【放射能:私たちは原子力をどう考えるべきか?】

現在、地球環境に対するさまざまな問題が取り上げられ、活発な議論が交わされています。

放射能の問題も地球環境問題のひとつと言えます。

私たち人類は、今、放射能をさまざまな形で利用しています。たとえば、原子力発電所や核爆弾などがそうです。

知らず知らずのうちに原子力の恩恵を受けている時代ですが、原子力がもたらす影響について真剣に考えたことはあるでしょうか。

1986年に起きたチェルノブイリ原発事故に続いて、2011年に発生した福島第一原発事故によって、人々は原子力の利便性と危険性を突きつけられました。

私たちは原子力とどう向き合って、原子力をどう考えるべきなのでしょうか。

## 放射能・原子力について

そもそも、私たちはどれくらい放射能や原子力について知っているでしょうか。

これらの言葉を聞いたことがある・なんとなく知っているという人は多いと思いますが、詳細な説明をしてくださいと言われてできる人はどれくらいでしょう。

環境問題について考えるためには、なによりも知識が必要となります。

まずは、放射能や原子力そのものについて知っていきましょう。

### 原子力とは?

原子力とは、原子核の変換や核反応にともなって放出されるエネルギーのことで、核エネルギーや原子エネルギーと呼ぶこともあります。

### 放射能とは?

放射能とは、原子力とは違い、「放射線を出す能力」のことです。

また、放射線を出す“もの”のことを放射性物質と呼びます。

### 放射線とは?

それでは、放射線とは一体どのようなもののことなのでしょうか。

放射線とは、高いエネルギ-を持ち、高速で飛ぶ粒子と短い波長の電磁波のことを指します。

ここで言う「高いエネルギー」が原子力のことなので、言い換えれば、原子力を持つ高速で飛ぶ粒子や短い波長の電磁波のことを放射線と呼んでいるのです。

放射線は光の仲間と考えることができ、見ることも、聞くことも、触れることも、臭いを嗅ぐこともできません。人間が五感で放射線を感じ取ることはできないのです。

電球から遠ざかれば感じるまぶしさが弱くなるのと同じように、放射線を出すもと(放射性物質)から遠ざかれば遠ざかるほど、放射線を受ける量は少なくなります。

また、放射線は人体を通り抜けます。そのため、たとえ放射線に触れたとしても、体に残ることはありません。

放射線にはいくつかの種類があります。下記がその種類です。

– アルファ線:原子核から放出される粒子。紙1枚で止めることができる。

– ベータ線:原子核から放出される電子。プラスチックやアルミニウムの薄い板で止めることができる。

– 中性子線:原子核を構成する粒子の1つ。水素をたくさん含むもの(水、コンクリなど)で止めることができる。

– ガンマ線:不安定な状態にある原子核が安定した状態に移ろうとしたときに放出される電磁波。鉛や鉄の板、分厚いコンクリートなどで止められる。

– X線:原子から発生する電磁波。鉛などで止めることができる。

放射線はベクレル、またはシーベルトという単位でその量を表します。

ベクレル(Bq)という単位は放射線を出すほうに焦点を置いており、放射能を表す単位として使われます。

シーベルト(Sv)という単位は人体への影響を表すために用いられ、放射線を受ける側にフォーカスしています。被ばく線量とも呼ばれ、1000分の1シーベルトをミリシーベルトと数えます。

放射線には時間が経つとともに量が減っていくという特徴があります。

では、放射線はどうやって生み出されるのでしょうか?

### 放射線が発生するメカニズム

この世に存在するありとあらゆるものは、原子によって構成されています。

その原子は、電子と原子核によって構成されています。

原子核はプラスの電荷を持つ陽子と持たない中性子とで構成されており、陽子と中性子の組み合わせによってその性質が変わっていきます。

これらの組み合わせには、安定したものと不安定なものがあるのですが、不安定な組み合わせで構成される原子核は余分なエネルギーを放出して、安定した状態になろうとします。

このとき、放出されるものが放射線なのです。

### 自然放射線と人工放射線

#### 自然放射線

放射線は自然界に存在しています。

自然の中で出ている放射線のことを自然放射線と呼び、そうではなく人の手によって故意に生み出される放射線を人工放射線と呼びます。

自然放射線は宇宙や大地、食物などから出ています。原子力発電などと関わりなく、一般的な生活を送って1年間で被ばくする量は、世界的に平均2.4ミリシーベルトとなっています。

自然で被ばくする線量は地域によって差があり、たとえば花崗岩が多い地域では被ばく線量が高めになっています。

世界的に見ると、インドのケララ地方では1年間に9ミリシーベルト被ばくすると言われています。これは土地にモナザイトと呼ばれる鉱石が含まれているためです。

地域だけではなく、高度によって受ける放射線の量も変わります。高度が高いほど、宇宙から放出されている放射線を多く受けることになるのです。

食物には放射性物質が含まれており、カリウム40や炭素14などが代表的です。これらの物質は健康に不可欠で、さまざまな食品に含まれています。

食品を摂取することにより被ばくする放射線の量は、年間およそ0.2ミリシーベルトほどです。

これらの放射線は時間が経つと減っていくと同時に、新陳代謝されるため、体内で一定の量に保たれ、増えることはありません。

#### 人工放射線

人工放射線の種類や性質は自然放射線となんら変わりありません。

レントゲン、CTスキャンに代表される医療用機器や原子力発電所など、人間の活動にともなって生じるため、自然界で放出される放射線と区別するために人工と呼んでいるに過ぎません。

人工放射線を受ける量については、国際放射線防護委員会が勧告し、各国で定められています。

たとえば日本では、医療行為を除いた場合、一般人は1年間で1ミリシーベルト以下、放射線に関する仕事に従事する人は1年間で50ミリシーベルト以下を最大量としています。

また、原子力発電所の周囲では1年間に0.05ミリシーベルト以下までとされています。

## 放射能が環境に与える影響

放射能が周囲に与える影響はさまざまありますが、なかでも放射能汚染、それにともなう健康や自然への影響が特に問題視されています。

過去、実際に起きた放射能汚染はどれほど環境や人々に影響を与えたのでしょうか。

チェルノブイリ原発事故と福島第一原発事故の例を見ていきましょう。

### チェルノブイリ原発事故

1986年4月、ソビエト連邦(現在のウクライナ・キエフ州)で起きたチェルノブイリ原子力発電所事故は史上最悪の原発事故のひとつとして、今でも語られることのある有名な事故です。

チェルノブイリ原子力発電所で稼働していた4つの原子炉のうち、1つがメルトダウンののちに爆発し、放射性物質がウクライナやベラルーシ、ロシアに降り注ぎました。

この事故の結果、放射能の影響で30人を超える人々が死亡し、また、15万人の周辺住民は自宅から強制的に退去せざるを得なくなりました。

現在も原発に最も近いプリチャピ市は無人の街となっています。

#### 環境への影響

##### 都市環境

チェルノブイリ原子力発電所が爆発したことによって、周辺地域の都市部で、芝生や公園、広場、屋根、壁などが放射能で汚染されました。

雨の中に含まれた放射性物質のために、土壌や芝生なども汚染されたことが確認されています。

周辺地域を汚染した放射能は事故後20年経っても、その土地に留まり、人間への被ばく源となっていたと考えられています。

一方で、頻繁に生活や娯楽で利用される地域の汚染は風や雨にさらされ、人々が日常的に生活していく中で、1986年のうちにかなり減ったと言われています。

##### 農業環境

事故が起きた直後は、農作物や家畜の餌となる牧草などに放射性物質が直接沈着したことによって、農作物と家畜が放射能汚染に見舞われました。

さまざまな放射性物質が汚染を引き起こしていましたが、最も問題視されていた放射性ヨウ素による汚染は半減期が短かったため、最初の2ヶ月で収束しています。

しかし、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアでは、ミルクが放射性ヨウ素に汚染されたため、消費者(特に子どもたち)が甲状腺被ばくを受けることになりました。

事故から2ヶ月が経つと、次は農作物などが根から養分と一緒に放射性物質を取り込んでしまうことにともなった放射能汚染が問題となりました。

根から取り込まれる放射性物質は減るまでの期間が長く、放射能対策もされていないような土地においては個人農家にとって大きな問題でした。

この汚染は事故から20年経った後に出されたレポートで、今後数十年続くと見込まれていました。

##### 森林環境

チェルノブイリ周辺の山岳・森林地域では放射性セシウムによる汚染がひどく、林産物が高い放射能値を記録しました。

放射性セシウムが森林の生態系内で循環してしまっているため、事故後なかなか減らず、林産物の汚染が高レベルにとどまり、多くの国々で基準値を超えたままになりました。

森林の放射能汚染は自然と減少していくのを待つほかに対処のしようがなく、多くの人が影響を受けたと言われています。

##### 水質汚染

チェルノブイリ原子力発電所にある原子炉から放射性物質が漏れ、広範囲にわたって水域を汚染しました。

水域が汚染されたことによって、そこに生息している生き物も汚染されることになりました。

また、土壌を汚染していた放射性物質が雨などに洗い流され、海や湖、川などを汚染する二次汚染が、量は少ないものの、事故から10年以上経ってもなお、引き起こされていました。

このように周辺地域だけではなく、風や水に運ばれた放射性物質は広い範囲で、都市部・農作物・森林・水に対して長い間汚染を続けました。

これらの汚染によって、私たち人間も少なからず健康被害を受けたのです。

#### 福島第一原発事故

福島第一原子力発電所事故は、2011年3月11日に発生した東日本大震災にともなって起きた原発事故で、6つあった原子炉のうち、1~3号機がメルトダウンを起こし、放射性物質が放出されました。

放出された放射性物質の量は諸説ありますが、チェルノブイリ原発事故で放出された放射性物質のおよそ6分の1だと言われています。

この事故は国際原子力事象評価尺度で最悪のレベル7に分類されます。

政府は事故現場である原子力発電所から半径20kmの圏内を警戒区域、20km圏内からは出ているものの放射線量が高い地域を計画的避難区域と定め、10万人を超える住民が避難せざるを得なくなりました。

2012年に指定された帰還困難区域は今でも立ち入りが原則禁止されており、住民が戻れるようになるのは2021年の見込みです。

福島第一原発事故の際もチェルノブイリ同様、大気中や水中などに放出された放射性物質が広範囲にわたって、土壌、水道、農作物や畜産物を汚染しました。

##### 海洋汚染

福島の事故では高濃度の放射能に汚染された水が海中に流れ出たため、海洋汚染が特に問題視されています。

専門家は放射性物質が海洋に入った際、魚などの繁殖率が低下したり、DNAに変異が起きたり、生き物に大きな影響を及ぼす可能性があると警鐘を鳴らしています。

また、汚染された海藻やプランクトンを魚などが食べることにより、放射性物質がどんどん蓄積されていく“生物濃縮”の可能性も指摘しています。

これらの影響は短期的とは言いがたく、放射性セシウムは半分に減るまで30年という長い期間を必要とするため、長期的な問題になると考えられています。

原子力発電は、火力発電と違って環境破壊の直接的な要因となるガスを排出せず、発電に使われるウランが政情の安定している国に埋蔵されていることが多く、安価で大量の電力を提供できるというメリットがあります。

しかし、チェルノブイリや福島のように事故が起きた場合、現場近くだけではなく、遠く離れた場所の環境に対しても、長期間にわたるさまざまな影響をもたらします。

## 原子力とどう向き合うべきか?

原子力は便利ですが、いろいろなデメリットもはらむ諸刃の剣です。

安価で大量の電気を供給するために原子力を利用すべきだとしても、万が一、事故が起きてしまった場合、私たちは甚大な被害を受けます。

また、原子力発電を放棄するにしても、利用していた放射性物質の廃棄方法や廃棄場所について考えなければなりません。

原子力はその場限りの資源ではありません。

利用する場合でも廃棄する場合でも、長く未来に影響を与え続けます。

私たちは今、原子力とどう向き合って、原子力をどう考えるべきなのでしょうか。

原子力とともに生きる時代の人間として、真剣に考えなければなりません。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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