マグリット美術館:世界的なコレクション数を誇るマグリット専門の美術館

ベルギーの首都・ブリュッセルにあるマグリット美術館は、芸術家マグリット専門の美術館です。マグリットが企業へ勤めていた頃の作品や絵画、書簡、インタビューなど、貴重なコレクションが収められています。今回は、そんなマグリット美術館についてご紹介していきましょう。

■マグリット美術館とは

マグリット美術館は、ベルギー王立美術館の一部であった建物を改築し、2009年6月にオープンしました。隣接する王立美術館と共通の入場チケットを購入すると、同時に両美術館を鑑賞する事が出来ます。

建物は、地上1〜4階と地下1〜2階で構成されています。2階〜4階では、年代別に作品の展示を行っており、作品スタイルの変遷と共に、テーマ性を追及した内容となっています。(2階:1951年〜1967年頃、3階:1930年〜1950年頃、4階:1898年〜1929年頃の作品)

『Le musée magritte a 5 ans』

マグリットは元々広告業界で働きながら、作品の製作を行っていました。そんなマグリットがシュルレアリスムへ本格的に参入したのは、同じ時代に活躍していたポール・ヌジェやジョルジョ・デ・キリコの存在がきっかけだったのです。特にデ・キリコに対しての思い入れは深く、ジョルジョ・デ・キリコが手掛けた「愛の歌」の複製を目にしたマグリットは、「涙を抑えることができない」と深く心を震わせたのでした。

『Giorgio de Chirico: A collection of 166 paintings (HD)』

館内には、カフェやブラッスリーも併設しています。晴れた日には、カフェテラスからサブロン広場の風景を眺めたり、ブラッスリーでベルギー料理を堪能したりしながら、作品の余韻に浸ることが出来ます。また、地下1階にあるミュージアムショップでは、マグリット作品をモチーフにしたグッズが揃っているので、観賞後に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

■マグリット美術館の所蔵品

マグリット美術館は、世界最大級のマグリット専門美術館で、およそ230点もの作品を所蔵しています。展示品の中には、かの有名な「光の帝国」も含まれており、「イメージの魔術師」と謳われる、独特な世界観を垣間見ることが出来ます。

そんなマグリット美術館のコレクションには、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な作品をご紹介します。

《光の帝国》 1954年 ルネ・マグリット

本作品は、1954年にマグリットによって制作されました。作品の上部には、少し曇り気味な青空、下部には木々が生い茂る中にポツンと建っている一軒家が描かれています。まるで、昼と夜の風景が入り混じった不思議な雰囲気を感じます。

本作品はシリーズ化され、マグリット美術館の他にもニューヨーク近代美術館や、ソロモン・R・グッゲンハイム美術館などでも所蔵されています。マグリットは、自身の作品を親しい人々に見せ、タイトルを考えてもらうという手段を取っていました。ちなみに「光の帝国」は、シュルレアリストであるポール・ヌジェによって命名されたそうです。

マグリットは、本作品に対して「光の帝国の中に、相違するイメージを再現した」と述べています。積乱雲が浮かぶ爽やかな昼の風景と、街灯のみが照らされている夜の風景を同時に描くことで、思いがけない物による違和感を生み出しているのです。これは、「デペイズマン」というシュルレアリスムの手法の一つで、日常からかけ離れた予想外の組み合わせを描くことによって、鑑賞している側に衝撃を与えるという物です。マグリットは、この「デペイズマン」という手法を常に取り入れ、数多くの作品を手がけました。

ちなみに、名作ホラー映画『エクソシスト』にも影響を与え、あるワンシーンは本作品から着想を得たイメージが採用されています。

『René Magritte – L’empire des rêves』

《秘密の遊戯者》 1927年 ルネ・マグリット

本作品は、マグリットが本格的にシュルレアリスム作家として活躍し始めた1927年頃に制作されました。この時期は多作時代とも呼ばれ、1週間に1枚のペースで作品を仕上げていたようです。作中には、野球を楽しむ白尾衣服の2名の男性、西洋式のけん玉から咲く桜の花、顔のない黒い亀、四角い箱の中にいるマスク姿の女性、右端の赤いカーテンなどが見受けられます。これは、マグリット特有の「デペイズマン」という手法を駆使した物です。

マグリットの作品においてカーテンとは、「何かを隠し、鑑賞する人に見せることは許さない」という意味合いがあります。「現実」と「空想」は相反しているようで、実はカーテン1枚隔てただけの曖昧な関係だという事を表現しているのです。本作品の一部分はカーテンで覆われているため、鑑賞する側がこの世界を完全に見ることは出来ません。また、この右端を隠しているカーテンの存在は、空想世界を完全に見ることへの警告を表しているのかもしれません。

『Magritte at Tate Liverpool: Secrets and surrealism』

《帰還》 1940年 ルネ・マグリット

1940年に制作された本作品は、鳩が卵のある巣へ戻ってくる光景を描いた物です。特に、鳩はマグリットの作品の中でも多く用いられ、「大家族」や「空の鳥」などの作品でも取り入れられています。巣と卵はマグリットの家族を象徴しているとされ、それを頭に置いた上で鑑賞してみると、鳩がまるで家族を守りながら空を飛んでいるかのようにも見えます。

本作品を制作した頃のマグリットは、ドイツ軍によるベルギー侵攻を避けるために南仏カルカソンヌへ疎開し、その3か月後にブリュッセルへ帰還しました。平和の象徴である「鳩」と、家族を象徴する「巣と卵」の組み合わせは、マグリットが疎開していた頃の心境を表しているのかもしれません。

『The Return | Visioguide Musée Magritte Museum | International Sign』

■おわりに

マグリット美術館では、マグリットが手掛けた作品のみならず、書簡やインタビュー、ドキュメンタリー映像なども展示しています。作品を鑑賞するだけではなく、マグリットという人間について理解を深めてみてはいかがでしょうか。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

関連記事一覧