ジャーマン・クリスマス・クッキー:ドイツに伝わる食の芸術品

ジャーマン・クリスマス・クッキー (German Christmas cookies)
ドイツで、クリスマスまでの4週間の「アドベント」の期間に作られ食される、クリスマスならではの食の伝統のひとつ。ドイツ各所で開催されるクリスマス・マーケットで販売される「レープ・クーヘン」が代表的であるが、ドイツのクリスマス・クッキーの種類はたいへん豊富で、数10種類もあるといわれている。各家庭で異なるクッキーを何種類も手作りして楽しむほか、友人や知人にもプレゼントして楽しむ習慣がある。芸術品のように美しい、手が込んだクッキーも多い。

家族と友人知人、皆で楽しむ手作りクッキー

ドイツでは、クリスマスまでの4週間の「アドベント」の期間にクリスマスを迎えるための準備を少しずつ行い、クリスマス期間を長く楽しみます。クッキーはクリスマスのための特別な食べ物のひとつで、各家庭で手作りされるのがドイツの伝統です。そして家族で食べる分だけでなく、友人知人にも配る分も大量に作り、皆で分かち合って楽しむ習慣があります。

クッキーのレシピは豊富にあり、それぞれの家庭で作り方も材料も仕上がりも異なるクッキーが複数種類作られます。他のお家からもらう分も合わせると、10種類以上の異なるクッキーを同時に楽しめることになりますね。

各家庭で手作りされるこのクッキー、材料を混ぜて焼くだけの簡単素朴なクッキーもありますが、食べるのが惜しいような美しい見た目の、作るのに非常に手間のかかるクッキーもあります。
私も実際に作ったことがありますが、一度にたくさんは作れませんでした。1種類作るだけでもかなり手間がかかります。これを普通の家庭で一度に何十個ずつ、そして違うクッキーを何種類も同時に作るとは、すごいと思います。

代表的なジャーマン・クリスマス・クッキーは

「German Christmas cookies」のキーワードで検索すると、見目麗しいクッキーの写真がたくさんヒットすることからも分かるとおり、ドイツのクリスマス・クッキーはとにかく種類豊富であることでも知られています。
以下に、代表的なものをいくつかご紹介してみたいと思います。ちなみに、私が実際に作ったことがあるクッキーは、3~7です。

1.「レープ・クーヘン」Lebkuchen

蜂蜜とアニス、コリアンダー、シナモン、クローブ、ナツメグ、ジンジャーといったさまざまなスパイスが使われるクッキーで、褐色で固い仕上がりが特徴です。「ジンジャー・ブレッド」とも呼ばれています。一口大に仕上げるものは、生地を型ぬきしてオーブンで焼き、砂糖とレモン汁で作ったアイシングで模様を描くなどして作られます。
レープ・クーヘンが有名なのは、ドイツのクリスマス・マーケットです。多くはハート形のサインボードのような大きく厚いレープ・クーヘンに色づけしたアイシングで文字やカラフルに描かれて、マーケットの店先にたくさんぶら下がっています。
また、童話「ヘンゼルとグレーテル」のお菓子の家もレープ・クーヘンでできています。現在もドイツの子供がいる家庭では、レープ・クーヘン生地で壁や屋根を作り、アイシングやナッツなどで飾り付けたミニチュア版「お菓子の家」が作られています。最近は外国でも専用キットが販売されたりして流行っています。

2.「シュペクラティウス」Spekulatius

専用の型に生地を押し付けて模様をつけて焼くことが特徴のクッキーです。ドイツ西部のラインラント地方の名物でもあり、オランダやベルギーでミラのニコラスの日(12月5日か6日)に食べるクッキーとしても知られています。生地にこしょう、シナモン、カルダモン、ナツメグといった香辛料が入る点では、レープ・クーヘンに近いと言えるかもしれません。
ヨーロッパ、アメリカのスーパーでは年中手に入り、最近では日本でもインスタグラム等で人気が高まっているベルギーLotusブランドのクッキーも、このシュペクラティウスの一種です。

3.「バニラ・キッフェルン」Vanillekipferl

生地にアーモンドまたはヘーゼルナッツのパウダーとバニラが練り込まれたクッキーで、三日月形に成形されるのが特徴です。表面に雪のように粉砂糖をふりかけて仕上げることもあります。
三日月形は、ひとつひとつ手で形を作ります。きれいな三日月形にするのはなかなか難しく、これをたくさん作るにはやはりお手伝いする人が必要だと思いました。人によって違う形に出来上がったりするので、家族で作ると楽しいと思います。

4.「ココス・マクローネン」Kokosmakronen

南国の食べ物のイメージがあるココナッツが、雪が降るような寒い国ドイツとなぜ縁があったのか分かりませんが、ドイツには古くからココナッツが流通していたようです。乾燥のココナッツフレークをふんだんに使うこのクッキーも、ドイツ伝統のクリスマス・クッキーのひとつです。ちなみにドイツでは、ココナッツとチョコレートの組み合わせも人気があります。
このクッキーは、ココナッツフレークに倍量の砂糖と卵白を入れて混ぜ合わせ、天板に丸く生地を落としてオーブンで乾かすようにして焼き上げます。生地に小麦粉は入りません。なお、フランスのお菓子マカロンとは全くの別物です。

5.「リンツァー・アウガン」Linzer Augen

2枚のクッキーが重なったところにジャムを挟み、表面から中のジャムが見える美しく楽しい見た目が特徴のクッキーです。ドイツ語でAugeは「目」の意味です。
同じ大きさに型抜きした2枚のクッキー生地の、一方は真ん中をくりぬくように穴を開けて焼き上げ、冷めたあと穴が開いた方には粉砂糖をふりかけ、もう1枚はジャムを塗り、この2枚を重ねてくっつけるという手間をかけて作られます。これも人手がいりますね。家族で作った方がよさそうです。
果物が豊富で、各家庭に常備されるジャムの種類も豊富なドイツでは、このクッキーもカラフルに仕上がり、たくさん並んだ様子は美しくて圧巻です。

6.「シュワルツ・ワイズ・ゲベック」Schwarz-Weiss-Gebäck

黒いココア生地と白い生地を別々に作り、モザイクのように組み合わせます。黒と白の配色デザインは作り手次第で、さまざま個性的なクッキーに仕上がります。
制作工程では、色違いで2種類の生地を作る、見た目の色配分が等分になるように成形する、冷やす、切る、くっつける、成形、また冷やす、切る、成形、といった手間と時間をかけて丁寧に作られます。手先の器用なドイツ人ならではの芸術品ともいえるクッキーで、食べておいしいだけでなく、作る側も完成したときの満足度が高いクッキーだと思います。

7.「シュプリッツ・ゲベック」Spritzgebäck

バターをたっぷり使い柔らかめに仕上げた生地を、口金をつけたしぼり袋に入れて天板に絞り出して焼く、表面の細い筋が特徴のクッキーです。丸く絞り、てっぺんにドレンチェリーやナッツをのせたり、細長く絞り出して、焼きあがってから端をチョコレートに浸して飾ったりします。
先に紹介したクッキーと比べると、比較的手間をかけずにできあがるクッキーと言えますが、バターの風味豊かで誰にでも好まれる美味しいクッキーです。

しかし最近は、買って済ませる家庭も多い

ドイツの伝統では、12月の上旬に各家庭で子供もお手伝いをしながら、これらのクリスマス・クッキーを大量に作ることが家族のクリスマスのイベントのひとつだそうです。しかし現在では、子供がいる家庭では一部手作りされるものの、お店で売られているものを買って済ませる家庭も多くなっています。
近頃は、9月ごろから既にスーパーマーケットで「クリスマス・クッキー」が買えるところもあるそうです。また、昔はクリスマス・クッキーの作り方を知らない子供も増えているとのこと、ちょっと味気なくて残念ですね。

このような、古き良き伝統が薄れていく傾向は、ドイツのクリスマス・クッキーに限らず、世界中で起こっていることだと思います。昔より便利になっているはずなのに、昔のような手間暇をかける時間はない忙しい現代人。しかし家族と友人知人のために手作りする、皆で時間と食を共有して楽しむ習慣は、どの国でもできるだけ長く続いていってほしいものだと思います。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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