
マイケル・シェンカー:フライングVを愛し、愛された男
マイケル・シェンカーは、ドイツ出身のギタリストで、兄がスコーピオンズのサイドギターであるルドルフ・シェンカー、妹がヴィーヴァのキーボードであるバーバラ・シェンカーと兄妹全てがミュージックシーンで活躍しています。
卓越したテクニックと独特のギターサウンドで世界中のギターフリークから注目されるギタリストです。
スコーピオンズからUFOへ
マイケル・シェンカーがはじめてライブで演奏したのはわずか11歳の時です。その後、兄であるルドルフが在籍していたスコーピオンズのアルバムに参加したのが17歳ですから、当時からすぐれたテクニックを持っていたことがわかります。
その後、UFOにスカウトされ5年間在籍することになるのですが、当時のUFOはドイツのトップバンドでスコーピオンズからUFOへの移籍は大出世でした。
マイケル・シェンカーがUFOに加入したきっかけは、UFOのギタリストであったミック・ボルトンがライブ直前にドタキャンし、その時、前座を務めていたスコーピオンズのマイケルがギターを担当したことがきっかけでした。
そのライブでのプレイを気に入った、UFOのボーカルであるフィル・モグがマイケルを気に入りアプローチを掛けたのだと言われています。
マイケルが加入したことで、さらに厚みを増したUFOはアルバム「Phenomenon」に収録された「Doctor Doctor」の大ヒットで世界的なハードロックバンドに成長していきます。
自身のバンドマイケル・シェンカー・グループ
世界的バンドとして成功を収めたUFOですが、リーダーのフィル・モグとマイケルの間の意思疎通がうまくいかず最終的にマイケルは脱退してしまいます。
その後、自身のバンドであるマイケル・シェンカー・グループを始動するのですが、この時期の活躍によってマイケル・シェンカーは世界的なロックギタリストとして世界中に知られることになるのです。
キーボードにレインボーなどでも活躍したドン・エイリー、ドラムスにレッド・ツェッペリンのロバート・プラントなどともプレイしたコージー・パウエル、のちにMr.Bigで超絶プレイを見せることになるベースのビリー・シーンなど錚々たるメンバーを引き連れて制作されたデビューアルバム「The Michael Schenker Group」は、アメリカでこそ商業的な成功は得られませんでしたが、世界中のロックファンが注目するアルバムとなりました。
その後も、ボーカルにレインボーで活躍したグラハム・ボネットやベック・ボガード&アピスでドラムを叩いていたカーマイン・アピスなど多くの有能なミュージシャンが参加しますが、楽曲の完成度の高さ、メンバーの豪華さとは対象的にヒット作には恵まれませんでした。
マイケル・シェンカーとフライングV

マイケル・シェンカーと言えばフライングVと言われるほど有名ですが、デビュー当時はギブソンのレスポールをメインに使っていました。フライングVを使うきっかけになったのはスコーピオンズに在籍していた時で、ステージ上のアクシデントから兄のフライングVを借りて弾いたところ、とてもしっくりきたことから使い続けているのだそうです。
白と黒のシンメトリーにカラーリングされたフライングVは、マイケル・シェンカーのオリジナルカラーで多くのギターメーカーからコピーモデルが発売されました。
マイケル自身は当初、ギブソンのメダリオン・フライングVにカラーリングしたものを使用していましたが、その後、パフォーマンス製のカスタムVやディーン製のシグネイチャーモデルも使用しています。
マイケル・シェンカーのギタープレイ
マイケル・シェンカーのプレイを見たことがある人なら分かると思うのですが、非常に手が大きく中指を多用することが特徴的です。通常なら他の弦を使ってアルペジオのように奏でる分散和音も1つの弦でこなしてしまうほどで、楽譜上からは分からない演奏上の特徴があります。
親指をネックの上に出し、握り込むようなポジショニングから繰り出されるチョーキングやビブラートは力強く、表現力も大きいです。
フレーズ自体はペンタトニック・スケール、マイナー・スケールを中心としたオーソドックスなプレイが中心になりますが、独特なサウンドも相まって他のギタリストには見られない世界観を演出することに成功しています。
マイケル・シェンカーは、その独特なギターサウンドにも定評があります。一度聞いただけでマイケルのギターだと確信できる原因は、個性的なワウペダルの使い方にあります。
ワウペダルは、クライベイビーともよばれ通常、足でトーンを操作することでカッテイングなどにアクセントを付けるために使用されます。マイケルの場合、ワウペダルを一定のところで固定しトレブルの効いたフェイズイン的なサウンドを構築したものがマイケル・シェンカー・サウンドになっているのです。
ファンの間では、使用されているJEN製のクライベイビーを含めて人気がありますが、あまりに特徴的なサウンドのためプロミュージシャンに真似されることは無いようです。
また、右手でボディを固定し、左手でネックを押し込むことで音程を下げるネックベンドを多用することでも知られており、ステージ上でも何度かフライングVのネックを折ったことあります。
ロック界の変わり者
マイケルは他のロックギタリストと違い、機材などに対してとても大雑把なことで知られています。
通常、ハードロックギタリストと言えば、ライブで限界ギリギリのテクニックを披露する必要があり、自分が使用している機材だけでなくステージ上のPAやギミックに対してもとても神経質になることが普通です。
ところが、マイケルはとても無頓着。たとえば、通常のギタリストであればライブ前に弦は全て取り替えるのが普通ですが、マイケルは切れるまで交換しません。また、弦が切れた場合、普通ならたとえ1本であってもサウンド的なバランスも考えて全て交換しますが、マイケルは切れた弦だけを交換します。
ルックス的な部分でも他のロックスターとは少し違うようで、ほとんど気にしないようです。サウンドを変化させるエフェクターは、一つのボードに固定されたエフェクターボードというものを使用するのが普通ですが、マイケルの場合、なんとステージの床に直接ガムテープで固定していました。
ギターの弦も通常、ヘッド部分のペグに合わせて切断しておくのですが、そのままの状態でブラブラさせています。これは、最近のライブ映像でも確認できるのでよほど本人にこだわりがあるのかもしれません。
マイケル・シェンカーを聞くならこのアルバム
マイケル・シェンカーの出世作となった「Doctor Doctor」が収録されているUFOの「Phenomenon」はおすすめですが、初めて聞くなら1979年にリリースされたライブ・アルバム「Strangers in the Night」などもおすすめです。
こちらは、「Doctor Doctor」も含めたベスト盤的なラインナップになっていますからUFOとはなにか、と興味を持たれている方にもピッタリです。
マイケル・シェンカー・グループ時代で言えば、特徴的なリフで始まる名曲「Cry for the Nations」や泣きのギターが冴え渡るインストゥルメンタル「Into the Arena」が収録されたファースト・アルバム「The Michael Schenker Group」がおすすめです。
これらの楽曲はいまだにステージで演奏されるほどマイケル自身気にいっていてマイケル・シェンカーを代表する名曲と言えるのです。
また、グラハム・ボネットが参加した「Assault Attack」にも「Dancer」や「Samurai」といった名曲が収録されていてファンの支持が高いアルバムとなっています。
現在のマイケル・シェンカー
人間関係に難があり、気難しいことで有名なマイケル・シェンカーですが、近年は黄金時代のマイケル・シェンカー・グループのメンバーを揃えたワールド・ツアーを行うなど精力的に活動しています。
2016年から行われているマイケル・シェンカー・フェストと銘打たれたツアーでは、グラハムネット、ゲイリー・バーデン、ロビン・マッコーリー、ドゥギー・ホワイトと4人ものスーパーボーカルを従えた豪華なラインナップで行われていて各地で大盛況なようです。
息子であり同じギタリストであるタイソン・シェンカーとも共演するなど、まだまだこれから先が楽しみなミスターフライングVですね。
※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。