アントワープ州立写真博物館:歴史的瞬間を写真で知る

※ベルギー・アントワープの中心部にあるマルクト広場

時として「写真」は、人々の歴史を伝える物として貴重な情報媒体です。アントワープ州立写真博物館は、貴重な写真の数々と写真にまつわる遺構を展示しています。著名な写真展の会場としても利用される博物館は、「写真」とは切っても切れない場所と言えるでしょう。そんなアントワープ州立写真博物館についてご紹介します。

アントワープ州立写真博物館とは

ベルギーの最大都市として知られるアントワープは、古式ゆかしい都市でありながら、「商業都市」としても栄えていました。織物業が盛んであった町は、古くから「芸術の町」としても、人々を魅了してきたのです。黄金期と呼ばれた「大交易時代」には、最大の都市となりましたが、戦乱の影響によって、かつての勢いを失いつつありました。しかし、現在のアントワープは、ベルギー経済を支える大都市へと見事に復活を遂げたのです。

そんなアントワープの地に構えるアントワープ州立写真博物館は、世界有数のフィルムメーカー、アグフア・ゲバルト社によって創設されました。かつて、業界世界三位にのぼり詰めたこともあるこの老舗企業は、フィルムメーカーのアグフア社と、印画紙メーカーであるゲバルト写真製造会社が合併した事により誕生した会社です。元々アグフア社の社内には写真美術館があり、この美術館をもっと大きくしようという構想から博物館の創設へと繋がりました。ちなみに写真美術館のコレクションは、現在も博物館で展示しており、その歴史を伝え続けています。

『Overzichtstentoonstelling Stephan Vanfleteren in het Fotomuseum』

(写真博物館での回顧展 StephanVanfleteren)

アントワープ州立写真博物館の収蔵品とは?

古くから存在していた写真美術館は、1980年代から移転や増築を繰り返し、2004年に現在の形へと移行してきました。

アントワープ州立写真博物館は、「写真」というアートを後世へ伝えるために、展示品の拡充並びに写真展の開催をコンセプトにしています。写真のジャンルは、ドキュメンタリーや広告、ファッション、ジャーナリズムなどの多岐に渡り、見た人が感情移入しやすいような展示方法になっています。

また、館内には映画館やグッズショップ、カフェなども併設しており、観賞後の語らいの場として、利用するのもおすすめです。

果たして、どのような作品があるのでしょうか。早速見て行きましょう。

〈ブリュッセルの建築物の写真〉ウィリー・ケッセルズ 1932年

この写真は、ブリュッセルの町並みと、人々の何気ない日常生活を撮影した物です。1932年当時の白黒写真は、明るさには欠けるものの、時代の移ろいを感じさせる、味わいがあります。

『Darkroom Photography Techniques : How to Make a Silver Gelatin Darkroom Printing』

(暗室写真技術:シルバーゼラチン暗室印刷の作り方)

当時の最新鋭技術であった「ゼラチンシルバープリント」によって、この写真はプリントされました。それまで主流であった「シルバープリント」は、写真のデジタル化によって衰退の一途を辿っていったのです。現在も辛うじて残っている「シルバープリント」ですが、感光材料の減少により、近い将来にはプリント出来なくなってしまうでしょう。

※1920年代のトルコ・イスタンブール

〈イスタンブールの写真〉作者不明 1925年

おそらく、1925年のイスタンブールで撮影されたこの写真は、人々の何気無い表情を撮影した物です。誰が撮影した物かも分かりませんが、はっきりと表情が写らない白黒写真にも関わらず、人々は格好付けたり威厳を見せようとしたりと、少しでも自分を良く見せようとしています。

写真が入っている映写機のような物は、当時の撮影道具なのかもしれません。

〈レンチェの長い車線の写真〉フィリップ・J・タス 1979年

何処までも一直線に伸びた道は、全く先が見えず、まるで人間の心根のような不気味さがあります。靄がかかった美しい原風景は、自然と人間の文明が織り成す、究極のステージではないでしょうか。行方の分からない雲と、先の見えない真っ直ぐなこの道には、何か通ずる物があるのかもしれません。

丸みを帯びた中にも曲線美を感じるこの写真は、「ゼラチンシルバープリント」によってプリントされました。この懐かしい雰囲気を醸し出すには、一枚ずつ丁寧に、手作業でプリントするという手間が必要なのです。節約思考の強い現代では、そんな労力の掛かる仕事自体、好まれないのかもしれません。

※古いカメラのイメージ

終わりに

かつて、写真(カメラ)とは「魂が抜かれる物」として恐れられた不可思議な文明でした。科学の原理を知らない当時の人々にとっては、なかなか理解し難い物だったでしょう。

アントワープ州立写真博物館は、写真の歴史に特化しており、当時の人々が暮らしていたリアルな姿を見る事が出来ます。その写真の数々は、誰かによって作られた物では無い、自然遺産なのです。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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