会社から「映画のテンポを上げるため、もう少しタイトにして欲しい」との要望がありました。要望の通り、監督は編集者と共に映画を完成させたものの、映画を見た配給会社は「どこか削れないかと提案しただけ」とのこと。
そして2008年、オリジナルのネガ・フィルムを高性能な最新技術を使ってパーシー・アドロン監督自ら修正し、自分の思い描いていた色どおりの色彩豊かな色に調整して『ニュー・ディレクターズ・カット版』を製作したといいます。また、トリミングについても、『ニュー・ディレクターズ・カット版』は、1987年の時点で頭の中に思い浮かべていた通りのものになっていると語っています。
キャスト
・ヤスミン役マリアンネ・ゼーゲブレヒト(1945-)
ドイツ・バイエルン州シュタンベルク・アム・ゼー出身の女優。撮影当時は42歳。79年に舞台を観たパーシー・アドロン監督に見出され、TVドラマ『キショット』に起用され、83年には映画「Die Schaukel」にも出演。そして84年にはパーシー・アドロン監督作『シュガーベイビー』で主人公マリアンネ役に抜擢、この作品でエルンスト・ルビッチ賞を受賞します。この作品が世界的大ヒットとなったことでハリウッド作品にも出演するようになりました。現在は、ドイツのバイエルン地方に住んでいて、テレビ映画で活躍しています。
・ルディ・コックス役ジャック・パランス(1919-2006)
1940年代はプロのボクサーとして活躍。第二次世界大戦中パイロットとして従軍中に火災で怪我を負って顔に整形手術を受けます。大戦後、スタンフォード大学で演劇を学んだ彼は1950年に映画デビューし、その強烈なアクの強い個性でたちまちハリウッドを席巻しました。整形した顔もあってか、当初は残忍な悪役ばかりを演じていましたが、次第に精悍な指揮官役やクセのあるヒーローなど、他の俳優が演じられないような難しい役柄をこなしました。この作品が撮影される1980年代には、すでに俳優としてのピークは過ぎていました。当時ルディ役として「昔のハリウッドの“味のある渋い”誰か」を探していたパーシー・アドロン監督はハリウッドのとある人物からジャック・パランスを薦められ、彼にオファーしたと語っています。また、当時ジャック・パランスはカウボーイ・ブーツを履くのが嫌っていましたが、撮影終了後には衣装のブーツを衣装室に返さないで自分のトラックに載せて持って帰ったといいます。
受賞とノミネート
1988年: 第23回Guldbagge Awardsベスト外国映画賞
1988年: バイエルン映画賞最優秀脚本賞(エレノア&パーシー・アドロン)
1988年: エルンスト・ルビッチ賞(パーシー・アドロン)
1989年: アカデミー賞主題歌賞にノミネート(ボブ・テルソン『コーリング・ユー』)
1989年: アマンダ・ベスト・外国映画(パーシー・アドロン)
1989年: アルティオス長編映画・コメディ映画の最優秀キャスティング賞受賞(アル・オノーラト、ジェロールド・フランクス)
1989年: セザールベスト外国映画受賞(パーシー・アドロン)
映像
バグダッド・カフェ[VHS]1991年91分
バグダッド・カフェ完全版[DVD][Blu-ray]2003年108分
バグダッド・カフェニュー・ディレクターズ・カット版[DVD] [Blu-ray]2010年108分
CD
コーリング・ユー〜バグダッド・カフェ—オリジナル・サウンドトラック46分
1.コーリング・ユー(ジェヴェッタ・スティール)
2.ブルース・ハープ(ウィリアム・ギャリソン)
3.ツヴァイファッハ(ダイヒンガー・プラズムジク)
4.ブレンダ・ブレンダ(ジェーリン・スティール・バトル& マリアン・ザケブリヒト& トミー・ジョー・ホワイト)
5.プレリュードハ長調(ダーロン・フラッグ)
6.カリオペ(ボブ・テルソン)
7.コーリング・ユー(ボブ・テルソン)
8.バグダッド・カフェ・ストーリー(朗読パーシー・アドロン監督)
出典(Wikipedia):バグダッド・カフェ
ルート66