医薬品:創薬の現場

全世界の各国が誇る製薬メーカー、研究機関、大学等では日夜最新医薬品の開発にしのぎを削っています。
特に医療先進国であるアメリカ、EU諸国、それに日本での活動が頻繁に見られます。
しかし、こうした世界的な動きの中にあって、今まで治療薬が無く諦めてしまっていた疾患に関しても、効果がある薬剤が世界の至る所で世に出ています。
そうした新薬は、安全性の問題などを考慮して各国の規制当局により厳しい審査を経なければ、その国内での使用が出来ない場合があります。
ここでは、現在開発中の未承認薬に関しての現状や今後の方向性等を紹介し世界的な医療問題としてみたいと思います。

関係各所の思惑

新薬は、GLP(Good Laboratory Practice)という厳しい基準の下行われる前臨床試験から臨床試験(GCP(Good Clinical Practice))に至るまで、概ね10年前後の期間を必要として莫大な経費を伴って開発されます。
しかし、一旦、市場に出て来ると莫大な利益を生み出すことになります。このことで、新薬に関係する関係各所の思惑により国際的に発売されていたり、発売が見送られたりしてしまいます。

ここでは、その思惑に翻弄される形で上市(Launch)される新薬についてご紹介したいと思います。
なお、基準として製造過程におけるGMP(Good Manufacturing Practice)という厳格な基準もあり製造過程でも厳しく管理されていることになります。

(1) 製薬メーカー等創薬現場での思惑

新薬を生み出すことを「創薬」と言いますが、新薬メーカーや研究機関によって莫大な研究開発費を投じ開発を行います。

例えば100万以上の「ある種の薬効が想定できる物質」の中から、前臨床試験(動物実験)を経て安全性が確認された物質を選択します。その後臨床試験に移るわけですが、この段階では二桁位の物質に絞り込まれるのがほとんどです。100の無駄を経て1の成果を得るという、果てしない研究開発が実際の現場では繰り広げられています。
そうした末に薬効を期待できる分野が選択されるわけですが、その分野の患者さんの人口を想定し、その結果得られる対価を計算します。

当然ですが、患者数が多く世界でも治療法に難渋しているような疾患に対する新薬は最優先に開発されます。
しかし、一方では特定希少疾患のように患者数が極めて少ない疾患群に薬効を示しそうな物質は、その優先度合は落ちるのが経済原理になっています。

こうした製薬メーカーを筆頭に多くの優秀で大規模な研究所の思惑は、あくまでも経済原理に沿って考えられている事を理解しなければなりません。

(2) 規制当局の思惑

世界各国には、その国の薬品に関する規制を行う規制当局があります。
アメリカではFDA((Food and Drug Administration:アメリカ食品医薬品局)が該当し、EU域内では、EMA(European Medicines Agency:欧州医薬品庁)が該当します。日本では厚生労働省医薬品局がそれに当たります。

これらの当局では、その地域での思想に大きく左右されたり、更にその時の為政者による思惑も絡み、微妙に審査の厳格さが異なります。

感覚的にこの3つの当局の中で、日本を除くFDA、EMAは規制当局としては比較的寛容であり、薬効が優先され、少々の副作用があっても限定的に許可するという方針があるようです。
この理由は、欧米諸国において医療保険制度の問題があると思われ、日本のように国民皆保険が実現できていないため、国や地域で持つ医療負担が少ないという点にも注目しなければなりません。

(3) 患者個人を含む患者団体の思惑

医薬品の最終消費者である患者は、今までにない薬効の薬剤だけでは無く、今までの治療では回復しなかった疾病について、少しでも薬効ある薬剤を藁をもすがる思いで待ちわびています。しかし、未承認医薬品については、国からの支援や保険が受けられないことが患者さんにとって大きな経済的負担になっています。さらには個人輸入を行う制度もありますが、そのためには多大な労力と経済的負担が必要になります。難病指定の疾患や、患者数が極めて少ない希少疾患などではなおさらです。しかし、患者団体などが政府に圧力を掛けることで幾分その審査なり許可が早まっていることは確かです。1日でも早く国内承認をして欲しいと願うことが患者の思惑と言うことになるでしょう。

世界における薬剤開発の現状

世界には数多くの製薬会社があり、それぞれに得意な分野や領域の薬剤・物質を開発しています。この開発における能力、つまり開発力がその企業の成長力に直結していると言って良いでしょう。2017年末現在、世界の医療用医薬品を手掛ける製薬メーカーのTOP10を以下にお示しします。なお、製薬メーカー名とヘッドオフィスを置く国名と年間売上高を示します。

  1. ロッシュ(スイス) 544億ドル
  2. ファイザー(アメリカ) 525億ドル
  3. ノバルティス(スイス) 491億ドル
  4. メルク(アメリカ) 401億ドル
  5. サノフィ(フランス) 396億ドル
  6. グラクソスミスクライン(イギリス) 389億ドル
  7. ジョンソンアンドジョンソン(アメリカ) 363億ドル
  8. アッヴィ(アメリカ) 282億ドル
  9. ギリアド(アメリカ) 261億ドル
  10. イーライリリー(アメリカ) 229億ドル
    ※出典:AnswersNews

以上のような世界的製薬メーカーが名を連ねていますが、各国に現地法人等がありその総体として考えて下さい。また、これら新薬開発に注がれる研究開発費も将来におけるその企業の成長を支える原資になることから、以下には、2017年末現在の製薬会社の研究開発費TOP10を以下にお示しします。なお、製薬メーカー名とヘッドオフィスを置く国名と年間売上高を示し、( )内には対売上高比率を示します。

  1. ロッシュ(スイス) 115億ドル (21.2%)
  2. メルク(アメリカ) 100億ドル(24.9%)
  3. ノバルティス(スイス) 90億ドル(18.3%)
  4. ジョンソンアンドジョンソン(アメリカ) 84億ドル(23.1%)
  5. ファイザー(アメリカ) 77億ドル(14.6%)
  6. ブリストルマイヤースクイブ 64億ドル(30.9%) 
  7. サノフィ(フランス) 62億ドル(15.6%)
  8. セルジーン(アメリカ) 59億ドル(45.5%)
  9. グラクソスミスクライン(イギリス) 58億ドル(14.8%)
  10. アズトラゼネカ(イギリス) 58億ドル(25.6%)
    ※出典:AnswersNews

これによれば、その製薬会社の2017年度における開発への注力度合が見て取れます。しかし、一概にその比率の多寡だけがその傾注度合を示すものではないということも理解しなければなりません。例えば、ファイザーの売上高に占める開発費の比率が14.6%であり、開発費ベスト10の各企業の中で最も少ない比率になっています。しかし、これは新薬開発のステージの違いにあると言って良いでしょう。大規模臨床試験の新薬をこの時期に多く持っている製薬メーカーの開発費比率は上昇し、動物実験段階のものが多い製薬会社は比率が下がります。

また、開発費総額ベスト10にも顔を出している「セルジーン」と言う会社は、その売上高に占めある開発費が、45.5%と売り上げの半分を開発費につぎ込んでいることが示されます。この会社は自社の販売網持つことなく、他の製薬会社へパテント導出を行っている会社になり、主要な活動は研究開発が全てになります。そのため、売上高に占める研究開発費がこれほどまでに膨らんでも経営が成り立つことになります。多くのこうした会社は、遺伝子操作による薬剤開発などに特化した会社が多く見受けられ、莫大な設備投資や人員を要しない会社が多いようです。

まとめ

以上に示しましたように、未承認の新薬に関してその仕組みと現状についてご紹介しました。また、世界での製薬会社に関してのTOP10をお示ししました。新薬は今まで克服できなかった疾患に対する最新の武器として欠かすことのできないものとして今後も世界で開発され続けることでしょう。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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