ミドルハイム美術館:散歩やピクニックを楽しみながら彫刻鑑賞ができる美術館

ミドルハイム美術館は、ベルギー・アントワープにある野外彫刻を中心とした美術館です。敷地内には、彫刻界の巨匠オーギュスト・ロダンを始め、名だたる彫刻家たちの作品が約400点も並んでいます。今回は、ゆっくりと芸術を堪能したい方にお勧めの、ミドルハイム美術館についてご紹介していきましょう。

『Welcome to the Middelheim Museum』

(ミドルハイム美術館へようこそ) 

■ミドルハイム美術館とは

ミドルハイム美術館は、ベルギーのアントワープにある彫刻庭園形式の野外美術館です。青空の下で散歩やピクニックを楽しみながら、ロダンなどの著名な作家たちの作品を鑑賞する事が出来ます。2012年まで改装工事が行われていましたが、同年5月にリニューアルオープンしました。また、ミドルハイム美術館では、定期的な個展やグループ展以外にも、常設コレクションの中からテーマを決定する展示会も積極的に開催しています。

美術館があるミドルハイムは、古い歴史を持つ土地です。1342年、無銘の著述家が「ミドルハイムと呼ばれる町」に関して言及、さらに1399年には「ラウレイス・ファン・アールスホット・デ・ヨンゲという貴族が最古の地主である」という記録が残されています。また、16世紀から19世紀頃のミドルハイムは、アントワープでも有数な避暑地として、富裕層の間で人気がありました。その後、1910年にアントワープ市がミドルハイムを買収すると、公園や大学、病院などが続々と設立されていきました。さらに、1950年には初めての国際彫刻展が開催され、ロード・クレイベックス市長の提案で、野外彫刻美術館も設立される事となりました。

1971年、アントワープの建築家レナート・ブリームがブレイム・パビリオンを設計・開設し、そこに小さくて壊れやすい彫刻作品を収めるようになります。そして2000年、敷地を約7ヘクタール拡張する工事が始まり、同年5月にはミドルハイムフークに新倉庫(ステファン・ビールによる設計)が完成しました。この改装によってコレクションは更に充実し、より多くの展示会を開催する事が出来るようになりました。

『Openingsfeest Middelheimmuseum 2012』

(オープニングパーティー ミドルハイム美術館 2012)

■ミドルハイム美術館の所蔵品

ミドルハイム美術館は、約30ヘクタールもの敷地内に約400点もの彫刻作品を収蔵しています。また、50年以上かけて収集してきた、約1,800点以上のコレクションも常設展示しています。1900年代から現代に至る世界中の彫刻作品が集まっており、中には世界的彫刻家のロダンやブールデル、日本人アーティストの奈良美智の作品などがあります。

そんなミドルハイム美術館のコレクションには、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な作品をご紹介していきます。

《バルザック》 1892-1897年 オーギュスト・ロダン

本作品は、19世紀を代表する彫刻家のオーギュスト・ロダンが1892年から1897年頃に制作した作品です。1891年、ロダンは文芸家協会から「フランスを代表する小説家・バルザックの記念像」の制作依頼を受けました。ロダンは、古い肖像画や写真だけではなく、バルザックに関する研究や手掛けた文学作品などにも目を通し、理解を深めた上でバルザックの精神性や才気を表現しようとしました。しかし、6年もの歳月をかけて完成させた作品は、様々な要因によって受け取られることはなかったのです。

本作品が完成するまでには、39点もの習作が存在しました。習作の一部は、日本の箱根の森美術館でも展示しており、その威容を示しています。ロダンと言えば、「考える人」などの作品からも見受けられますが、人間の人体を細部に至るまで緻密に表現している印象があります。本作品以外にも、バルザックの頭部を象った作品を残していますが、こちらは写実的かつバルザック像に近い形で制作しています。しかし、本作品は写実性を減らし、ロダンのバルザック観が反映された造形となっています。そうした人間の本質を見つめて製作する姿勢は、まさに「近代彫刻の父」と呼ぶに相応しいでしょう。

《弓を引くヘラクレス》 1909年 アントワーヌ・ブールデル

本作品は、1909年に20世紀彫刻のパイオニアとして知られる、アントワーヌ・ブールデルが制作した作品です。ギリシャ神話の大英雄ヘラクレスが行った『十二の試練』の一つ、第六の試練『ステュムファリデスの鳥』をモチーフにしています。それはまさに、英雄ヘラクレスがステュムファリデスの鳥を射貫かんとする様子を彫刻で表現しています。

ステュムファリデスの鳥は、ギリシャ神話に登場する翼の先が青銅で出来ている怪鳥です。伝説では、ペロポネソス半島にあるステュムファリデス湖畔の森に生息していたとされます。鳥達は集団で行動し、田畑に毒液をまき散らして荒らしたり、人間を襲ったりする事さえありました。ヘラクレスは、試練の一つとしてこの鳥達と対峙する事となります。撃退方法は、鍛冶の神であるヘパイストスによって作られた巨大な青銅の鳴子を使い、ステュムファリデスの鳥たちが怯んで一斉に飛び立った所をヒュドラの毒矢で射落とすという物です。生き残った鳥たちは、生息していた森へ二度と帰らなかったとされています。

太くて逞しい四肢・限界まで引き絞られた弓、そして「絶対に射貫く」という強い意志を感じる表情は、怪物との極限の戦いへ赴く、大英雄の姿が表現されています。その臨場感あふれる力強い姿は、鑑賞する側を神話の一場面へ引き込むかのような威容を感じます。

《ホッキョクグマ》 1920-1922年 フランソワ・ポンポン

本作品は、アニマリエの一人であるフランソワ・ポンポンが1920年から1922年頃に制作した作品です。ホッキョクグマをモチーフにした彫刻で、フランソワ・ポンポンの代表作としても有名です。骨格や毛並み、動作などは、ホッキョクグマのリアルな体型を表現していますが、思わず撫でたくなってしまう滑らかな表面が印象的で、シンプルながらも愛らしい魅力があります。また、脚の部分はホッキョクグマが歩く動作にはない物ですが、移動する際の躍動感を出すために、敢えてアレンジしているそうです。

フランソワ・ポンポンは、師であるロダンの「本質を捉えること」という教えに従い、シンプルな表現で本質を捉え、形にするスタイルを取っています。そうした本質を重視する姿勢は、まさにモダニズムの頂点と言えるでしょう。

■おわりに

ミドルハイム美術館では、散歩を楽しみつつ、名だたる巨匠たちの素晴らしい彫刻作品を堪能する事が出来ます。また、彫刻作品は、力強く、偉大さを感じる物から、思わず撫でたくなるような愛らしい物まで、幅広い種類を誇っています。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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